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2-6話 もっと一緒にいたい

【読者さまのコメント】

高松は久々のバンド練習! けれどそこに夏村さんはいない。

内緒にしていいのかしら〜?

バンドってすごいなぁ。私にはさっぱりだよ!

そして案の定、夏村さんに怒られる(笑)

二人がイチャイチャでホッとする〜!

夏村さんったら可愛すぎません?

 ◇◇ 七月三十日 ◇◇


 七月最後の日曜日

 いつもなら毎週土曜日にバンドの練習があるのだが、今回はスタジオ予約の都合でイレギュラーではあるが日曜日が練習日となった。

 メンバーの中で俺だけ高校生で、七月は期末試験の準備や夏休みの他のスケジュールが入っていたため、参加してはおらず、今日が俺にとって七月最初の練習日となった。


 一昨日、多江ちゃんが夏村さんの家に行ったこともあり、夏村さんからこの件で何か連絡があるかと昨日一日待っていたのだが、結局連絡はなかった。

 多分、連絡がなかったということは、多江ちゃんはうまくやった結果なのであろうと俺は勝手に思っていた。

 なぜなら、仮に、何かトラブルがあれば、切れた夏村さんが俺に電話でまくし立ててくるか、愚痴られるかのどちらかだと想像できたからだ。

 ただ、何もなくスムーズに話が終わっても、何かしら連絡があるであろうと俺は思っていたので、ただひたすら電話が来るのを待っていた。

 そんな時間は、俺の不安な気持ちを増大させるだけでしかなかった。

 だったら、なぜ自分から電話しない?! 

 そうですよね…… そうなんですけど

 ウエ~ン、夏村さん、電話一本ちょうだいよ……


 ところで、夏休みの予定については、ことあるごとに、ある程度大ざっぱには夏村さんに伝えてあった。

 八月一から四日、七から十一日、十六から十八日は進学塾の夏期講習、土曜の五、十二、十九、二十六日は午後にバンドの練習があると伝えていた。

 その上、日曜日は当然夏村さんと会う約束もしていたし、また、夏休みの後半には二人で近郊に旅行に行こうと予定していたので、のこりの夏休みは結構ハードワークなスケジュールだ。

 旅行の話だが、終業式の日、夏村さんは自分の通知表を俺の両親に見せ(なぜ俺の両親に見せる必要があるのか未だに理解できないのだが)、がんばったから、俺の夏期講習が終わった翌週の八月二十一日の週にどこか二人で一泊で遠出をしてもいいですかと俺の両親を説得、条件付きながら了承をもらっていた。

 しかし、こういう時の夏村さんのネゴシエーション力と準備の迅速さには毎回感心させらる。

 ただし、両親からは旅館だと混浴風呂があると悪いことしかねないので、ペンションのようなお風呂が男女別のところに泊まれと言われた。

 その上、監視役に晏菜を連れていけとも言い出してきた。

 要はこれが条件ということだ。

 折角の二人の時間なのに……


 今日のバンド練習のことについては、昨日、電話がかかってこなかったこともあり、また、急なスケジュールなので(実際、達也さんが予約を取り忘れたため色々探しまくり、二、三日前に明日に決まったという経緯もあった)、余り夏村さんを俺が拘束するのもいけないのではないかという俺の自分勝手な判断から、夏村さんには言わないでいた。


 今日のスタジオは秋葉原にあるサウンドスタジオノア 秋葉原店さんで、スタジオの入りが十時、十四時過ぎに終わり、その後、仲間とミーティングをし、俺はアキバに寄って帰ろうと思っていた。

 ギターの和田さんが抜けた後、畑中さんが曲を再構成してくれており、楽譜はメールに貼り付けて送ってくれていた。

 それと一緒に畑中さんがコンピュータのソフトで各担当パートを除いた、いわばカラオケのようなファイルを送ってくれており、それに合わせて練習するとバンド練習がないときに大いに役に立った。

 科学の進歩はすごいものだと思いながらも、この作業を短時間で完了してしまう畑中さんにも驚かされてしまう。

 ただ、このファイルで歌っているのが畑中さんの妹さんらしく女性の声域に合わせるのは少々やり辛い感が否めなかった。

 イメージがつかめないのだ。

 なぜなら、妹さんの声のパートを歌うのは俺だからだ。

 次回から男の声でお願いしたい。

 音楽ファイルは試験が終わった七月十七日には手元に届いており、もう二週間近く自宅で練習はできていたので、今日の初の音合わせでほぼ形になると思った。


 そう言えば、夏村さんが初めてバンド練習に来たのは一か月半前のことだったと思い出した。

 バンド練習の後の反省会の時、俺がメンバーに揶揄(からか)われた際、『大丈夫、俺がファン一号なら、このバンドはさいたま市内では、お前のファンが一番強い』と言っていたことを思い出し、少し笑ってしまった。

『お前のファンが一番強い』って意味わからない! 

 喧嘩やガンの付け合いだったらそうだろうね(笑)。

 さいたま市でいつかはコンサートをして、夏村さんの前で思いっきり歌ってみたいと思った。


 浦和駅から京浜東北線に乗り、上野駅で下り、中央改札を出ると左側のエスカレーターで地下に行き、そこから地下鉄銀座線で渋谷方面行の電車に乗った。

 そこから二つ目の駅、末広町駅で降り、改札を出て地上に上がると末広町の交差点に出る。

 そこから中央通りを秋葉原駅とは逆方向に歩くと二、三分のところに目指すスタジオはあった。

 さすがに日曜日だけあり、地上に上がると歩道には多くの人たちがいた。


 このスタジオは二十四時間営業しており、バンド専用スタジオ一二室、ピアノ専用スタジオ九室、演劇・ダンス専用スタジオが三室ある。

 俺たちはその中でも広いスタジオであるE 1stというスタジオを借りた。

 まず、おーさんがドラムの前に座り、ドラムの調子を確認する。

「ちょっと使い込まれているけど、オーケーです。パール(ドラムのメーカー名)のセットっていうのもいいじゃん」

 自分のドラムセットを持参は大体コンサートの時くらいで、通常の練習の時はスタジオに備え付けのドラムセットを使うためレンタルになってしまう。

 おーさんはドラムを念入りにチューニングしながら調子を確認し、納得した様子だった。

 俺は自分のケーブルをカバンから探し、エフェクター、アンプ、ギターにつないだ。

 また、自分用のボーカルマイクをケーブルに差し、スタンドを立てそこにマイクを固定する。

 いつも、スタジオ入りのときはギターのケースの中に自分用のマイクを入れており、それを使う。

 やはり他人の使ったマイクには抵抗感があり、練習のときは自分のものを使うようにしている。

 とはいえ、友人とカラオケのときは備付けのマイクを使っている点、自分のポリシーを疑ってしまう。

 そう言えば、スマホの電源を切っていなかったよなあと思い、かばんからスマホを出し、機内モードに設定した。


「マイク、テス、テス。オーケーです。高松、ギター鳴らしますのでPAさん、よろしく御確認お願いします」

 このスタジオはPA室がなく、スタジオ内で畑中さんがミキシングを行うため、自宅からヘッドフォンを持ち込み、俺たちの音を確かめていた。

 一番準備に時間がかかったのは今回からキーボードとサイドギターを担当する、きょんさんだった。

 今日は自宅からキーボードとエレキギターを持ってきたため、秋葉原までは車で来たそうだ。

 和田さんが辞めてからギターも持参しなくてはならなくなったのはご苦労なことだと思った。

 キーボードーのセッティングをしているきょんさんに俺は近づきながら声をかけた。

「きょんさん、ギターチェック、俺やっておきますね」

「あぁ、かず、悪りぃ。よろしく!」


 そして各自準備が整うのに十数分かかった後、全員がオッケーサインを出した。

 すると、畑中さんが何かを見つけたらしく、大声で俺たちに言った。

「何か面白そうな物あるぞ!」

 と言い、リモコンらしきものを操作するとスタジオ内に設置した大型ディスプレイに室内の状況が映し出された。

 リモコンを操作すると室内に設置されたカメラを移動したり、ズームしたりと練習の映像が収録でき、後で録画を見ることもできるようだ。

「これ面白いぞ。俺、録画もするから反省会の時に画像見ようぜ!」

 と俺たちの許可なく撮影を始めた畑中さんだった。


 周りを見回し、準備が完了したことを俺は再度確認し、マイクに向かってこう言った。

「じゃあ、肩慣らしということでDerek and the Dominosの " Layla "から行きます。よろしくお願いします!」

 俺は大きく息を吐き、そしてメンバー見まわしアイコンタクトを取った後、演奏を始める。

 この曲はギターのリフから始まるため、自分の心の準備ができた時点で俺は()き始めた。

 最初に低音階のリフを引き、サイドギターに低音階を引き継ぎ、自分は高音階のリフを演奏するというエリック・クラプトンがコンサートで引く流れだ。


 What'll you do when you get lonely

 And nobody's waiting by your side?

 You've been running and hiding much too long.

 You know it's just your foolish pride.


 Layla, you've got me on my knees.

 Layla, I'm begging, darling please.

 Layla, darling won't you ease my worried mind.


 I tried to give you consolation

 When your old man had let you down.

 Like a fool, I fell in love with you,

 Turned my whole world upside down.


 Layla, you've got me on my knees.

 Layla, I'm begging, darling please.

 Layla, darling won't you ease my worried mind.


 Let's make the best of the situation

 Before I finally go insane.

 Please don't say we'll never find a way

 And tell me all my love's in vain.


 この曲は序盤、印象的なギターリフから始まり、『ミスター・スローハンド』と呼ばれる名ギターリスト、エリック・クラプトンのテクニックを駆使したギター演奏をベースにした前半のヴォーカル・パートと、スライドギター演奏と印象的なピアノを軸に構成された穏やかな演奏のインストゥルメンタル・パートという対照的な2つのパートで構成されている。

 意外とこの曲は前半のギターメインのパートは知っているが、インストゥルメンタル・パートを知らない人も多く、演奏しないバンドもいるようだが、うちのバンドにはきょんさんという名キーボード演奏者がいる。

 俺も和田さんほどうまくはないが、インストゥルメンタルの曲は好きだ。

 なので、結構練習時には弾くことが多い曲だ。


 今日の出来は久しぶりのメンバーとの演奏ではあったがとても良い出来(でき)だと思った。

 一曲終わり、畑中さんを見ると腕で大きく丸を作り、オッケーであることを俺たちに伝えた。

 その後、俺たちは三時間半ほど練習を行った。

 いつものように、オリジナルの曲を一曲演奏しては、二曲コピー曲を挟むという流れだった。


 十三時五十分、俺たちは予定していた曲の練習を終了し、あと片付けを始めた。

「ここ、使い勝手いいし、地下鉄の駅からも近いし、また使いたいね」

 このスタジオを探してきた達也さんは満足そうに言った。

 その代わり日程調整はやばかったですけどね。

 そして、さまざまな感想を言いながら俺たちは片付けをしていると、畑中さんが俺の所に近づいてきた。

「かず、今日は夏村さんは来なかったんだな」

「いつもと曜日違うし、今日から練習再開って教えてなかったから」

「そうか、じゃあこれ」

 と畑中さんは言いながらポケットからUSBメモリーを俺に手渡した。

「今日の映像入っているから夏村さんにも見せて感想を聞いておいてくれ」

「あっ、ありがとうございます。喜んでくれると思います」

 俺は畑中さんからUSBメモリーを受け取り、自分のかばんの中に入れた。


 それから、俺たちはスタジオのある建物と中央通りを挟んで反対側にあるマクドナルドに行き、例のごとく、反省会を行った。

 反省会と言っても各自のテクニックうんぬんではなく、ここのところの演奏はこういう方向性でいこうというような、演奏方針を確認する時間ではあった。

 しかし、いつものごとく、話は先ほど取った映像のコピーをみんなで見ながら俺の表情が悪いとか、こうアピールしろとか、いつしか俺へのダメ出し反省会になってしまうのだった。

 また始まったよと思いながら、ふとスマホをかばんから取り出すと、スタジオに入り機材の準備をしているときに機内モードにしていたままであったことに気づいた。

 俺がスマホを機内モードから通常モードに変更したとともに、スマホが着信通知の雨あられとなった。

 何かなと思い、スマホを見ると画面上に『夏村沙羅』の文字の行列が並んでいた。

 留守録も数十件入っており、この類の複数連続留守電が自分にとってよい内容では絶対にないことは容易に想像できた。

 これは今は聞きたくないと思った俺は、画面を消そうと思い、メニューの全消去を押そうと思った瞬間、スマホが鳴った。

 俺はドキッとしながら、すぐにスマホを見た。

 夏村さんからだった。

 俺は表示されていた着信回数が余りにも多かったので怖くなり、躊躇(ちゅうちょ)しながら周りのメンバーに目配せしながら電話に出た。

 すると、半べそをかいたような声をした夏村さんがスマホ越しに怒鳴った。

『か・ず! お・ま・え~! どこに行ってるんだ! バンドの練習あるならそう言えよ!』

「はい、昨日、何も連絡がなかったのでお忙しいのかと思いまして……」

 電話越しに聞こえた夏村さんの罵声を聞きながら、コソコソ笑っているメンバーたち。

「お前にすぐ来いと言われれば、いつでもどこで俺は行く! これからそこに行くから待ってろ!」

「えっ! 今どこにいるかって知ってるの?」

「秋葉原だろう! 晏菜ちゃんから聞いた」

 相変わらずの晏菜夏村ホットライン、怖ぇ~! あれ、そういえば晏菜に教えたっけ?

 ギターを持って出かけるところは見られていたが秋葉原とは言っていなかったと思うが……

「じゃあ、今いる場所教えるよ、あ……」

 と言いかけたちょうどそのとき、夏村さんは喜んだような声でこう言った。

「み~つけた!」

 ふと、店内から外を見るとマクドナルドの入口のドアの前に左手を腰に右手にスマホをもった手を振る夏村さんがいた。

 俺と夏村さんとのやり取りを見ながら、真っ先に入り口の夏村さんを見つけたのは達也さんだった。

「おーい、かず。嫁さんにみつかったぞ~! ほら、行ってやれよ! 後は俺たちだけで時間を潰すから」

 ちょっと嫌みにも似た言葉使いではあったが、笑顔の達也さんは俺を急がした。

「すいません。お先に失礼します!」


 あの数の着信回数、そして半べそをかいたような声……

 これは確実に滅茶苦茶(むちゃくちゃ)怒られると思いながら、俺はゆっくりマクドナルドを出ると、夏村さんは、想像に反し、寂しそうな顔をしながらこう言った。


「一緒にいたかった……

 明後日(あさって)から夏期講習、始まるだろう。

 そしたら一緒にいられる時間限られちゃうから……

 俺はかずともっと一緒にいたいんだよ……」


 そしてその顔は笑顔になり、こう続けた。

「でも、今、かずを見つけられたからもういい! さあ、どこ行く?」

 俺はその表情の変化に困惑しながら、こう言った。

「ごめん、ヲタが集まるところだけど、大丈夫?」

 場所が場所なので即座に出た言葉がこれであったのだが、夏村さんは優しい声でこう言った。

「大丈夫。俺、かずのことしか見てないから……」

 といい、左手を差し出す。

 俺は右手で夏村さんの手を握り、秋葉原駅方面へと歩きだした。


 第一関門からして難敵であるが、俺はメロンブックスに行ってみた。

 ここは俺がいつもラノベを買いに来る書店ではあるが、同じフロアに同人誌も扱っており、この類の書籍に経験のない人には絶対馴染(なじ)めない場所である上、圧倒的に男性客が多い。

 まぁ、置いてあるブツがブツなので未経験者には毒だ。

 地下に降り、店に入ると中央だけが夏村さんの訪問可能エリア、その他は侵入不可エリアだと俺は思った。

「な、何か経験したことのない店だな? 何を売ってるんだ?」

「ライトノベルって言って、かわいい絵の入った小説を売っているんだ。その他はコミックスかな。いわゆる漫画だよ。その他は夏村さんには関係ないので……」

 そう言い、俺が平台の新刊を探していると、横の棚の本を読みだす夏村さん。

「お前、こんなの好きなのか?」

 表紙を見ると異世界ものの小説であったことに胸をなでおろした。

「いや、恋愛もののコメディ小説でラブコメっていうジャンルがあるんだけど、それが好きかな?」

 俺は平台から二冊ほど選び、レジに並ぶが、夏村さんには出口で待つように言った。

 しかし、夏村さんは一緒に付いていくと言った。

 ちょっと、レジのそばの、このエリアには行かない方がいいと思うんだけど……

 と俺は思っていたのだが、夏村さんが行くというのであれば、付いて来てもらうとしよう。

 これもヲタ免疫値を上げるためにも必要かと思った。

 俺は夏村さんの左に立ち、夏村さんの注意を右の平台に向けながら、レジに向かった。

 右の平台は夏村さんでも無難な種類の本を陳列しているため、そちらに夏村さんの意識を向けさせたのだ。

 当然、レジ前というのは列ができるもので、今も数人レジに並んでいた。

 俺は最後列に並び、夏村さんの横の平台を見ると、『ウマ娘プリティーダービー』の特集コーナーであり、これなら夏村さんも大丈夫かと思った。

 とは言え、レジの順番がなかなか進まないときもある。

 夏村さんは、ざっと右の平台を見終わり、左の棚を見た途端、顔を真っ赤にした。

 そして、握っていた俺の右手を引っ張りこう言った。

「お前! ひ・ひ・左の本はなんだ! 巨・巨・巨乳の女の子の絵の本ばかりだぞ! その上、ぜ・全裸だぞ! パ・パンツ履いてないぞ!」

 だから一緒に来るなと言ったのに……

「この中に、巨乳で眼鏡でショートカットな清楚系のおんなの漫画があったら、お前買ってるのか? 今度お前の部屋、再度、捜索な!」

 まだ、あのエロ本のネタ、引きずってる…… ありませんって…… (無かったよな)

 すると夏村さんは俺の顔をじっと見始める。

 俺は恥ずかしくなり、夏村さんに聞いた。

「何で俺の顔ばかり見てるの?」

「お前がプールで晏菜ちゃんのゲームで興奮しないように俺の顔をずっと見ていたときと同じように、ここでは俺がかずの顔を見続ける」

 めんどくせーなと思いながら俺は頭を()いたが、夏村さんが俺のことを見ていてくれるなら(うれ)しいので良しとした。

 本当に夏村さんの切れ長で二重の大きな目は何時間見ていても飽きない美術品のようだった。


 夏村さんの後ろにエロい雑誌を数冊持った恰幅(かっぷく)のよい男性が並んだ。

 当然、体形的に恰幅の良い方というのは生理的に息が荒い方が多く、この方にも当てはまっていたのだが、それを迷惑に感じた夏村さんは後ろを振り返ると視界にエロい本が入ってしまい、また赤くなる。

 そして、独り言をブツブツ言い始めていた。

 レジを抜け、地上に上がってくると夏村さんはさんざ悪態をついてきた。

 夏村さんは俺のレシートを俺の手から取り、レシートに記載のあるポイント数を見るなり、

「お前、この店でこんなに買物してるんだ! 絶対エロい本買ってるだろう! おばさんに説教してもらうように言ってやる!』と息巻いてレシートを回収していった。

 俺はこの店に連れてきたことを謝り(何で謝っているのだろうという気持ちもあったが)、以降この類のショップは一人で来ようと思った。


 次は秋葉原駅前にあるラジオ会館、二階のアストップに行ってみる。

 ここはレンタルショーケースのショップで、借主が月払いで、ショーケースの使用権を購入し、自分の売りたいものを入れてショップで販売してもらうシステムになっている。

 今回は夏村さん、大人しくショーケースの中を(のぞ)いている。

 なぜか、『Fate/stay night』の『セイバー』を気に入ったらしく、ジッと覗いては俺にいろいろと説明を求めてきた。

 やっぱ、戦闘系の英雄は好きなのですね。

 もう少し髪が伸びたらセイバーと同じ髪型にすると宣言していた。

 確かに、セイバーと同じ金髪のロング…… 今はセミロングだけど、何か似ている感じがした。

 これは楽しみが一つ増えたと俺は思った。


 それから幾つかのアニメショップに向かい、いろいろな夏村さんの表情を見た時、俺から率先して()()()()()()()に時間を作っていなかったことに気づき、反省した。

 夏村さんは俺の家に来たり、俺の好きな場所に来てくれたりと自分から俺との時間を作ってくれていた。

 自分が会いたかったのかもしれないが、()()()()()の時間を持ちたかったのだ。

 俺はそんな夏村さんの作った時間を()()()()()()()の時間としか捉えていなかったのだ。

 勝手にそれが夏村さんの意向だと決めつけていた。


 それは否……


 夏村さんは()()()()()の時間を作ってくれていたのだ。

 一方、俺は()()()()()()()に時間を作っていたのか?


 それも否……


 自分の勉強、趣味に時間を作って、その合間を夏村さんにシェアし、分け与えていたにすぎなかった。

 結局、俺は()()()()()の時間を優先していたのだ。

 俺はもっと夏村さんのことを考えるべきだったと反省した。

 その証拠が夏村さんから出たあの言葉だ。


 『もっと一緒にいたい』


 それが夏村さんの本音であることを俺は重く考えなくてはいけないと思った。

 俺はプールのとき、偉そうに夏村さんに説教したことを恥じた。

 夏村さんが相談したいとき、助けてほしい時に俺がそばにいなくてどうするんだ。

 説教されるべきは俺の方だと思った。


 帰りの電車の中で夏村さんは、メロンブックス内では聞こえなかったあの独り言、『レジに並んでいたときの後ろの野郎、俺の目の前でエロ本持ってやがって、今度会ったらぶっ殺す』と物騒なことを言ったり、『あのセイバーのフィギュア可愛かった、うちに飾るか』と、話していた。

 気に入ったのならフィギュアぐらいプレゼントするよというと、夏村さんは喜んでいた。

「セイバーって夏村さんに似ているよね」

というと、夏村さんは照れながら

「俺はそんなにきれいじゃないぞ……」

と言っていた。


 結局『俺だけを見てる』って言っておきながら、俺以外のもの結構見てましたよね、夏村さん(笑)

 まぁ楽しんでくれたから今日は良しとしておこうと俺は思った。

 何よりも俺が夏村さんの笑顔を楽しめたのだから。

 次回からは俺が率先して時間を作るねと心の中で誓った。


 そんな話を聞きながら俺は鞄をまさぐると畑中さんからもらったUSBメモリーを見つけた。

「夏村さん、今日のバンド練習、動画で記録してるけど見る?」

「見る見る! もちろん、かずがセンターだよな! ボーカルだから。フイルムコンサートみたいな感じか?!」

 この後、夏村さんの家に行き、動画を二人で見た。

 動画を見終わったあと、夏村さんはこのファイルをPCにコピーさせてほしいと言ったので、コピーを作り保存した。

「これで、俺だけのかずにいつでも会える……」

 と言いながら浮かべた笑顔を見たとき、ふと、俺は夏村さんと写真を撮ろうと言った。

 夏村さんは喜び、横に並ぶと俺の肩に頭をのせ、Vサインを作っていた。

 よく考えてみると夏村さんと一緒に写真を撮ったのは池袋でのプリクラを除いてこれが始めてだった。

 撮った写真をラインに貼って夏村さんに送り、

「これならいつでも会えるね。どんどん思い出作っていこうね」

 と俺が言うと夏村さんは軽くうなずいた。

 こういうことだよね、夏村さん。


 明後日、八月一日からは、いよいよ夏期講習が始まる。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2021/10/08 校正・誤記修正

2022/07/03 改稿

2022/09/02 校正・一部改稿

2022/09/03 誤記訂正

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