3-7話 学園祭(1)
【読者さまのコメント】
学園祭。それは高校の一大イベントである!!!
高松は事あるごとに「目立ちたくない」と考えているけれど、いったい中学時代に何があったのだろう?
交友関係もよくわからない部分があるし……。
とりあえず準備は順調に進んでいる、けれど?!
◇◇ 九月四日 ◇◇
始業式の翌週の月曜日
二学期に行われるイベントのクラスの委員を決めた日にさがのぼる。
その時に、林間学校、体育祭の実行委員のほかに、十一月に開催される学園祭の実行委員も決めていた。
前述の通り、学園祭に最初から興味を持ち、自分から手を挙げた仙道雪に女子は決まったが、問題は男子だった。
やはり誰もが、公私とも忙しいという表立った理由と、面倒なことに巻き込まれたくないという裏の理由が交錯していた。
仙道が先生に代わり、司会を務め、
「立候補いませんか?」
と問いかけるが沈黙が続く。
すると、沈黙を破るように、教室では仙道さんの横に座る小川順也が手を挙げた。
えらい! 自分から立候補かよと感心したが、完全にその期待は裏切られた。
「こう仕事やれる人って、やっぱ成績優秀者というのがドラマとかでよくあるパターンなので、ここは高松くんがいいと思いま~す!」
おいおい、面倒なことを人に押し付けるな、その上なんで俺なんだよと思った。
小川は発言力があり、クラスのムードメーカーでもある。
その上、教室では教壇前である最前列のど真ん中に座っており、こちらを振り返り、話し始めると彼の意見は教室全体に容易に波及する。
これは厄介だ。
やつが言い出すと、それにクラス全体の意見が引っ張られる恐れがあると俺は思った。
ここは歯止めが必要だと俺は思った。
俺は手を挙げ、こう反論した。
「いやいや、何をおっしゃいます? 俺がいざ実行委員になって、みなさんにお願いごとしても、皆さんは俺の話なんか聞いてくれなさそうだし。仙道さんも多分、俺なんかと一緒だと嫌だろうしね」
こう言うと、教室内は爆笑となった。
よし、教室内の雰囲気はこちらに動いたと思った。
そして、俺はこう続けた。
「だったら、小川君。君がやってみたら?」
「はぁ?!」
立ち上がりながらこちらを睨む、小川。
俺も彼を睨みながら、こう言った。
「仙道さん。俺と小川、どっちがいい?」
俺は仙道に二者択一させた。
ここでは俺はあえて『どっちがいい?』と彼女に質問した。
当然返ってくる言葉は、
「そりゃ、小川でしょう」
はい、これで俺は消えた。
この方法は俺の自尊心は痛むが俺を選択肢から消すには一番いい方法だと思ったからだ。
『どちらと一緒に仕事するか』と質問すれば、仙道さんには俺を選択する余地を与えてしまうが、『どちらがいい』と質問すれば、そりゃ外観が劣る俺よりは人気者の小川を選ぶだろう。
そして重要なのは、小川を選択したのは俺ではなく、仙道であるということだ。
俺が選んだわけではないため、俺は決して悪者にはならないのである。
しかし、意外な落としどころを仙道は提示してきた。
「だけど、小川って、言うだけで自分から行動しないから、委員会一緒にやったら、後々大変そうだし、やっぱ無しね」
再度、教室内は大爆笑となった。
これは小川にとっては結構な痛手だ。
ごめんね、そこまで想定しておりませんでした。
彼はこっちを睨みながら、チッと言い、席に着く。
小川くん、言ったのは俺じゃなく、仙道だよ。
恨むなら仙道を恨んでね。
この後も、仙道は自分の知り合いを推薦し、承諾を得ようとしたが全て断られ、無駄に時間だけが過ぎていった。
彼女がリストアップしてきた面子を見るとクラスのイケメンばかりを推薦していることがわかってくる。
そうなるとクラスでも人気のない顔もイマイチなメンバーである自分は推薦されないであろうと安心してくる。
しかし、仙道、どんだけ男子に信頼されてないの? と思ってしまうが、単に委員に関わりたくないと思っているだけなのかもしれない。
その真相は推薦を拒否したイケメンたちにご意見を頂戴しないとわからないところである。
実はこの時点で仙道には二年のサッカー部の部長と付き合っており、仙道も彼氏も適当な奴らだという情報を中間層の奴らは知っていたそうだ。
実行委員の職だと、片方がチャランポランだと、こちらに必ず仕事が回ってくるわけで、絶対に組みたくないというのがみんなの意見だったらしい。
さんざ、拒否された挙句、仙道は切れながらこう言った。
「もう! 誰もやってくらないなら、河野くん。うちの部活で率先して色々と動いてくれるから委員として推薦しま~す」
教室内は仙道が意外な人物を選択したなと思ったのか、視線が河野に集まった。
確か、河野祐希は美術部で一年ながら副部長をしていることを後から聞いた。
その上、生徒会が無い我が校で学校側との折衝窓口となる職員会議に対する部の窓口業務も行っていることも知った。
眼鏡をかけ、髪を七三に分けた彼は拒否することもせず、まぁいいよと言いながら、引き受けた。
仙道も彼なら拒否しないと踏んだのか、最終手段として選択したのであろう。
クラス内の男子は、委員が決まって安堵した様子だった。
河野は教室では多江ちゃんの隣の席で、元来無口な男ではあるが、必要な時は中間層の中でも俺たちとよく会話をする仲ではあった。
そのため、俺たちのような少数派にとって、情報源になってくれる人物であり、俺はここは適任が見つかったのではないかと安心した。
委員が中間層で固められてしまうと、こちらの言い分が通らなくなるし、何も知らないうちに色々と決められてしまうのも困る。
何かの為にも窓口役は作っておいた方が良いのだ。
河野には悪いが、その役目をお願いしたいと俺は思った。
担任の渋谷先生が言うには、この日の夕方に開催される初回の委員会で開催要項を決めるとのことだった。
あとはクラスの大半を占める、旧ヤンキーと中間層で役割を話し合っていただき、残り物の指示された担当業務を目立たなく、手を抜いて参加させていただくことにしようと思った。
とはいえ、先ほどの一件、小川の一言が気になった。
俺は成績優秀者の件やヤンキーとの関係性を含め、最近目立ち始めてしまったのではないかと思った。
なるべく表に立たず、裏でコソコソしておきたかったというのが本音であった。
夏休みを過ぎて一気にヤンキー達との交友関係が出来上がってしまったが、俺は小中学校を通じてこんな人数の知人と仲良くした経験がなかった。
というか、俺自身が原因で交友関係を壊しまくってきてしまった。
特に中学時代に起こした二つの事件は俺に目立たぬように行動しろと教えてくれた要因だった。
俺は目立つとろくなことを起こさないことは自覚があったからだ。
めだちたくないなぁと思いながら周りを見回すと小川の視線がまだこちらに向いて睨んでおり、それが苦痛だった。
ため息をつきながら、視線を机の上においた両手に視線を移動させたとき、
「大丈夫、高松君は悪くないよ。うまい対応の仕方だったよ」
という声がかすかに聞こえた。
俺はゆっくり顔を上げ、その声の方向に目を向けると、声の主は隣に座る井上さんだった。
井上さんは両手でガッツポーズをすると席を立ち、多分バレー部員のいるクラスに向かった。
「俺は悪くないよな……」
さて、その日の夕方開催された学園祭実行委員会での話だ。
うちの高校のカースト構成は中間層対ヤンキーの比率が1.5対1でほぼ拮抗しており、このことが校内の安定性を維持させていた。
しかし、学園祭実行委員会の大半は中間層で構成されるに決まっている。
なぜならヤンキーに委員会をマネジメントしていくノウハウがある訳ないからだ。
彼らは縦割り社会であり、トップの人間がマネジメント能力に優れ、下部のメンバーは実行力に長けている。
よって、ヤンキーは実行委員より業務を担当した方が活躍できるようにチーム内で育てられてくるからである。
林間学校の横山しかりだ。
一方、中間層、特にスポーツ系の奴らは自分で試合を組み立てるためのマネジメントが要求される。
よって、ストーリー仕立ては中間層にヤンキーはかなわないのである。
だが、全校の委員の中には少なからずヤンキーも含まれており、そこで中間層との間に方向性の違いがぶつかり合ってしまう。
中間層は自分たちでストーリーを組み立て、自己満足の世界で楽しめれば良い主義で、ヤンキーはなんにでも一生懸命、学校一丸主義を目指す。
そんなことだから学園祭のテーマを決めるだけでも二時間も使ってしまう。
というのも、今年の学園祭の実行委員長で二年の上郷地玲香先輩の存在があるためであった。
彼女は昨年の学園祭の実行委員会の副委員長で、成績が入学以来トップから落ちたことがない才女である。
今年の学園祭では昨年の副委員長経験者ということで実行委員長に選ばれたのだが、彼女の進め方は双方の意見をすべて出させた上で話をまとめるため、時間はかかるが、後腐れを残さない。
テーマも最終的にはしょぼいものに決まったが、双方満足いくものになったらしいので、ここでは不問にする。
それから毎日、時間をかけながら、実施要項を決めていった。
◇◇ 九月十一日 ◇◇
一時限目のホームルームで、時間をかけて練り上げられた学園祭の実施要項が発表され、クラスの催し物を決めることとなった。
結局、委員会では学園祭を全員参加で盛り上げたいという、少数派のヤンキー委員の意見が通り、各クラスで模擬店と発表を一つずつ実施することになった。
模擬店はその発表を通じて、店の設計、運営、経営、販売等を学ぶために良いのではないかということだった。
収益が出た場合は、学校を通じて日本赤十字に寄付するので、必ず会計役を設定しろとは抜け目ない。
また発表は、参加者、裏方等の協力で一つのものが出来上がることからチームワークを養えるということだった。
さすが、上郷地先輩。
実施の目的まで明確に提示してきているところから説得力があり、きっちりした性格なんだなと思った。
発表はクラスとして劇か合唱のどちらかへの参加が必要であった。
そして、うちのクラスでは体育館で行われるクラス別の合唱に参加する事となった。
俺は最初、発表が劇か合唱だと聞かされた時は心配した。
なぜなら、選択を誤り、発表を劇とした場合、準備が大変になることが予想されるためである。
例えば、衣装の準備をしたり、舞台の装飾をしたりと業務は多岐にわたる。
合唱を選んだ皆さん、グッジョブ!
さて、模擬店であるが、加工の楽なものにしたいという多くの声から、焼きトウモロコシとチョコバナナにすることとなった。
材料の購入だが、馬鹿正直に近所の八百屋でトウモロコシとバナナを買っては高くつく。
原価が高いからと言ってトウモロコシとバナナを半分で提供するのもお客さんに対し味気ないものになってしまう。
また、評判も悪くなる。
ここは安く仕入れし、見栄えを良くして売るのが良いと俺は思った。
俺は手を上げ、トウモロコシとバナナの購入を任せてもらうことにした。
実は生花市場と青果市場は一緒に設営されている場合があり、父が行っている市場は両方取り扱いがあるため、市場価格で購入することができるからだ。
そうなるとトウモロコシ、バナナは店で買うより六十パーセント近くの値段で手に入れることができる。
まあ、これでクラスには恩を売ったので他のお役は免除かと思ったが、案の定、焼きトウモロコシとチョコバナナの当日の加工・販売担当も任された。
しかし、合唱は免れることができたのは幸いだ。
俺はバンドのボーカルなんで歌うこと自体は嫌ではないんだけど、合唱とは発声方法が違う。
その上、バンドのボーカルは自分が目立ってなんぼの世界である。
現状、みんなで仲良くは無理がある。
とはいえ、小学校の時は合唱をやっていたことがあって、以前、夏村さんとの初めてのデートの時のお話しに出た池袋芸術劇場には、その時に舞台を踏んだことがあったのだ。
さて、その後は、模擬店の教室内を装飾する係と調理道具・資材一式を準備する係、調理・接客する係、そして合唱担当に分かれて作業は始まった。
俺は調理・接客担当になったのだが、焼きトウモロコシとチョコバナナの作り方は自宅の近所にテキ屋のおじさんが住んでおり、子供の頃、そこでいろいろ仕込まれており、プロ並みと自負していたため、作り方を学園祭前にメンバーに対して伝授することになった。
【テキ屋:縁日や盛り場などの人通りの多いところで露店や興行を営む業者のこと】
と、自分で勝手に盛り上がっているところで、勉強仲間は?
彼らは全員、合唱を選んでいた。
歌うだけであまり時間を取られないというのが理由だそうだ。
また、俺一人かよ……
その後、林間学校、体育祭、中間試験とイベントがあったため、俺たちはほとんど作業らしい作業はしなかったが、実行委員は準備を着々と進めていた。
その間、いつも一緒にいる夏村さんに学園祭は何に参加するのかと聞くチャンスはあったのだが、何か作業をするたびに聞くのを忘れてしまっていた。
河野は書記をしているらしいが、作業が早く的確であると上郷地先輩からの信頼も得ている様子だった。
仙道というと、最近仲良くなった同じ中学出身の元ヤンキーの内田さんと連れだって委員会に出かけていた。
内田さんとはカウンセリングで話したことは有ったが、自分は率先して人の前に立って仕事をするタイプではないので、縁の下の力持ちになりたいと言っていた。
それで仙道さんのヘルプを選んだのか……
俺はこのこと自体、いいことではないかと思っていた。
人の役に立ちたいという気持ちを大切にしてあげたいと思い、見守っていた。
しかし、これがこれから始まる学園祭準備の大事件の引き金となるとは思っていなかった。
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編集記録
2021/12/03 内容更新
2022/07/30 改稿
2022/09/13 校正、一部改稿




