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3-3話 林間学校(1)

【読者さまのコメント】

林間学校が始まる!

井上さんがちょいちょい高松にコンタクトをとってくるのが気になる……。

そして多江ちゃんはぐいぐいくるな! 本格的に高松を狙ってるよ(汗)

夏村さんともっとイチャイチャしたいけど、なかなか難しいなぁ。

高松の差配が的確で、カッコいい!

 集合場所の浦和駅東口、集合時間の二十分前。

 すでに数多くの学生たちが集合場所の周辺に集まっていた。

 しかし、見事に各クラス、各カースト毎に集まってしまうものだなあと改めて感心してしまう。

 せっかくヤンキーがいなくなったのだ、みんなで仲良くカーストなど作らず行こうぜと思ったが、時期尚早だったようだ。

 俺のクラスの奴らをさがしてみたところ、俺の勉強仲間のグループは集合場所から少し離れた越谷街道側に、鵜坂、牧野がすでに来ていた。

 勉強仲間の中で一番集合場所から家が遠い牧野は最寄り駅が二つ隣の与野駅なので、たぶんここに一番近い俺より二十五分は早く家を出なければならない。

 一方、鵜坂は自宅から最寄りのバス停にくる浦和駅行きのバスの時刻の事情で早く来たらしい。

 そんな事情もある彼らに申し訳なく思いながら俺は声をかけた。

「おはようさん」

「おはよう。こんな時、家が遠いのめんどくせぇ! かずの家、めちゃ近いもんな!」

「そうだね……」

 と俺は言い返すことしかできなかった。


 鵜坂、牧野では、話の盛り上がりに欠けるので、ここを一時離れようと俺は思った。

 そこから移動しながら、誰かいないかなと観察していると、中間層のメンバーが点々と、中には部活仲間で集まっている集団もいた。

 中でも女子バレー部はみんな身長が高いので特に目立っていた。

 普段着を着てもやはり、彼女たちはかっこいいなあ(夏村さんも身長が高いので自分の好みである)と眺めていると、井上さんと目が合った。

 特にレスをするほどの仲でもないし、目をそらそうとしたところ、井上さんが手を振ってきた。

 まあ、相手が手を振ったのにそのままにすることもできないのでこちらも軽く手を振り返すと、それに気づいた他のバレー部員たちが井上さんを冷やかしているのが見えた。

 俺と夏村さんとの関係をこの人たちはご存じないのかと思ったが、彼女たちには関係の無いことだ。

 しかし、なぜ井上さんが冷やかされているのかはちょっと気になった。


 別の方向を見ると、一段と多くの場所を取っている集団が見えた。

 それは元ヤンキーのグループだった。

 その集団に目をやると、俺が林間学校の実行委員に推薦した横山、笹川の二人の姿は見えなかった。

 彼らはまだ来ていないのかと思い、他を見回すと、集合場所そばに引率の先生方と話し合っている一団がいた。

 多分、林間学校の実行委員たちである。

 その中に横山、笹川の姿はあった。

 奴ら、がんばっているようだなと俺は安心した。

 なにせ、俺が推薦者なもんで責任を感じているのです。

 とはいえ、ここでもメンバー数人と目が合ってしまったので、集団に入り、挨拶をし早々に戻った。

 今日明日は君たちと同じグループだものね。


 視線を勉強仲間がいる場所に戻すと、多江ちゃんとさくらちゃんがやってきていた。

 家が近い坂本や佐々木ももうそろそろ来るだろうと思い、俺も勉強仲間の近くに戻っていった。

「おはよう」

 と俺が声をかけると二人は、

「おはよう」

 とハモりながら返してきた。

 さくらちゃんは俺を見て、こうからかった。

「あれ? ヤンキー班の人がこんなとこにいていいのかな?」

「勘弁してよ。こっちも好きでなったんじゃないんだから」

 そして、多江ちゃんも俺を見て微笑みながら、こう言った。

「まさかとは思うけど、かずくん、今日も勉強道具とか持ってきてない?」

「俺、アニメのガリ勉キャラじゃないっちゅうの!」

「いやいや、ありうる!」

 一同爆笑! 俺を何だと思っているんだ!


 そして、改めて視線を移動すると、ヤンキーの一団に遅れて夏村さんが到着した。

「おはよう!」

「ちわ~」

 まだそんな挨拶をしているんですね、あなた方。

 まあ、急に変わったら色々あるからやめさせたのは俺なんですけどね。

 だけど、あんなに可愛い格好してるのに、仲間とのドスの利いた掛け合いは街中で勘弁して欲しい。

 と思っている時、夏村さんと目が合った。

 夏村さんは俺に気づくと、一瞬で優しい視線に変わり、軽く俺の方に会釈してきた。

 まあ、クラスは別だけど林間学校中に何度も夏村さんと一緒になる時間はあるだろうと思い、今は挨拶だけで我慢した。


 すると、誰かが後ろから膝カックンをしてきた。

 俺が振り返ると犯人は多江ちゃんだった。

「また、なっちゃん見て、デレデレしてる!」

「してない! してない!」

 と俺が反論している背後から俺にラリアートをくらわした奴がいた。

「よお! おはよ!」

 犯人は坂本だった。

「ちょっと待て! 俺はいつからお前らにいじめられる立場になったんだよ!」

 と言うと、みんなは声を合わせてこう言った。

「なんか、むかつく! お前は夏村さんのところへ行け!」

「そんな冷遇しないでよ!」

 と言うとみんな一斉に笑った。

 そしてこの時間になってお調子者の佐々木の登場。

「なんか、みんなで笑ってたけど、俺の話題?」

「するか!」


 集合時刻になったのか、各クラス担任が集合場所にクラスの名が記載された紙を持ち、集合を知らせた。

 そして、クラスの実行委員が集合した人と名前をチェックしながら、プリントを配っていった。

 横山は俺の横に来るとプリントを渡しながら、こう言った。

「往復のバスの席順だ! これで、よろしく! 浮気すんなよ!」

 横山の奴、柄に合わない笑顔でサムアップしてくるもんだから、何かつまらないこと考えているんじゃないかと俺は思った。

 そして、プリントを見るとバスの席順が書かれており、俺は勉強仲間と一緒であり、隣は多江ちゃんだった。

 往復のバスの中くらいは勉強仲間と一緒にいろよという横山なりの心遣いなのかなあ?

 あの笑顔の意味はこれであったのであろうと勝手に納得する。

 今日は君の配慮を有り難くいただくことにするよ。


 九時に浦和を出て、越谷街道を通り、国道四六三号線を通じ、東北自動車道に入った。

 高速に入るといきなり風景は郊外から田舎に変わり、田畑が緑に広がっていた。

 途中、一回パーキングエリアで休憩をし、しばし走ると矢板あたりから山々が近づいてくる。

 そして郡山ジャンクションから会津方面に向かう。

 鞍手山トンネルを抜けると左側には猪苗代湖が広がっていた。

 猪苗代磐梯高原インターチェンジで東北自動車道を降り、北に向けて国道百十五号線を進み、目指すホテルには十三時頃には着いた。

 ホテルで各部屋にこれからの行事に不要な自分の荷物を運び込み、ホテルで軽い昼食をとった。

 そして、ホテルから徒歩で檜原湖に向かい、その湖畔の松原キャンプ場に着いた。


 バスの中を含め、隣に座った多江ちゃんと結構話すことが出来た。

 そういえば多江ちゃんとは勉強のこと以外の内容であまり話したことが無かったのと、二人でなかなか話す機会も無かったため、行きのバスの中では多江ちゃんの家族のことや中学時代のこと、多江ちゃんとは近所であるため、共通の近所話とか、新たな発見があった。

 クラスでも身長が中くらいの百六十センチ弱であることから、夏村さんとは別の種類の清楚さを醸し出していた。

 夏村さんのどこか遠くを見ているような視線と多江ちゃんの俺の目を通して心の中を読み取っているかのような視線、両者の視線は全く異質でとても興味深いし、印象深かった。


 入学当初から、多江ちゃんの話し方は優しい感じではあったが今では、よりフランクになった気がした。

 突っ込んでくるし、ボケもしてくれる。

 以前は引いた感じであったが、俺の話に合わそうとしている意図が感じ取れた。

 それと、なんとなくだが、俺に対してボディタッチが増えている感じもした。

 何かに付けて肩を叩いたり、袖を引いたりと。時に俺が口を滑らして夏村さんのことを語ってしまうと容赦なく弁慶にキックをするようにもなってきた。

 これも彼女の肩の力も抜けてきた証拠かと思い、俺は彼女の行動を楽しんでいた。


 桧原湖の松原キャンプ場

 裏磐梯国立公園に含まれる桧原湖は火山である磐梯山の噴火で生じた湖であり、南北に長く、その長さは猪苗代湖の短径とほぼ同じくらいであるが、ひょろ長な湖であるため、猪苗代湖のような雄大さはない。

 しかし、自然に囲まれた綺麗な湖で、冬はワカサギ釣りで有名らしい。

 キャンプ場はその湖畔にあり、キャンプ場入口の駐車場からは船に乗り、駐車場から少し離れた湖畔のキャンプ場まで船に乗っていく。

 湖畔周辺は木々に囲まれ、その木々の向こう側に、裏磐梯の山々がそびえたつという感じである。

 駐車場からはあの有名な磐梯山は背部になるが、キャンプ場からは湖を挟んだ森の向こうに磐梯山がそびえたつという、絶好のビューポイントにある。

 家族で泊まりにくることもできるが、団体様には、手ぶらでBBQやいかだ作り、星空クルージングなども楽しめるそうだ。


 さて、ここからは班単位での活動のため、勉強仲間と離れ、ヤンキー班に取り込まれた俺。

 ここから夕食の準備が始まるわけだが、驚いたことにヤンキー班の統率力がほかの生徒より優れていた。

 各メンバーの得意分野を把握した上で生野がチーム分けをし、適切に指示を行っていた。

 俺は何をしたらよいかと生野に尋ねたところ、お前、どうせ料理下手だろうから俺のサポートをしてくれと頼まれた。

 お前、俺の料理の腕、知らないだろうと思ったが、多分、夏村さんから飯を食べていつも帰っていくことを聞かされていれば、料理のできない奴と思われてってしまっても仕方ない。

 でも、料理ぐらいはできますので。

 ということで、俺はタイムキーパーをすることになった。

 まあ、ほとんど役無し・出番無しである。

 そういえば、ヤンキーメンバーが中学の時、進学を諦めて、すし屋や飲食店に勤めることを考えていた人が多かったことを彼らとのカウンセリングで知っていた。

 確かに手先の器用さや手慣れた作業ぷりは同学年の中間層の奴らより優れていた。

 こんなことも後々彼らから、進路のことで再び相談を受けたときの参考になりそうだと思い、記憶にとどめておこうと俺は思った。

 タイムキーパーをしながら、各メンバーの作業の様子を一つ一つ頭に入れていった。


 そしてうちの班が粗方作業も終了した頃、俺のところに横山がやってきて、準備が遅れている班が居るので手伝ってほしいと言ってきた。

 俺は、生野に横山の提案を伝えた。

 すると、生野はすぐ手の空いたメンバーを選定し、遅れている班に急行させた。

 俺も各班の進捗を見回り、遅れている班のフォローを生野に依頼した。

 そのような対応の末、各班とも時間通りに夕食の準備を終えることが出来た。


 俺は夕食を持って勉強仲間の方に向おうかと一度は思ったのだが、色々と気になる点があったため、生野たちの輪に混ざった。

「お前、勉強仲間のところにいかなくていいのか?」

 生野は俺に問いかけた。

「いや、今の作業も含めてヤンキーたちの違った面が見ることができたし、すごくコイツらに興味が湧いたんだ。お前が俺をこの班に引き入れてくれなかったら見えない景色があったんで、こっちでいただくよ」

 と俺は言うと、生野は微笑み、

「そうか。俺たちの違った面か。それに気づいてくれただけで、高松を入れた意味が有ったよ。ありがとう」

 そう言うと、生野は俺を連れてヤンキーたちの輪の中に戻り、以前生野が俺とのカウンセリングの時、何故お前みたいなのをなつさんが惚れたのかと言うネタでメンバーと大盛りあがりとなった。

 彼らと話しながら食事をしている時、俺は意外とこいつらをうまく使えば(悪い意味ではない)色々な意味でうちの高校が変わるのではないかと思い始めていた。


 さて会話も終わり。

 食器洗いは料理で役に立たなかった俺の出番とがんばりましたよ!


 ところで勉強仲間はというと、意外と騒がしの佐々木が飯ごう炊爨が得意だったり、調理は自宅がラーメン屋である牧野が上手く、女性陣が意外と料理下手なのは…… 男女差別になるのでそれ以上は言えませんが、そんな報告を坂本から受けた。

 やはり、多江ちゃんに料理は無理だろうと思っていたのだが案の定だった。


 料理、食事、後片付けとしているうちに、日は暮れ、時間が経つにつれ、空には落ちてくるかと思えるほどの星が輝き始めた。

 今日は新月だったせいか、月が見えなかったことも、星をより見やすくしてくれたようだった。

 そんな星空の中に雲が二、三個浮いていると、その影は薄気味悪く感じられた。


 次は肝試し。

 肝試しは、先生方は脅かし役と誘導役をし、委員は発着の確認とケガが発生したときの救護スタッフという設定だった。

 半ば、先生方の趣味趣向だらけじゃんとも思ったが、先生方のがんばり・ご厚意を受け取らない訳にはいかない。

 男女二名ペアとなり、六名で一緒に行動することになっていた。

 うちのクラスのペアをみると、不思議と席の隣同士と組んでいるパターンが多かった。

 坂本は魚住さん、佐々木は多江ちゃん、鵜坂は仙道さん、さくらちゃんは石原くん、牧野はヤンキーの川尻さんと組んでいた。

 まあ、同じカースト内でも男女比率が違うのでこのような組み合わせが一番わだかまりが少ないと皆が判断したのだろう。

 そんな中でも俺は夏村さんとペアと頑なに決めていたため、クラスで隣の席の井上さんには別の方をとお願いした。

 井上さんに事情を話すと、

「そりゃ夏村さん以外だと高松君もその相手も命がヤバイよね! でも、その時は私が骨拾ってあげるのに!」

 と冗談を言っていた。

 俺が死ぬこと前提なのかよ!


 さて、うちのグループの番だが夏村さんが終始先頭を歩き、残りの五名を従えてくれたおかげで無事帰還した。

 というか、全然脅かし役の先生たちが怖く感じられなかった。

 なぜなら、メンバーにとって先頭を歩いている人が一番怖いからだ。


 なぜか夏村さんは俺と二人の時以外は隣を一緒に歩こうとはしない。

 しかし、それが何故なのかは怖くて聞けなかった。

 以前、『ヤンキーをやめて普通の恰好になったのだから、学校でも一緒にいていいかな?』と夏村さん言ってなかったかなあと思うと、少し寂しさを感じていた。

『夏村さん、一緒は恥ずかしいの?』なんて冗談を言おうものなら、即時に撲殺されそうだからそれはやめておこう。

 でも、俺の本心としては夏村さんと二人で仲良く肝試しに行きたかったんだけどなぁ……


 さて、肝試しも終わり、次はキャンプファイヤーと思い、会場で待っていたところ、夏村さんが俺の方に走って来た。

「かずや、横山からなんだが、肝試しに行った他のクラスの二名がまだ帰ってきていないらしいんだ」

「横山は?」

「今、先生たちと探している」

「夏村さん、まずは横山の代わりだと言って、実行委員会に混ざって、キャンプファイヤーを始めてください。中断したり、変な間が出来ちゃうと生徒の不安をあおってしまうと思うんです。捜索はあくまで裏で動く形にします。捜索している人で手が足りなくなっていることも考えられるので、夏村さんは、キャンプファイヤーのヘルプをお願いします。俺は横山と連絡を取りながら対応を考えて、その状況を捜索担当の先生に報告します」

「わかった、宜しく頼む」

 俺は以前、横山と連絡先交換をしていたことを思い出したので、自分が横山に指示する役を買って出たのだ。


 俺は頭を掻きながら、横山に電話をした。

「横山、いまどこ?」

「肝試しのルートに合わせて歩いてる」

「確か途中に二か所、湖に抜ける小川にかかる橋があるから、そこも見て。あれだったら、落ちることはないと思うけど万が一を考えて」

「了解した」

「ところで今何人で動いているの?」

春陽(はるひ)もいる」

「オッケー。じゃあ、それからは春陽をポイントとなる場所に待たせて、たけしが二人を探す流れで行ってくれ。春陽を待たせておけば、お前が二重遭難することもないはずだから」

「了解した」

 俺は、キャンプファイヤーの会場から少し離れたバンガローの中で、捜索を行っているメンバーと連絡を取り合っている先生方を見つけた。そこには自分の担任の渋谷先生もいたので、俺は先生方に自分が横山に指示を出している内容を伝え、そして何か情報を入手した場合は連絡することも伝えた。


 キャンプファイヤーは何事もなかったかのように開始され、踊りを楽しむ声が響いた。

 俺はバンガローを出て、先ほど夏村さんと別れた場所に戻った。

 すると、委員会に交渉し、キャンプファイヤーを始めさせた夏村さんがもどってきた。

「なんとか始まったね。夏村さん、ありがとう」

「うん、いちおう委員会は手は足りているらしいので戻ってきた。しかし、みんなに知らせないままでいいのだろうか」

「今は知らせなくていいと思う。無事がわかった後、彼らに伝えても、教訓は伝えられる。てか、一生に一度の思い出の日なんだから、失うものはなるべく少ない方がいいに決まっているからね」

「うん。わかった」

 とうなずく夏村さんの表情を見た時、俺は反射的に夏村さんの手を握ってしまった。

 明らかに夏村さんの顔に『不安』が現れていたからだ。

 キャンプファイヤーの薪の炎が夏村さんの顔を赤々と照らしていたが夏村さんの手はとても冷たかった。

「かずやの手は暖かいな」

「握っている本人が緊張しているからじゃない(笑) 大丈夫! 横山と笹川さんは必ずやってくれるよ!」


「これで最後の曲となりました」

 もう最後かと思ったちょうどその時、俺のスマホが鳴った。

 画面を見ると横山の文字があった。

「横山、どうした?!」

「いたよ。こいつら小川沿いを湖に行って二人で夜景を見ていたら帰る道わからなくなったみたいで」

「そうか、それでこっちまで帰れそうか?」

「小川の河口(かこう)に春陽を待たせてあったんで、そこから川沿いを戻って、ルートに出たら、キャンプ場に帰るよ」

「そうか、よかった。ところでそいつらのこと、お前殴ってないよな?!」

「あぁ、今日は我慢した(笑)」

「オーケー! 先生には伝えておくよ。お疲れ様な、たけし!」

「ありがとう。ところでキャンプファイヤーは?」

「予定通り実施して、もう終わりかな?」

「お前は!」

「あぁ、お前の電話を待ってた」

「なつさんとおどるんじゃなかったのか?」

「夏村さんも事情は分かって、今も隣にいるし、夏村さんとはいつでも踊れる。だから心配しないでいい。今、夏村さんと代わるよ」

「たけしか! よくやった。早く帰ってこい。待ってるぞ!」

「はい! なつさんありがとうございます!」

「待ってるぞ、たけし! 早く帰って来いよ!」

「わかった。サンキュー!」


 横山との電話を切り、俺は夏村さんに状況を伝えた。

「たけし、がんばったな」

 俺がそう言うと夏村さんは、

「うん、そうだな。でも、終わっちゃったな……」

「ごめん……」

 俺は謝るしかなかった。


 長い沈黙……


「俺、実行委員会と先生に報告してきます!」

「いってらっしゃい!」

 俺は夏村さんを後にし、先生方が控えている、バンガローに向かった。

 すこし振り返ると夏村さんは寂しそうに手を振っていた。


 夏村さん、人と関わるってこういうことなんだよ。

 自分を犠牲にしなくてはいけないときが必ずある。

 でも、それは無駄ではないんだよ。

 『良い』から『悪い』への転落は簡単だけど、その逆はすごい労力が必要なんだよ。

 これもその一歩。

 夏村さんたちが変われるなら俺は頑張るよ……

 だから、今日は……

 ごめんなさい……


 報告も終わり、俺はさっきまで夏村さんのいた場所に戻ったがすでに夏村さんはいなかった。

 俺は大きくため息をつき、キャンプファイヤーの(たきぎ)が消えた暗闇(くらやみ)を煙のにおいを浴びながら自分の部屋に戻った。

 薪の煙が空の星をいくつも覆い隠していた。

 あんなに多くの星が輝いていたのに……

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2021/12/09 加筆訂正

2022/07/23 改稿

2022/09/09 3-3話を3-3、4話に分割。校正、一部改稿

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