3-10話 学園祭(4)
【読者さまのコメント】
内田さんが倒れて仙道がいい加減なことを喚き散らす!
そこに滝川が加わったから最悪だ!
高松は渋谷先生に声をかけてなんとか場を収めようとしたけれど……滝川、ひっどいなぁ。
嘘ばかり撒き散らして、しかも対話を拒絶するなんて。タチが悪い。
でも井上さんが動いてくれた?!
間もなく、横山たちよりも先に仙道が電話で呼んだ『修二』らしき男と仲間数人が実行委員会室に入って来た。
ドアをノックもせず、勢いよくドアを開け、ドタドタと入ってきたため、それだけで実行委員会室に緊張が漂ってしまう。
彼らは委員会室に入るなり、相手が川尻さん一人であることに気づき、さらに毒づいた。
そのなかでもリーダー格と見える滝川修二が川尻さんに口調を荒立ててこう言った。
「ゆきに因縁付けてきたの、お前か? はぁ~ん?! ヤンキー崩れの分際で。ふざけんなよ!」
川尻さんは落ち着いて彼らの上履きを見ると青のラインが入っていた、全員二年生である。
すると数分遅れて横山たち数人が実行委員会室にやってきた。
ドアは開いていたがノックをし、
「一年一組横山、他数名入ります」
と言い、ゆっくりと入ってきたのは滝川たちと正反対の印象を各委員に印象づけた。
しかし、落ち着いていた横山たちだったが、川尻さん一人で滝川たちと対応しているのを見て、一気に血が昇ってしまった。
「りい、大丈夫か? お前ら、すずに何しやがったんだ?!」
そこから口喧嘩の応酬が始まる。
当然、仙道は滝川の横に移動し、滝川たちと共闘した。
こんな状態だ、実行委員会室から一年生の委員はどっと出ていった。
一方、二年の委員は状況を確認しながら黙々と自分の仕事を続けていた。
そこにはただ一人の一年、河野が俺のラインに状況を報告してくれていた。
彼らの論点としては、滝川たちとしては、勝手に手助けに来て、勝手にぶっ倒れたのだから俺たちは関係ないと主張し、一方、横山たちは、内田はあくまでヘルプであり、率先して仙道がやるべき仕事まで任せておいて、調子が悪くなったら、罵声を浴びせかけ、内田さんを放置したのが問題ということだった。
こうなると間に入る人間がいないと、話はまとまらないのだが、現状、委員会室には中間層とヤンキーと残った実行委員しかこの場にいない。
残念ながら、上郷地先輩は今日は不在だった。
二年の委員も状況を知っているため、止めに入りたかったのだが、滝川たちの悪評を知っており、後々面倒に巻き込まれたくないと思ったのか横山たちの口喧嘩に入って仲裁する決心はつかなかったようだ。
横山も簡単に手を出すの男ではないことをヤンキー仲間は知っていたが、相手が高圧的に来られた場合、その対処策を考えなくてはならない。
ただし、元ヤンキーであるため、自己防衛であっても手を出してしまっては、第三者からは彼らが起こした暴力沙汰と取られかねない。
出口の見えない口喧嘩はさらにエキサイトしていく。
この激しい口喧嘩の攻防を見た川尻さんが夏村さんに電話し、状況を知った夏村さんが俺のところに走って来たというのが今までの経過だった。
夏村さんも内田さんが倒れて保健室に向かったことを電話で聞き、俺に連絡をしに来てくれた。
その後、夏村さんは川尻さんからの電話で横山たちに絶対に手を出さないように伝え、かずやがそちらに向かうまではがまんしろと伝えたらしい。
一方、俺は教室に横山がいないことに気づいた頃、夏村さんから電話があり、川尻さんから実行委員会室で横山が二年生とにらみ合っていると聞いたので、対応してほしいと連絡があったのだ。
多分現状では、第三者が入らないと話はまとまらないと思い、俺は教室から走り出て職員室に向かった。
走りながらスマホを見ると河野が事細かに状況をラインしてくれていたことに気づき、これからそちらに向かう旨を伝えた。
俺は、昨晩、河野から聞いた電話番号をもとに上郷地先輩に電話を入れ、なるべく速く現状をお話したいのでと、今日の面談を依頼したが断られ、明日の面談に切り替えた経緯があったが、緊急事態であるため、河野に上郷地先輩に至急連絡を取りたいとラインを送った。
河野は上郷地先輩に連絡を入れたが、今日は都内の進学塾に行っており、電話に出てくれないようだった。
ここはあの人にお願いするしかないと俺は思った。
俺は職員室に着くと、ある人を探したがそこにはいなかった。
職員室では、先生たちは総合棟の実行委員会室での出来事を知らずに、淡々と業務をしていた。
ここで多くの先生に負の情報を広めるのも得策ではないと思い、職員室を出た。
続いて生徒指導室に向かったところ、中には電気が灯っていた。
俺は、ビンゴ! と心の中で叫び、ドアをノックした。
「失礼します。高松和也、入ります」
ノックをして入ると渋谷先生は自分の机でワープロを打っていた。
「先生、ちょっと厄介なことが起きまして、仲裁をお願いしたいのですが……」
と尋ねると、渋谷先生は相変わらずの厚みのある声で、
「高松、まずは順番に経緯を教えてくれ」
と言った。
俺は現状を河野からのラインを見せながら報告し、仲裁を願い出たところ、渋谷先生は快諾し、席を立ちあがった。
俺と渋谷先生が実行委員会室に着くとまだ二つのグループは言い争いをしていた。
俺の後に入ってきた渋谷先生の姿を見ると、少し二つのグループのテンションは下がったが、滝川はこれ見よがしにこう続けた。
「渋谷先生、俺、こいつに暴力振るわれたんすけど」
すると横山たちは、
「暴力なんてふるってねぇ! 嘘つくんじゃねぇ、ざけんな!」
と否定した。
渋谷先生は横山たちが今までの行動から簡単に暴力を振るうことはないと確信していたようだ。
滝川は渋谷先生が自分の話を受け流していると気づいたのか、周りを見て、しびれを切らせこう言った。
「ゲスなお前らと一緒に学園祭なんかできるか! 俺たちは学園祭ボイコットだ! 戻ってきてほしいなら謝れ! いいな! 謝るんなら夏村が土下座に来い。そうでなければ俺たちは学園祭には出ねぇ! ああ、俺たちだけじゃねぇかもしれないぞ! おい、ゆき、帰るぞ!」
と言い終えると、先生に軽く一礼し、滝川たちは実行委員会室から出て行った。
し~んと静まる実行委員会室。
「よし、あらかた高松から事情は聞いたが、まずは順番に現在までの経緯を話してくれないか」
優しいが厚みのある声で渋谷先生はヤンキーたちに尋ねた。
ちなみに渋谷先生は音楽の先生で声楽出身である。
実行委員会室がある総合棟はすでに学園祭の準備をする文芸部の人たちも少なくなっていたのであろう。
渋谷先生の美声が誰もいない廊下に響いていた。
それから渋谷先生と横山たちとの話し合いは二十分程度続き、次に渋谷先生が滝川たちの言い分を聞くことになった。
俺は何かあった時のためにと渋谷先生と携帯の番号を交換した。
そして俺たちは実行委員会室を出た。
俺は事細かに状況を報告してくれた河野に礼を言い、委員会室を後にした。
意気消沈し、教室に帰る元ヤンキーたち。
「まぁ、お前たちが怒るのもしょうがないよ。でもたけし、よく手出さなかったな」
「ああ。でも悪いな、いつもこんな役目させちゃって」
「別にいいよ。お前たちがやったことは絶対に間違ってない。間違っているのはあいつらの方だよ!」
クラスに戻った俺たちは、すでに屋台の材料を教室の後ろの壁にかたして誰もいなくなったクラスに戻った。
そして俺は夏村さんに電話した。
夏村さんは救急車に乗り、内田さんに付いて行ったが、病院での診断は過労とのことで数日の入院が必要とのことだった。
俺は心配しているであろう横山たちに内田さんの状態を報告したところ、みんなひと安心した。
しかし、まだ時間も早いのに準備を終わらせて担当者は帰ってしまったのかと俺は、再度廊下に出てみると、クラスの隣にあるトイレから元ヤンキーの君島光夫が出てきたので、どうしたのかと聞いてみた。
すると、先ほど仙道が一人で教室に戻り、ヤンキーから暴力振るわれたとか、もうこんな状態じゃあ、学園祭なんかできないって言って泣いて出て行ったこと、そしてそれに呼応した中間層が一斉に帰っていった、ということだった。
おれは嫌な感じを覚え、そのまま、隣のクラスに行くと、幸太郎他数名のヤンキーだけが作業をつづけており、同様な状態が他のクラスにも波及していることがわかった。
滝川が言っていた『ボイコットは俺たちだけじゃねぇかもしれないぞ』の真意がわかった。
これは厄介なことになったと思った。
一気に旧ヤンキーと中間層との間に確執が生じてしまったと思った。
その上、時間がない。
学園祭開催まであと九日のことであった。
◇◇ 十月二十六日 ◇◇
翌日、仙道は学校を休んだ。
渋谷先生は昨日、俺たちと別れた後、滝川たちと会いに彼の教室とサッカー部の部室を訪れたそうだ。
滝川たちをサッカー部の部室でみつけ、話し合ったようだが、彼は全く人の話を聞く様子は無く、自分の主張を繰り返すだけだったという。
仙道はたちの悪いことに、実行委員会室から帰った後、一年の全クラスで同様な扇動を行ったそうだ。
そして、やった本人は休んでしまったため、情報が一方通行と化し、彼女の行動は正当化されてしまった。
この日の昼休み、上郷地先輩が俺の教室を訪れてくれた。
眼光は鋭いが口調は優しく、何でもこの人なら言えてしまうと感じさせるオーラをまとっていた。
夏村さんにも元ヤンキーのリーダーということで同席してもらうことにした。
「昨日は申し訳ない。不在の間にこんなことになっているとは思わなかった」
「いえ、対処できなかったぼくらも悪いんです」
俺は昨晩、上郷地先輩と電話が通じたため、粗方の状況を説明済みであったが、改めて現況を報告した。
上郷地先輩からは滝川は本日登校していることを確認済みで、彼とは隣のクラスのため、タイミングを見計らい、滝川から話を聞くということにするとのことだった。
それよりもまずい現状を知らされた。
一部体育会系部員のボイコットで参加・出店を取りやめたいというクラスも複数出てきたことを知らされた。
昨日、仙道さんが呼び出した滝川という男、仙道さんの彼氏でサッカー部の部長であり、他の体育会系の二年にも同調するよう言いまわったらしい。
しかし、滝川の悪評から二年はあまり影響はでていないとのことだった。
中間層と一言でまとめても、ヤンキーとは違い一枚岩ではない。
文芸部も居れば、帰宅部もいる。
全てが同調していないのは不幸中の幸いである。
俺たちはまず現在参加してくれる生徒だけでも準備を続け、滝川たちのグループには別に対応策を練ることでどうかと上郷地先輩に尋ねたところ、それでよいだろうと言った。
その時、ふと、林間学校の夕食づくりでの元ヤンキーたちの活躍を俺は思い出した。
俺は夏村さんに、ヤンキーを総動員して模擬店や劇など手がかかる作業のサポートをお願いした。
そして、仙道が担当していた作業を俺が担当し、内田さんのヘルプに入っていた羽田さん、曽根さん、川尻さんが俺のヘルプにつくこととなった。
上郷地先輩は緊急で各出品責任者を招集し、現状の人員でも学園祭は開催し、人数が足らない場合は実行委員会に相談して欲しい旨要請することにした。
そこで発生した依頼にもとづき、夏村さんはヤンキーたちを割り振ることとなった。
いざ、動き始めると、元ヤンキーたちの統率力と行動力が目に付いてくる。
さすが夏村さん、ヤンキーたちの適性をおわかりのようで適材適所、うまく配分・分担していた。
仙道の話を真に受けた中間層の生徒たちは元ヤンキーたちのがんばりを見ているうちに、彼らに対する不信の念を解き始め、彼らに引っ張られて頑張り始めた。
こうなると参加を不安視していたクラスも考えを改め、参加の方針を固めてくれた。
しかし、こうなってくるとアンチの収まりがつかないのが世の常。
滝川のグループは頑なに参加を拒否してくる。
初回の滝川と上郷地先輩の面談は滝川の意見を上郷地先輩が聞くに終始したため、改めて二十七、二十八、二十九日と滝川、横山の代表同士の話し合いを設定してくれたのだが、滝川は最終的には全日程参加を拒否した。
その上、滝川と一部の二年生サッカー部員たちは実行委員会室で横山たちが暴力を振るったとしたビラを校内に貼り、揺さぶりをかけた。
しかし、すでに学園祭へのヤンキーの貢献具合からそのビラを信じるものは少なく、校内への影響は最小限で収まった。
当然、ビラをそのまま放置するわけにもいかず、奴らが貼っては委員会が剥がすのいたちごっこが続いたが、反響の少なさからしびれを切らした滝川たちは、校外にまでビラを張り出し、学園祭のみならず学校自体の印象をぶち壊し始めた。
そこまでくると、俺たちでは対処できない状況に陥った。
渋谷先生にも相談したが、八方ふさがりであった。
◇◇ 十月三十日 ◇◇
学園祭まであと、四日。
俺と、夏村さん、上郷地先輩と委員会役員数人は実行委員会室で頭を抱えていた。
校外への対応策と滝川たちの抑え込みに苦慮していたのだ。
特にうちの高校に近い大久保地区では、ビラを信じ、学園祭への参加を禁止するPTAからの指示も出た学校もでたという。
元々うちには生徒会がなく、学園祭の実行委員会が対策を講じている時点でレベルが知れているのだが、実行委員会には生徒を指導する立場にない。
学校側に委員会が対策を提示する権利もない。
「俺が滝川に土下座するか?」
と夏村さんが言いだした。
「今さらそんなことをしても校外的な案件を抑えることは出来ないよ。無駄だ」
上郷地先輩は落ち着いた声で言った。
すると、実行委員会室のドアをたたく音がした。
委員会役員の一人が応対すると、中に井上さんが入ってきた。
「お困りの様子ですな? 誰かのお葬式ですか?(笑)」
「今日はそんな冗談に乗れる状況じゃないんだよねぇ。ところで何?」
少々怒り加減で俺は対応すると、井上さんはこう言った。
「まあまあ、かずくん、まずは話を聞きなさいよ。お悩みのこと、私、解決方法知ってるよ。良かったら、すべて私たち有志が解決してもいいんだけどなぁ~! どうする? さあさあ!」
そんな簡単に対策が講じられるのかと疑心暗鬼になったが、今更迷っていてもしょうがない。
こちらは藁にも縋る気持ちだ。
「お願いしたいのはやまやまなんだけど。そんな良い作戦あるの?」
「あるよ。私たち、この辺で顔広いんで。オッケーって言ってくれたらすぐ対応するよ。準備もできてるから」
「準備もできてるの? 本当に信じて大丈夫?」
「信じて大丈夫だよ! その代わり、条件!」
俺を見ながら、『条件!』とかいうものだから少々心配になった。
「なんか、凄くこわいんですけど……」
と俺が井上さんに聞くと、井上さんはニコリとしながら夏村さんを見ながらこう言った。
「その条件だけど…… 夏村さん、学園祭の後、かずくん一日借りていい? それ条件、どう?」
全員、きょとんとした顔になる。
夏村さんは、
「まあ、いいけど、それでいいのか?」
と即答した。
条件に出された俺の立場はどうなんだ!、でも井上さんはうなずき、
「よし! これで条件成立! それじゃあ、早速取り掛かります。のちほど、条件、よろしくね!」
と、ニコニコしながら部屋を出て行った。
結局、井上さんは何をする予定なのかは俺も夏村さんも現時点では解らずじまいだった。
解決策とは何なのか……?
条件とは何なのか……?
『かずくんが苦しんでるんだから、一肌脱がなくっちゃね』
と言いながらニコニコと部室に向かう井上さんだった。
その日の夕方、緊急の体育系クラブの部長会が開催され、学園祭への全面協力と校外に嘘の情報を流したサッカー部の無期限活動停止が決議され、三分の二以上の可決により翌日発表となった。
また、滝川とともに学園祭の妨害活動を行ったサッカー部員六名の退部処分も同時に行われた。
そして校内(この場合、男子サッカー部の部室内)での不純異性交遊に対する女子バレー部からの告発があり、滝川と仙道の処分が職員会議へと委嘱されたのだった。
『まずは第一段階終了! 次行くよ!』
と言い、井上さんは次の作戦を仲間に指示したのだった。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
面白い・続きが気になる等思われた方は、評価ポイント(↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)を入れて頂けると作者の励みになります。
また、ブックマーク登録・お気に入りユーザー登録の方もよろしくお願いします。
編集記録
2022/09/15 3-9話を2分割した。
2022/09/16 校正、一部改稿




