3-11話 学園祭(5)
【読者さまのコメント】
井上さん、大活躍!!!
おかげで滝川と仙道を追い出せたし、学校の名誉も守られた!
それにしても……部室でするのはあかん。
ただ問題発生! 三時間の空白をどうする?!
そんな時、素敵なアイデアが! これはものすごく楽しみだぞ!!!
ますますモテちゃう(汗)
◇◇ 十月三十一日 ◇◇
体育会系の部長会が開催された翌日の夕方、実行委員会室で井上さんは俺たちに今までの経緯を話してくれた。
「いやさぁ、確か九月末だったかなぁ。新人戦の準備で部活終わるの遅くなってさ、部室にみんなで帰ったら、サッカー部の部室からなんか女性の凄い声が聞こえてきたのよ。やっぱ私たちも女子だし、あんな声、聞いちゃうと恐いわけさ。で、恐る恐るクラブ棟の二階から一階に降りて、階段のところからその声が終わるのをみんなで待ちかまえていたら、サッカー部の部室の中から滝川と仙道がでてきたってわけよ。で、あの声ってもしかして…… エッチしてたの? って話になった訳ですよ。私たちからしたら聖域の部室で何やってんだよって、腹立って、いつか誰かに言おう言おうと思っていたわけよ! そんな時、学園祭準備で滝川たちの一派と仙道の問題から生じたいろいろなトラブルをかずくんと夏村さんが協力してなんとか打開しようとしていたのを見て、私たちも背中を押されたってわけですよ。それでうちの部長、部長もその声聞いちゃった派の人なんですけど、これは部長会への報告という流れになったんですよ。でも部長会、発議者ということで私たちも参加してたんだけど、あの時の滝川の顔、真っ青になってたんで、気持ちよかったなぁ~。うちの部の他の子なんて、ずっと階段の陰から声と画像をスマホで録画していたのが証拠になったんだ。しかし、エッチの時ってあんな声出すんだなぁて、みんなでびっくりしちゃったよ。というかみんな興味というか興奮しちゃって帰り道に何度も動画見て、みんなで盛り上がっちゃったけどね。ところで、かずくん、夏村さんもあんな声出すの?」
なぜか俺の肩を殴りながら、にらむ夏村さん。
俺、彼女にそんな話してませんから。
ここは俺も責任逃避、言い訳をしなくてはいけないと思った。
「しかしえげつない内容をペラペラよくしゃべれるねえ?! 聞いているこっちが赤面しちゃったよ。それと俺たちは法律で許される年まで不純異性交遊はしないの。だいたい、こんな話、この場所で言うのおかしいでしょう。家でもやりません!」
ここは実行委員会室、俺間違ったこと言っていないよなと確信はしていたが、ちょっと不安になりまわりを見回す。
他の実行委員は冷たい目線を送っていたが、内田さんたち三人は興味津々な視線だった。
そんな俺と夏村さんの反応を見て井上さんはこう言った。
「ふ~ん、そうなんだ…… 夏村さんとかずくんって、やっぱ、おもしろいよね!」
「何言ってんだよ。意味がわからない。てか井上さん、なんで俺のこと『かずくん』と呼んでるの?」
「いや、部室でもいつもみんなと『かずくん』で話しているから……? って、え? 今の間違い! あれ? 私、『かずくん』って呼んでた?」
「呼んでるよ…… まぁいいや。話を続けてくれないか?」
「部長会と並行して、旧サッカー部の奴らが、ビラを電信柱とか貼った周辺地域に、うちの高校でも部員数が多いバレーとバスケ、あと普段からサッカー部のこと大嫌いな陸上部と野球部の部員が協力してくれて『ご迷惑おかけしました。あれは校内の不穏分子がやったことで問題ありません、どうぞ、学園祭来てください』って、手書きでビラ持って一軒一軒しらみつぶしに配ってきたの。そして今朝、各部員の出身中学の後輩に状況確認したら、生徒や親も問題にしていないらしかったので、もう学校に対する悪評も大丈夫だと思うよ」
それにしてもすごい…… 井上さんたち、一日でそこまで手をまわしてくれていたのか。
井上さんの話を聞くと滝川たちがビラを配ったのは、高校近くの地域だけだと把握していたようだが、JRの浦和駅、北浦和駅周辺でもビラは貼られていたことを俺は知っており、各商店街の方々が旧ヤンキーの今までの行動から彼らを信じてくれていたため、自発的に剥がしてくれていたことを父からは聞いていた。
だからと言って、その話をここで言うことは、頑張ってくれた運動部員たちに失礼と思い、俺と夏村さんの胸の中にしまっておいた。
この情報を事前に伝えたとき、真っ先に喜んだのは夏村さんだった。
昨晩、父から聞いた情報を電話で夏村さんに伝えたところ、彼らのやってきてことを商店街の人たちは認めてくれたのだと、電話越しに少し泣きながら話す夏村さんが印象的だった。
俺と夏村さん、実行委員会役員たちはそれぞれ井上さんに礼を言った。
「いやいや、だってがんばっている人って応援したくなるじゃん、私達もクラブがんばっているし。だからあなたたちも救われて欲しいって思ったわけよ! じゃあ、あとはみなさんにお任せするとしてと…… 私、クラス戻って模擬店の手伝いしてくるから! 合唱はパーフェクト! かずくん、見に来てね! あと、『条件』忘れないでね! じゃあね、バイバイ!」
元気よく手を振ると井上さんは実行委員会室を出て行った。
(そうなんだ、かずくん、夏村さんとはいたしていないのね…… チャンスあるかも)
と思いながら、スキップで教室棟に井上さんは向かった。
「そういうことらしいですね」
と俺は言い、上郷地先輩を見ると、
「私の方も状況を確認してみる。今回は井上さんたちに感謝だ。さて、学園祭だけど、模擬店の方はいいのだが、体育館での発表でサッカー部員を除名された奴らの関連した催し物、主にバンドなんだがそのキャンセルで土曜日の三時間くらい枠が空いてしまったんだけど、どうするかねぇ?」
体育館での発表は、一日目の十一月三日(祝)は劇と二年の合唱、二日目の四日(土)は一年の合唱とバンド演奏であった。
前述のとおり、なぜか参加バンドには必ずサッカー部の二年がメンバーに入っており、今回の一件で全員が参加拒否扱いになったため、ごそっと午後の三時間が空いてしまったのだ。
いくら一年の合唱の間隔を広げても、さばける時間はたかが知れている。
すると、夏村さんがニヤリと笑い、こう言った。
「かずや。お前、バンドやれよ! 三時間ぐらいなら練習と思えば楽勝だろう? それだし、四日は土曜、練習日だろう? スタジオをキャンセルしてもらってこっちに来てもらえばいいじゃん」
確かに四日は土曜日なので俺以外のメンバーは都内でバンド練習がある。
それをキャンセルすればどうにかなるが、とはいってもすぐには仲間の都合もあり、対応できないのではと俺は思った。
その上、高校の学園祭である。
半プロのような誇りがあるメンバーが高校の学園祭ごときでやってくれるとは思わなかった。
俺は回答をちょっと待って欲しいと言った。
まずはメンバーに連絡をさせてほしいと言い俺は委員会室を出た。
嫌なこと頼まれたなぁと俺は思いながら総合棟と教室棟の間の渡り廊下を歩いていると、突然メールが来た。
それはバンドの旧メンバーの和田さんからだった。
彼は今ではプロのインストルメンタルバンド、"Triangle Square"(日本語では『三角広場』という意味らしい)のメインギターリストとして活躍していた。
久しぶりのメールであったため、俺はメールの返信ではなく電話をかけてみた。
すると、和田さんはすぐに電話に出た。
「おう、かずか。元気でやってるかぁ!」
「和田さん、お久さしぶりです。今は?」
「大宮に来てる。さいたまのな。それで、今打ち合わせが終わったところだったからメールしたところだったんだよ」
「えっ! 大宮? コンサートですか?」
「あぁ、ソニックシティで五日にな」
「確か九月に最初のアルバム出ましたね。聞いています!」
「そうか、ありがとう、それで感想は?」
「さすがって感じですね。やっぱ、プロ、ギターの音作りが僕らの時と違っていい音作ってますよね」
「よくわかったな……あ? なんかお前、元気なさそうだなぁ」
「いや、実はうちの高校の学園祭、十一月三、四日なんですけど、色々有って、四日、予定が開いちゃったんでお前のところのバンドの演奏やってくれないかって言われたんですよ。それで今から達也さんたちに相談しようかなと思ったんです。でも、さすがに日が近いから頼むの気が重くて……」
「おもしれぇなぁ。合わせもほとんどしないで一発勝負みたいだな。四日って何時から?」
「十三時からです。三時間も空いているんですよ。どうしようかなぁと思って……」
「う~ん、じゃあ、お前、俺とセッションするか? お前の腕前、久しぶりに聞きたい」
「でも、和田さん。プロですよ。高校の学園祭に出たりしたら契約の問題は?」
「いや、サプライズてことで無料でやっちゃえばいいし、入り口付近でCDの宣伝すれば営業活動にもなるから会社の方はオッケーでると思うぞ」
「いいですけど、プロが他人の曲を演奏となると著作権が……」
「俺が根回しとくっから大丈夫。演奏はギター二台でやるか」
「いいですね。和田さんと一度やってみたかったです」
「じゃあ、メールにやりたい曲書いて送ってくれ。マネージャーに著作権関係はやってもらうから。できれば洋物にしてくれ、邦楽って著作権キツイけど、洋楽はガバガバだから」
「了解しました。また追って連絡します。ありがとうございます!」
簡単に決まってしまった、俺のギターの師匠ともいえる和田さんとのセッション。
考えてみれば、ギターの基礎は音楽学校で習ったが、俺が小学校の時に今のバンドを組んで、いろいろと演奏を実践的に教えてくれたのは和田さんだった。
今は、"Triangle Square"というバンドでCDも出しているギターリストとの共演。
楽しみじゃないわけがない。
あとは、うちのバンドがどうなるかだ。
早速、俺はグループラインでメンバーに連絡をしてみる。
すぐに返信は来たが意外にも全員から了解が出た。
達也さんは弟の高校での演奏は嫌だなあと言ったが、弟の功にベースをやらせるぞときょんさんが脅迫したら渋々オーケーしてくれた。
前にも言ったが、達也さんの家は音楽家家族で、弟で俺の勉強仲間の功も今は勉強一筋だが、ベース、ギター、バイオリンと弦楽器はこなせるのだ。
なお、おーさんは時間が空いているので俺と和田さんのセッションにドラムで参加することになった。
おーさんはプロになった和田さんとのセッションができることを楽しみにしていた。
後のメンバーも参加できたら参加したいと言っていた。
さすがプロとのセッションはなかなかできるものではないからである。
時間の問題で和田さんとのセッションは十三時から一時間、そのあと、一五時までをうちのバンドが持つこととなった。
俺は、すぐに実行委員会室に戻り、上郷地先輩にバンドの了解が出たこと、二部構成とし、一部にプロのギターリストが参加してくれることになったことを報告した。
上郷地先輩は、プロが無料で参加してくれるのかと喜んでいた。
俺は上郷地先輩に、学園祭のパンフレットに差し込むハンドアウトの印刷準備を依頼し、羽田さんたちにパンフレットへの差し込みの依頼をした。
そして、いつもの席(仙道が使っていた席だが)に座り、曲の候補と演奏順を組み立てていった。
それをラインで畑中さんに報告すれば、学園祭用にアレンジした楽譜を起こして送ってくれる手はずとなった。
◇◇ 十一月一日 ◇◇
内田さんは体調を取り戻し登校してきた。
律儀に俺にまで心配かけたと詫びに来た。
こんな奴らだ、本当に付き合っていて楽しかった。
俺はと言うと休み時間になると、スマホにイヤホンをつけ、演奏曲を聞きながら畑中さんから送ってきた楽譜のアウトプットに書き込みを入れていた。
「かずくん、忙しそうだね」
声をかけてきたのは、多江ちゃんだった。
「あと三日しかないんだけど、いつも演奏している練習曲なんで、アレンジされた箇所を確認して間違えないように何度もブレインストーミングしているんだ」
「音楽もできるなんて知らなかったよ。もしかして学校の音楽の授業も実はわかっているんだけど、分からないふりしてたとか?」
確かに選択科目で音楽を選んだ人は普段の音楽の時間の俺の行動をみたら、そんなに音楽について知らない奴だと思っていたのだろう。
何度も言うが、俺は目立ちたくないので、知っている感を前に出したくなかったのだ。
「何も言わないってほんとうだったんだ。かずくんって、もう少し自分に素直でもいいと思うよ」
「いや、ちょっと中学時代の闇が……」
「でも、それを糧に今はいろいろ反省して行動しているんだから、もっと自分をさらしだしてもいいと思うんだ」
確かにそうだ。
自分を隠そうとしても、隠していたら全力は出せない。
いずれはみんなにバレることだ。
中学時代の反省をもとに逃げるのではなく、自分を出していけばいいのではないかと思った。
「悪い、俺本当にみんなに嘘な自分を出してきたかもしれない」
「それがわかればいいんじゃないの。がんばってね、かずくん」
結局は自分を出さないと、学園祭のステージも失敗すると俺は思った。
俺は多江ちゃんに礼を言い、再度、イヤホンをつけ、音楽に集中した。
内田さんには、体調と相談しながら俺の下で羽田さんたちと共同で作業を行ってもらった。
俺がワープロ入力したものを、内田さんに確認してもらい、打ち出した資料を羽田さんたちに整理してもらった。
そういえば、以前俺が引き受けたバナナとトウモロコシの購入の件だが、今朝、卸売市場で親父が荷物を受け取り、学校まで運んでもらった。
当時、自家用車と言えば、セダン、ハードトップと呼ばれる車が主流であったが、うちは商売柄、後ろの列の席を前に倒し、車内に多くの品物を置けるバンと呼ばれるタイプの車であり、後ろの窓に『高松生花店』と印刷されていたため、校門に車を付けてもらうのが恥ずかしかった。
まあ、そこまで考えていなかった自分が悪いのだが、俺と同級生数名で校門前で荷を受け取り、台車に載せ、教室の後方に並べた。
さすが市場から直接持ってきた商品である。
新鮮な商品からの香りは格別で教室内はバナナの甘い香りとトウモロコシの食欲を誘う香りに包まれた。
そして夕方、俺は販売担当者に全員召集をかけ、チョコバナナと焼きトウモロコシの作り方を実演し、担当者に実際作らせながら問題点を指導した。
そしてほぼ全員の完成度をチェックし、俺の今日のお役は御免となった。
ところで夏村さんはと言えば内田さんたちのヘルプに入ったり、クラスの合唱練習、そして実行委員代行として体育館での催し物の進行役を担当していた。
俺は体育館に行くと夏村さんたち数人が、当日の進行の確認を行っていた。
実質、体育館で合唱の練習が出来るのはあと二日しかないので、参加者も真剣にリハーサルを行っていた。
夏村さんは実行委員が作成した進行表に赤ペンで注意事項を書き入れながら熱心に周りの流れも含めて確認していた。
意外と参加者への言葉使いも丁寧なのでびっくりした。
たまには俺にもあんな話し方してくれてもいいんだよと思ってしまった。
今回の学園祭の準備を通して、一気に学園内の雰囲気も変わっていた。
真剣に学園祭成功のために取り組む旧ヤンキーたち、その姿を見て序盤は一歩引いていたが現在では中間層も負けじとがんばっている。
あとはうまくいってくれと俺は願った。
俺は夏村さんに『頑張れ』と心の中で思いながら体育館を後ろにしようとした。
そのとき、「か~ずく~ん!」とでかい声。
振り向くと井上さんと俺のクラスメイト数人が手を振っていた。
中には俺の勉強仲間もいて、完全に俺をからかった表情で手を振っていた。
俺は手を上げたところで夏村さんと目があった。
俺は瞬時にその手を夏村さんに向かって振ってみた。
夏村さんは急に下を向き、手でシッシと犬を追い払うような仕草で俺を追い出した。
井上さんたちはヒューヒューと茶化した。
本当に井上さんには今回は助けられた。
ここまで無事に来られたのは彼女の一声だったのではないかと俺は思った。
俺は改めて井上さんたちにも体育館の出口で振り返り、感謝の意味も含めて手を振った。
俺は三十日から、坂本の家に毎日お邪魔していた。
四日のセッションとバンドの演奏曲を練習したかったからだ。
いつも勉強仲間との勉強会で使わせてもらっていた(俺は最近夏村さんと勉強しており不参加)スタジオを貸してもらい、昨日、和田さんとバンドメンバーに送った演奏曲リストに基づき練習を始めた。
この部屋に来ては、そういえばここ一週間、勉強やってないなぁと思ったが、今は学校の方が大事と思い、練習に集中した。
暇な時間を見つけては、達也さんがベース、坂本のお父さんがドラム、お母さんがキーボードを弾いてへるぷをしてくれて、とても助かった。
俺も戦闘準備万端となった。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2021/12/06 加筆訂正
2022/08/07 改稿
2022/09/17 3-11話を2分割、校正、一部改稿




