3-4話 林間学校(2)
【読者さまのコメント】
夏村さんと二人きりの思い出ができていない……だから高松は夏村さんを早朝に誘った!
二人が自然とイチャイチャしてて嬉しいし、何より高松が夏村さんを真っ直ぐ好きだって思ってくれるのがすっごく嬉しい!
井上さんはストーカーだと思う!(コラ)
部屋に戻り、最近カウンセリングを通じて話はしていたが、まだそれほど全部のヤンキーと仲がよいわけでもないので、俺は部屋の端っこの方で一人テレビを見ていた。
しかし、なんでこの部屋には男女がこんなに集まっているんだ。
普通、ホテルの部屋は男女別れて滞在するもんじゃないのかと俺は思った。
そこに横山・笹川が部屋に帰って来た。
するとメンバーは横山たちに声をかけた。
「おっ! たけしさん、はるひさん! いなくなったバカ奴ら、見つかって良かったですね。お手柄っすよ!」
「いや、あいつら肝試しにかこつけて逢引しやがって!」
「まぁ、見つかったことで良しとしましょうよ!」
全員、この結果には満足している様子だった。
すると、横山は、鼻の下を右手の人差し指でこすりながら、こう言った。
「そこでだ…… なつさん!」
横山が呼ぶと夏村さんが部屋に入って来た。
「わりぃ、たけしに呼ばれた」
例のごとく、全員で『ちわ~!』のかけ声。
もうやめません、それ?
別のカーストの人間がここにいるんですけど。
すると、横山は携帯を取り出す。
「実はキャンプファイヤーの時のフォークダンスの曲、先生たちにもらってきた。俺はここでこの曲を流そうと思う。なので……」
と言い、俺を見る横山。
「なので?」
俺は自分を指差し、
「もしかして、俺と夏村さんとここで踊れと?!」
「正解!」
と言うや否や横山は音楽を流し始めた。
いつの間にか部屋には一年一組と二組のヤンキー総勢二十数名が集まり、手拍子を始めた。
恥ずかしい思いはあるが、夏村さんと一緒に踊りたい気持ちが勝ってしまい、俺は立ち上がり、夏村さんに手を差し出し、
「一緒に踊ってくれませんか?」
と言うと、一瞬、間をあけたが、夏村さんは『うん』と一言いい、立ち上がった。
「実は俺、フォークダンスの経験が……」
「大丈夫、俺がリードする」
そして俺が夏村さんにリードされる形でダンスは始まった。
音楽に合わせ手拍子するヤンキーたち。
キャンプファイヤーの時では味わえなかったであろうフォークダンスを味わうことが出来た。
ターンするたびに俺の顔にかかる夏村さんの髪が俺をくすぐっているかの如く気持ちを高ぶらせた。
一曲終わるたびにヒューヒューと声を掛けるヤンキーたち。
そこには横山、笹川の顔も見える。
そんなことを何分していたのだろう。
ドアが強めにノックされ、渋谷先生登場。
「お前らうるさいぞ! 早く風呂入って来い!」
と言われると、みんな途端に手拍子を止め、お互いを見回し、一気にワッと笑い出す。
「おもしろかったな! まあ、今回はこれでいいや!」
夏村さんはご満悦のようだった。
部屋を出ていく際に、渋谷先生が俺に目配せしたように感じたため、即座に立ち上がり、部屋の外に出た。
すると、部屋の外に渋谷先生は待っており、
「お疲れ様。夏村とは楽しめたか?」
と言った。俺は、
「もしかして音源を横山にコピーしてくださったのって渋谷先生ですか?」
というと、渋谷先生は別の部屋に歩きながら、俺に背を向け手を振っていた。
「ありがとうございます!」
と俺は一礼し、先生に感謝した。
風呂は班ごとに入るが、ここでの話はR15に引っかかりそうなのでやめておく。
部屋に戻り、また大騒ぎするのかと思ったがヤンキーたちは疲れたのかすぐに寝てしまった。
今日、こいつら一日がんばってくれたもんなぁと俺はやつらに感謝した。
しかし、寝付かれない……
部屋で夏村さんとフォークダンスなんて想像もしていなかったからだ。
時刻は二時。
俺はホテル一階に降り、すでに閉店した土産物屋の横にある自動販売機でやめればいいのにブラックのホット缶コーヒーを買い、隣のベンチで飲み始めた。
そして天井をふと見上げた。
結局、林間学校に来て夏村さんと二人で会話が出来たのは不明者が出た時の対応の時とフォークダンスの時だけだったなあ。
なんか、もう少し夏村さんに思い出作ってあげたいなぁと思い、深くため息をついた。
自分も、思い出が欲しかったんだけどね。
あのフォークダンスとは別の……
その時、夏村さんと自由研究を考えている時に偶然見つけた動画を思い出した。
「あれなら、夏村さんとの二人の思い出になると思う! でも、どうする……?」
チャンスは早朝だけど、いまさら思い付きで夏村さんを起こすわけにいかないしなぁと思った、その時だった。
「なんか俺のこと言ってたか? ん? 眠れないのか?」
声を掛けてきたのは夏村さんだった。
「いや、昨晩、あんなに楽しかったから、かえってねむれなくなっちゃいましたよ」
「俺もそうかな(笑)」
そう言いながら夏村さんはベンチの俺の横に座った。
「何か飲む?」
「じゃあ(俺の飲んでいるものを眺め)、俺もブラックのホットで」
「了解!」
夏村さんに缶コーヒーを手渡すと二人とも目は合わさず、ただ漠然とある一か所を見ていた。
不思議なことに二人であそこと指示もしていないのにそのある一か所を眺めていたように感じた。
俺はそこから目を外さずにこう言った。
「しかし、意外とヤンキーたち、いいやつらですね」
「いいやつらだろ」
長い沈黙……
その長い沈黙の間にじっと眺めている一か所に吸い込まれていくような錯覚がした。
その時、沈黙を破り夏村さんは俺の目を見ながら、少々暗い声でこう言った。
「このまま、二人でどっか行っちゃうか?」
おれはこの状況下で否定できる理由を持っていなかった。だから、
「それもいいかもね」と言ってしまった。
すると、夏村さんは表情を明るくし、
「本当か、じゃあ行こう!」と返答してきた。
二人だけでどこかに行きたい……
それは否定できない……
だって、俺もそう思っているし……
でも、それは周りに迷惑がかかる……
「簡単に言うなよ。たけしたちに迷惑がかかるよ……」
そう言うことしか俺にはできなかった。
逃げなのかもしれないが、これしか俺に今言うことができる逃げ口上はなかった。
しかし、意図をくんでか、夏村さんは笑いながら、こう言った。
「それもそうだな」
長い沈黙……
突然、俺のスマホの画面が明るくなり、『今朝の天気 快晴』と表示された。
俺はこれを見るなり、今度は俺が口を開いた。
さっき思いついた、例のことを実行してみようと思ったのだ。
「夏村さん、この後眠れる?」
「いや、何で?」
「夏村さん、朝五時、玄関に集合ってどう?」
「そんな朝早くにか?」
「いいこと思いついたんだ。一緒に出かけるんだよ!」
「そんな朝早く、二人で出かけてまずくないか? 何しに行くんだ?」
「二人だけの思い出作りだよ。自由研究の一環ですという言い訳もある。でも言い訳じゃなくて本当の理由なんだけどね」
「なんだかよくわかんないけど、それだったら、気兼ねなく行けるな! うん、行く!」
夏村さんと別れて俺は部屋で二時間、携帯のゲームで時間を費やした。
そして五時少し前に玄関に着くと夏村さんは既に待っていた。
「ごめん、待った?」
「いや、ちょっと先に着いただけだ」
「じゃあ、行こうか!」
俺は夏村さんを出口に待たせて、受付カウンターで眠そうにしている係員にこう告げた。
「学校の自由研究で、ちょっとこれから五色沼に行きたいんですけど、どう行ったらいいですか?」
ホテルから檜原湖を周回する道路に出る。
街路灯は観光地とはいえ、さすがに少ない。
また、晩夏の高原の朝は寒い。
俺は夏村さんに寒くないかと尋ねたが、大丈夫と明らかに我慢した顔で答えた。
「なんだ、お前、我慢できなくなって、野外でキスとか初エッチとか考えたのか?」
「そんないかがわしいことではありません!」
ホテルから五,六分も歩くとバスの停留所『裏磐梯高原駅』があり、五色沼入口観光プラザが見えた。
駐車場は街路灯も多く、間違えずにたどり着くことができた。
観光プラザの横を通り、遊歩道の入り口にたどり着くと俺は立ち止まった。
この雰囲気は以前見た映像と同じ雰囲気であると思った。
「『五色沼』か? 確か今日の午前中の自由研究で行く予定だった場所だよな」
「そう、実は夏村さんに見せたいものが出来たんだよ」
既に夜はうっすら明け始め、白々と輝く星たちが名残惜しそうにがんばって輝いていた。
空気がきれいなせいか、『星をちりばめた』という言葉かぴったりな星空だった。
「めちゃくちゃ、星きれいですね!」
「うん、とてもキレイだ。こんだけの星の数、俺はみたことないよ」
そして時計を見ると五時十四分。
俺は夏村さんの手を握り、湖畔に誘う。
そして、スマホで方角を確認した。
ここなら、山から太陽が昇るところを見ることができるはずだ。
俺はスマホの録画のスイッチを入れる。
そして、柳沼の湖畔にスマホを向けた。
稜線が白く輝き、山の上から日が顔を出すと一気に周辺は明るくなり、周りの木々が深い緑色のまばゆい発色を醸し出す。
「夏村さん、沼を見て!」
夏村さんが目の前の沼を見ると沼全体が緑から青、黄色へのグラジエーションがかかった色に変化し、刻々と色を変えていく。
「きれい……」
夏村さんは風景の変化を瞬き一つせずに見続けている。
そして完全に日が昇ると変化は止まり、鮮やかな緑の木々に絵の具を零したような色となった沼に落ち着く。
「これを夏村さんに見せたかったんだ…… てか一緒に見たかった」
「ありがとう…… 一生の宝だ……」
俺はスマホの動画をチェックする。
キレイに取れていることを確認し、夏村さんに再生動画を見せた。
「キレイに撮れてるな」と夏村さんは言った。
そして、動画を『林間学校の思い出』というフォルダに保管し、もう一枚、途中に撮った写真のファイルを『思い出』というフォルダに保管し、そのファイルを開けた。
朝日に輝く笑みを浮かべた夏村さんの笑顔の写真
これをみんなには内緒の俺だけのおみやげにした。
部屋に戻るとヤンキーたちはすでに起きていて、なにかコソコソと話しをしていた。
なぜこういう場面だとヤンキーは男女全員で集まるのだろう?
「ごめん、ちょっと眠れなくて外を散歩してきた。起こしちゃった?」
すると、横山が、
「おまえ…… なつさんと…… 逢引してのか~?」
「えっ!? なんで?!」
「なつさんも、部屋にいないし」
沈黙……
「思い出作れたか?」
「うん、バッチリね!」
「なんだ~、キスとかしたのか? あるいは草むらS〇Xとか?」
「別の意味での思い出!!」
朝食を食べて荷物をまとめ、バスに放り込むと、早朝に夏村さんと向かった五色沼へ移動し自由研究。
俺は夏村さんとペアになり、五色沼の周辺の写真や、五色沼自然探勝路を散策した。
五色沼は柳沼、青沼、るり沼、弁天沼、亀沼、弁天沼、竜沼、みどろ沼、赤沼、毘沙門沼から構成される。
早朝行った沼はそのうちのひとつ柳沼である。
当然全部回ると往復で3時間近くかかってしまうので俺たちは弁天沼から引き返した。
その間、俺たちは二人だけの時間を満喫した。
写真も一杯撮れた。
バスの集合時間になる。
集合場所から少し離れたところで夏村さんと明日の予定について話をする。
「明日、バンド練習あるけど、どうする?」
「明日か、場所はどこ?」
「夏村さん因縁の秋葉原」
「行く! 実は秋葉原に美味しいそうなイタリアン見つけたんだ。そこ行く?」
「もちろん! 楽しみだね」
ということは……
「じゃ、俺んち集合?」
「たまには、PARCOの入り口とかどうかな? かずやの家だと晏菜ちゃんチェック受けるからチェックなしの自分の好きな服もデートで着てみたいし」
「いいよ、たまには夏村さんのイケメンスタイルも見たいし!」
「おし! メチャクチャ格好いいの着てくるな!」
いつもの会話かもしれない。
これが自然と二人の間に流れる『間』になっている。
こんな会話をしている二人の『間』が好きだ。
その上、今朝なかなか見れない夏村さんを見ることが出来た。
それだけでも、この林間学校は俺には最高だったと思った。
帰りのバスの中。
隣は行きと同じく多江ちゃんだったが、二人とも爆睡だった。
勉強仲間は昨晩どんな風に過ごしたのかは誰も教えてくれなかった。
多分、男女別れて、中間層のやつらと一緒に何も語らず昨晩を終えたのだろう。
べつにそんなことはどうでもいい。
今の俺には夏村さんの朝焼けに輝く横顔の写真という最高のお土産があるのだから。
解散予定の浦和駅に着く前の最後のサービスエリアで、いきなり後ろから肩を叩かれる。
「高松く~ん!」
「ああ、井上さんか。修学旅行どうだった?」
「楽しめたよ。夜はみんなで恋バナして、小倉さんがどうも高松君にお熱なことも分かったし、五色沼の早朝デートは楽しめたかな?」
小倉さんと一緒の部屋だったのかということと、なぜ五色沼のことを知っているだと俺は思った。
「後ろ、つけてたよ~!」
というと、再び俺の肩を叩き、バスに戻っていった。
「井上さんって、もしかしてストーカー? まさかね」
と思いながら、俺もバスに向かった。
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編集記録
2022/09/10 3-3話を2分割し3-4話として校正、一部改稿




