2-7話 夏期講習と後悔
【読者さまのコメント】
どうして夏村さんはヤンキーになったのだろう?
この先もやめるつもりはないのだろうか?
この疑問を解決するには腹を割って話すしかなさそう(汗)
夏期講習が始まった!
多江ちゃんはどうしたのかな? と思いきや!
晏菜、何してんの?!?!?!
◇◇ 七月三十一日 ◇◇
気温は朝八時にも関わらず三十三度を超えていた。
昨日、秋葉原から一緒になった夏村さんの家から帰る時、今日も会おうと約束していた。
明日、八月一日から俺の夏期講習が始まってしまい、なかなか二人の時間を取れなくなってしまうからだ。
何だかんだ言っても夏村さんと一対一で会うことは楽しい。
たとえ目的が一緒に勉強であっても、今日も俺の美人の彼女の顔を独占できると考えただけでもうれしくなる。
キモイって?
彼女いない歴が長い男子はみんな彼女ができると、こんなもんですよ……
今日はまず、夏村さんが俺の夏期講習期間中にやる問題集、それは一学期の期末試験前に使っていた基礎中心の問題集より一ランク上の難しいものを一緒にCORSOの四階にある須原屋書店に品定めに行った。
そして問題集を購入した後、時間潰しに二人で書店内を眺めている時、夏村さんは学習参考書の棚の横に設置されたラノベコーナーに目が留まり、また昨日の愚痴を繰り返していた(もう次回からはあのような場所には連れていきませんので、許して!)。
それから二人で俺の家に行き、俺の部屋で今後の勉強方針について考えた。
一学期中に勉強の流れというものが習慣付いたのか、俺の夏期講習がある日は自分でスケジュールを作って勉強を進めて、不明点を毎週日曜日に会って質問するという流れにした。
もちろん、少々難しめの問題集を購入したので、不明点が多くなるだろう。
そうなると自然と不安も増大するだろうから、夜はいつも空けておくので、電話してくれればいつでも対応することにした。
考えてみれば夏期講習は約三週間、受講日数は延べ十二日間しかないので、この繰り返しでうまく行くだろうと俺は思った。
ただ、夏村さんに夏休み期間中の俺と一緒の時以外はどうするのかと聞くと、当然、家で勉強するだけに費やすはずもなく、ヤンキーモードに戻って、横山たちと行動を共にするそうだ。
しかし、ヤンキーモードに戻って何をやっているのだろうか?
また、横山たちとどこで集まっているのかも気になった。
俺はこの話を聞いた時、このまま夏村さんがヤンキーをしながら大学受験をするということがイメージできず、早めに夏村さんにヤンキーを辞めてもらい、夏村さんを取り巻くノイズを解消させてあげたいと思っていた。
ただし、夏村さんが勉強とヤンキーを天秤にかけたとき、どっちをとるのか現時点では想像がつかなかった。
俺の考える道のりと夏村さんが考える道のりを揃えておきたかった。
そんなことを俺が考えているとは思っていないであろう。
夏村さんはいつものように俺の家で俺と両親、晏菜と夕食を一緒に取りながらみんなと笑っていた。
不安は不安
だけど、素で笑っている夏村さんの笑顔を見ていると、どんな苦難もなんとかできてしまうのではないかと思えてしまう。
俺と夏村さんとの出会い自体も夢のようであり、現在も二人でなんとかできているのだから。
夏村さんは帰る前、俺の家の前で俺にこう言った。
「今日は時間作ってくれてありがとう。でもこれからは自分に集中だな! また、明日電話する」
と言い、ニコニコしながら自転車に乗って帰っていった。
俺は旧中山道まで出て行き、帰っていく夏村さんの自転車を見送った。
信号機の明かりが一直線に並び、それに沿って自転車は走り、その姿は次第と小さくなっていき、ついには見えなくなるまで見送った。
真夏の湿気を帯びた夜の風は俺の肌に絡みついていくが、ふと目を閉じると思い出す夏村さんの笑顔が制汗剤のごとく、不必要な発汗から俺を防いでくれた。
◇◇ 八月一日 夏期講習初日 ◇◇
俺が進学塾に行く準備をし、階段を下りていくと、リビングダイニングには両親と晏菜が揃っていた。
父がこの時間だとNHKニュースを見ているのだが、晏菜は何も不満も言わず、ニュースを見ていた。
多分、時事系な話題なら俺より晏菜の方が知識は多いだろう。
一方、俺はテレビ東京のサテライトニュースで株価や為替、世界情勢の情報を見るのが好きだった。
そこでみんなと朝食をとり、時間を確認して、俺は立ち上がり、ミュージックプレイヤーから伸びたイヤホンを両耳に付け、音楽を聴きながら家から出かけた。
晏菜は中二までは進学塾は不要、中三になったら俺と同じ進学塾に通うと言っていた。
さすが、うちの中学とは言え、学年トップクラスは余裕がありますね。
一方、うちの高校は県内では中の下くらいの学校なので、俺は、高一から勉強をしないと進学校には勝てないと思っていた。
それは俺の勉強仲間も同じ意見であった。
俺の勉強仲間はみんな滑り止めでうちの学校に来たメンバーばかりなので、高校受験の失敗を反省し、現在の高校生活に危機感を感じながら勉強をしている。
結論として、毎週三回は進学塾に通わないとうちの高校の勉強だけでは大学受験は無理だというのが俺と勉強仲間の共通した意見だ。
そう考えると、夏村さんも進学塾…… という流れになるのだが、現状を鑑みるとそれは無理と感じた。
ヤンキー姿で進学塾……
塾から断られるのがオチか……
俺は頭を掻きながら面倒臭せぇと思ったが、顔を叩き、そんなことを考えた自分を恥じた。
俺が夏村さんを差別してどうする……
夏村さんは俺の大切な人だ。
ただ、『ヤンキーであること』を含めて、今後のことは夏村さんと一緒に考えて、受験に向かい合っていかなくてはいけないと俺は思った。
夏村さんが終業式の日、うちに来て過ごしていたときに、晏菜がみんなの前で大鳳高校に行きたいと言っていたことをふいに思い出した。
確かに、『ドラゴン桜』ではないが俺たちが有名大学に行ったら大鳳は化けるかもしれない。
晏菜はそれを期待するような口ぶりだったなぁと今更思い出す。
また、あの話の最中、夏村さんの表情が暗かったことも気になった。
良い学校にしたいと思ったときに必ず障壁になるのは大鳳のヤンキーの存在だ。
それを排除しない限り、普通の中学生が受験したいと思う学校にはならないと思った。
やはり、晏菜が入学する、そして俺たちが3年になる前に夏村さんを含め、ヤンキーたちに何か手立てを講じなければならないと思った。
当然、俺だけではそんなことができる訳がないので、みんなを巻き込むことができたらと俺は思った。
今はいわばダルマ状態である、手も足も出ない。
みんな?
それは誰?
俺の勉強仲間?
こいつらは絶対に当てにならない。
夏村さんが俺を連行した際に見捨てた奴らだ(でも、見捨ててくれたから、夏村さんは今俺の彼女だけど……)。
やはり、それを考えると俺自身が対峙しなくてはならないと思った。
それも夏村さんと…… 何しろ、うちの高校の総番ですものね。
俺はJR浦和駅に着くと、線路沿いの道を南浦和駅方面に向かって歩いていた。
いつもは電車で南浦和には移動するが、夏休み期間中は気持ちだけでもゆったりしたいと思い、徒歩通学を選んだ。
多分、徒歩でも自宅から三十分程度で南浦和駅には着くからだ。
外を歩くのはまだ朝とは言え、セミはジリジリ鳴いており、湿度は俺の体から汗を絞り出す。
だけど、俺は『楽』よりも『苦』を選ぶ。
その方が結果が出た時の快感が大きいからだ。
とはいうもの他者から見たら、完全にバカ扱いされる行動だ。
浦和駅から数分歩き、ゆるやかな坂を少し下ると夏村さんの住む岸町を通過する。
道からは調神社の森や一女の校舎の上に建てられた望遠鏡のドーム型の建物も見える。
あの辺に夏村さんはいるのかと思うとそちらを向き、『行ってきます』と小声で言ってしまい、その後、瞬時に赤面してしまい、若干早歩きになってしまった。
そしてもう一度、坂を上ると坂本の出身校である市立岸中学校の横を通り、南浦和駅に着く。岸中学校は旧浦和市内の公立の中学校では進学校のひとつであり、浦和高校、浦和第一女子高校にも数多くの卒業生を送っている。
卒業生に二名の国会議員も輩出しており、同じ公立のうちの中学とは明らかに市の扱いに格差がついているのが悔しかった。
何しろ校門ひとつにしても岸中学は立派な門構えだが、うちの中学は汚らしいし、一部破損している。
南浦和駅西口の階段を上がり、改札の前を通り、再び階段を降り東口に出ると目の前に『浦和ゼミナール』のでかい看板を見つける。
特に東口で誰かと待ち合わせをしている訳でもないが、早く着いてしまったので、ロータリー左側にある『山田うどん』の横で誰か知り合いが通らないか、待ってみた。
よく考えてみると、もう既に国立系クラスや文系クラスの授業は始まっており、勉強仲間とここで出会う可能性はゼロである。
とはいえ早く教室に行っても他のクラスの授業を行っているため、待つしかないのだ。
『浦和ゼミナール』には自習室もあるのだが、あの狭い空間が俺は嫌だった。
勉強を強いられている雰囲気だし、なぜ、こんな狭い閉鎖空間に拘束されなくてはいけないのかと思ってしまうからだ。
進学塾に行くにはロータリーを挟んで俺のいる場所の反対側(右側)が通学路になる。
ぼーっと俺は進学塾に行く人の流れを眺めていると見たことのある女子生徒たちが通った。
俺は目を凝らしよく見ると彼女たちは、夏休みの初めに俺と夏村さんの仲をさんざ邪魔した『晏菜となかまたち』の三人であった。
水着売場やプールではあんな様子の子たちではあったが、進学にはついては意外と熱心なんだなあと俺は感心させられた。
まあ、妹と仲が良い時点である程度の成績の子たちであることは容易に想像できではいた。
なぜなら妹は勉強の出来ない子を見下す傾向にある。よって、俺も晏菜には見下されているということだ。
あんな恰好をしていたが、こうしみじみと眺めてみるとやはり中学生なんだなと感慨深げに眺めていたが、不意に二度の攻撃を味わった三人の水着姿が突如として頭に浮かんでしまったため、俺は頭を左右に振り、幻覚から自分を解放した。
俺も高校生。
夏村さんのような恰好はいいが薄めの胸より、三人の豊めの胸の方があこがれはあるのだ。
という不謹慎な夢から脱出した俺は、今度、塾で会う機会があったら挨拶ぐらいはしておこうと思った。
◇◇ 九時四十五分 ◇◇
あと五分で一時限目の授業が終わる。
俺は少し伸びをして進学塾に向おうとした。
そのとき、スマホにメールが来た。
スマホを見るとメールは夏村さんからだった。
画面をクリックすると、
『かず、今日からがんばれ!』
と書かれていた。
とっても短い文章だったが、俺にとっては何よりもやる気の出る言葉だった。
おれは、夏村さんに、
『TNX』
と打ち、送信した。TNXは「Thanks」の略語だ。
英語のどこかの大学の入試問題に出ていて、先日、彼女にも教えていた。
ちょっと気取りすぎかなと思いながらも送ってみたところ、すぐに夏村さんから、
『You are welcome!』
と返信があった。
その文章を見た時、俺は「ヤンキーの書く返事じゃないよ」と言って笑った。
そして俺は今一度、深呼吸をし、スマホをマナーモードにして、スマホに一言「がんばってくるね、夏村さん!」とかけてから、リュックに入れた。
さて、勉強開始だ。
◇◇ 十六時 ◇◇
授業が終わり、俺は進学塾を出た。
そもそも同じ理系でも国立と私立では授業内容も異なるため、多江ちゃんとは結局、今日は一緒にならなかった。
また私立文系志望の残りの勉強仲間とも一緒になることはなかった。
特に多江ちゃんに関しては、勉強を教えてほしい発言や夏村さんの家に遊びに行った件から何か連絡があるかなと思っていたが、スマホに何も連絡もなかったので気にせず、俺は家に帰った。
結局、その後、一日目と変わらない毎日が四日の金曜日まで続く。
朝には夏村さんからの定期メールが届き、それに返信し元気をもらって教室に入る。
授業が終わったら、家に戻り、授業の予習と復習を行った。
その途中で、夏村さんから質問お電話が毎日来るので夏村さんもがんばっているんだなと安堵していた。
この連続であった。
進学塾の帰りに夏村さんの家に寄るということも考えたが、いつ家にいるか分からないので、土日まで顔を見るのは我慢すると夏村さんは言っていた。
土曜のバンド練習には連絡してくれれば、その場で行けるか考えるということだったので毎回誘うことに決めていた。
この際だから、俺の用心棒、もとい、マネージャーさんとして夏村さんを雇うかと冗談を考えてみたりした。
一方、この四日間、『多江ちゃん』という存在がないかのごとく時間は過ぎ去っていった。
夏村さんの家に遊びに行くというのが最後の会話となっていたため、気にはなっていたため多江ちゃんに電話をしてみたが、特に解らない箇所は今のところないので、また質問があったら連絡するねと答え、多江ちゃんは電話を切った。
まぁいいかと思いながら帰路を歩いていると気づかぬ間に家に着いていた。
「ただいま~」
と気の抜けてような挨拶をすますとリビングダイニングのいつもの位置に座った。
キッチンでは母が夕食の準備をしていた。
一方、父はテレビでニュースを見ていた。
俺はちょうど見たいテレビが有ったのでしかたなく自分の部屋に向かった。
そして俺が部屋でテレビを付けると間もなく、ドアを叩く音がした。
ドアを開けるとドアの前には晏菜がいた。
俺が部屋に招き入れると晏菜は何も言わずに入り、静かに話し始めた。
「おにぃ、ここ何日か、小倉さんだったっけ? 家に来てた」
「あれ? そうだったんだ。来ていたなんて知らなかった。さっき、電話したら用事が出来たら改めて電話するって言っていたから」
「ちょうど、私がいたから、私が対応して帰ってもらった」
「そうか、うん? 俺がいないときに多江ちゃん、家に来てたの?」
「ううん、おにぃが上の部屋にいるときね」
「俺が家にいるとき…… って、えっ?! 何で俺、呼ばないの?」
「だって、それが何度もだよ。信じられない!」
「俺の方が信じられないよ。彼女は俺の友達だぞ! もしかしてお前が多江ちゃんが来たら毎回追い返していたの?」
「もちろん! 何か私、悪いことした?」
「お前、それはまずいだろう!」
「何が?! 私、あの子が余りにしつっこいから、もう来るなって言ったよ!」
「お前、何言ってるんだよ!」
それを聞いたとき、俺はすぐ多江ちゃんに電話しようとし、スマホを取った。
すると、晏菜は俺からスマホを取り上げ、床に叩きつけ、こう叫んだ。
「おにぃにとって沙羅ちゃんって何!
大切な彼女でしょ!
おにぃのこと大好きで、家に通ってお嫁さんになるつもりでいるくらい大好きなんだよ!
そんな沙羅ちゃんがいるのに、小倉さんは何なの?!
ただの友達じゃない。
おにぃには沙羅ちゃんがいるんだから、他の女性を家に上げたらダメ!
おにぃは人が良すぎるんだよ!
沙羅ちゃんの気持ち、考えたことがある?!
小倉さんと友達として外で会話するのはいいよ。
でも家に上げるのはダメ!
沙羅ちゃんが良くても私が許さない!」
最後の一文の意味はよくわからなかったが、晏菜の言うことは確かにそうだと思った。
「もし、沙羅ちゃんがおにぃ以外の男、家に入れたら嫌でしょう!
私も嫌!
沙羅ちゃんとおにぃには一緒でいて欲しいんだよ!
だから私は小倉さんがうちに来ることを拒否した!
もっと沙羅ちゃんのこと、大切に思ってよ!
ねぇ、おにぃ、こんなの私の好きなおにぃじゃないよ!」
あまりにも晏菜が激高したため、階段を上がって両親が俺の部屋に入ってきた。部屋のドアを開け、床に転がっている俺の携帯と、そこで涙を流している晏菜を見て母はやさしい口調でこう言った。
「何があったの? 晏菜」
「おにぃには好きな人と一緒になってほしいんだよ……
それも私が認めた人じゃないと嫌!
おにぃの彼女は沙羅ちゃんであって、小倉さんじゃないの!
私は小倉さん、認めないから……
だから、おにぃは沙羅ちゃんと……」
晏菜は号泣する。
「わかった。ごめん……」
俺がこう詫びると晏菜は自分の部屋に泣きながら戻っていった。
しばしの静寂……
「おい、かずや? お前、浮気したのか?」
「いいえ、そんなことは絶対ありません……」
「そういえば小倉先生のところの娘さん、何回か来ていて、そのときはいつも晏菜が店に出て行って。それで結局帰ったんだけど、晏菜はいつも『何でもない』って言ってたのよ」
「そうだったんだ…… 確かに俺に配慮が足らない点があったんだと思う」
俺は、特に大きな問題が有る訳ではないので一人で反省するから大丈夫だと両親に伝え、両親には一階に帰ってもらった。
確かに俺の無関心が夏村さん、そして晏菜を苦しめてしまったのかもしれない。その原点には、俺が多江ちゃんから家に行っていいかと尋ねられたときに断っていたなら、多江ちゃんが夏村さんの家に言った際、夏村さんを苦しめないで済んだのだろう。いつものように夏村さんは何もなかったとは言ったとしてもだ。
夏村さんが多江ちゃんが家に来ることについて了解をしたか否かについては夏村さん、多江ちゃんいずれからも聞いてはいないが、多江ちゃんが俺の家に来ていた時点で多江ちゃんは夏村さんに、俺の家に来ることの了承をしたのだろうと思い、その際、夏村さんは苦悩したのではないかと俺は思った。
俺はまた夏村さんの立場を考えていなかったことを反省した。一昨日の秋葉原での夏村さんへの対応について反省したばかりなのにも拘わらず、俺は本当にしょうもないやつだと自分ながら呆れた。俺は一頻り反省し、晏菜の部屋に謝りに行った。
ドンドン
「晏菜、いいか?」
「いいよ…」
俺はドアを開け部屋に入る、そこにはまだ元気のない様子の晏菜が自分のソファに座っていた。
「いろいろ考えてくれてありがとう。やっぱ、全面的に俺が悪いわ」
「当たり前じゃん。どうやったっておにぃ、沙羅ちゃんみたいな子、逃がしちゃったら、もう他にいい子見つかんないよ。いい加減にしてよ。本当に」
「悪かった。ごめん……」
「いい? 沙羅ちゃんは私の義姉になる人って決めてるの」
「はあ~? 何を言ってるの? まだ早いじゃん。」
「いいや、絶対になるし、そうさせる」
「まぁ、よくわからんが、がんばります。ありがとう!」
「ところで、夏村さんが、小倉さんと話をして小倉さんが俺の家に来ることに了解していたとした場合、俺は小倉さんとどう向き合ったらいい?」
「家じゃなければいいじゃない。どうせ勉強仲間なんでしょ。進学塾の自習室とかいろいろあるじゃない。でも家はダメ。沙羅ちゃんがいいって言っても私は嫌!」
「なんで? 俺の部屋に小倉さんが来て勉強しあうだけだよ」
「だめ!」
「へい、へい、わかりました。じゃあ、そういう場所を選びます。その旨、小倉さんに電話してもいいでしょうか? 彼女だって勉強教えてほしいから来ているのであって、無下に断るのもよくないでしょ」
「勝手にしな! 家にはあげないよ」
「へい、へい」
そう言って俺は自分の部屋に戻った。
俺が部屋を出た後、晏菜はこうつぶやいた。
『おにぃの部屋に他人のにおいがするなんて絶対イヤ! 沙羅ちゃんだったらいいけど、小倉さんはダメ!』
そんなことがあったんだなぁと思い、俺の部屋に戻った俺は多江ちゃんに電話した。
「あっ! 多江ちゃん。高松です。妹がいろいろやっちゃったみたいだけど、ごめんね」
「ううん、なんか妹さんに嫌われちゃって…… 人間関係ってむずかしいね。夏村さんとは妹さん、仲いいんでしょ? 私もコツ教わろうかな? 大丈夫、気にしてないから」
「進学塾でなら妹さまのご了解がとれましたので、必要あらば参上いたします」
「わかった、その時はよろしくね」
妹が嫌って言おうが、彼女は俺の勉強仲間だ。
この高校に入って人間関係を構築する始まりは勉強仲間との交流であった。夏村さんとのことも大切だ。
しかし、彼らを俺は切り捨てくことはできないと思った。
週明けの進学塾の帰りは勉強仲間と帰ってみようかなと思った。
(オッケー、あのうるさい妹ちゃんが、ネックだったんだ。
別にかずくんの家に限定しなければいい問題だし、逆に私の家ならオッケーって話だよね。
それで行こうっと)
スマホをベットに置くと多江は再び机に向かい、勉強を始めた。
一方…… 明日は土曜日
バンドの練習はあるけど夏村さんに連絡しないとなと思い、俺は電話をした。晏菜から言われたことの反省の意味も含めて、二人の時間をもっと作らないといけないと思った。
「かずやです。夏村さん、明日バンドの練習あるけど来ます?」
「場所どこ? アキバは嫌だなぁ」
「渋谷の道玄坂のスタジオ。前に来たでしょう」
「あぁ、あそこなら行く行く!」
「明日はお昼からだから終わったら渋谷デートする?」
「デ、デートか…… いいねぇ。でも勉強は?」
「今日頑張って終わらせて、明日を楽しみます」
「そうか、渋谷かぁ、いいなぁ。よし、晏菜ちゃんとビデオ通話して明日着ていく服をチェックしてもらおう。それと以前、おじさんとも約束した、かずのデート時の服を選ぶって約束も守らないとな」
「了解。じゃあ、待ち合わせは?」
「もち、かずんちに決まってるじゃん。晏菜ちゃんに行く前に服の最終チェックしてもらわないといけないしな」
「そうだね、喜ぶと思うよ。じゃあ、九時半に俺の家でということで」
「楽しみだな! じゃあな!」
それでは、明日のために俺の用事をさっさと終わらせてしまおうと俺は思った。
※※※※
俺がそんな話をしているとき、隣の部屋でイヤホン越しに何かを聞いていた晏菜は耳からイヤホンを外しながらこう思った。
『おにぃ、早速、沙羅ちゃんに連絡するとは反省したようね。感心感心。
しかし、小倉さんには注意しないといけないなぁ。
おにぃの彼女は私が決める。
絶対に他人が入る余地なんてないんだからね』
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2021/10/08 校正・誤記修正
2022/07/10 改稿
2022/09/03 校正・一部改稿




