2-3話 晏菜の策略(1)
【読者さまのコメント】
高松は夏村さんの水着選びに同行する!
ドキドキデート!!!
夏村さんったら、高松好みの女の子に嫉妬しちゃって可愛いなぁ♪
緊張の中、水着選びが始まった! すると?
晏菜、策士ですね?! 悪いわーーー!
最後が不穏で心配! だ、大丈夫かな?
◇◇ 翌日 ◇◇
昨日あれだけ夏村さんを怒らせてしまったので、いつものリビングダイニングで待つ時間が滅茶苦茶長く感じた。
どんな顔をして夏村さんはやってくるのだろうか?
昨日、夏村さんが帰った後、何度も電話したけど繋がらなかったし……
まさかヤンキーメークでの参上はないよなと余計なことを考えながら、テレビを眺めていても番組の内容が頭の中に入ってくる訳はなかった。
夏休みに入り、俺たち学生も朝の九時台にやっている各局の主婦向け情報番組を見る機会が多くなるが、やはりおばさま向け(失礼!)なのか、内容は俺たち若者には関係ないものばかりでつまらなく感じ、ただ時間だけが過ぎていった。
そういえば昨日の焚き付け役の晏菜はまだ起きてこないのだろうか?
「母さん、晏菜は?」
「今日は友達と会うって言って、もうどこかに出かけたわよ」
「そうか。夏村さんが来るのにめずらしい」
そう。
夏村さんが家に来るときは必ず晏菜は待機していた。
それが今日に限って家にいない。
不審にも思える行動だったが、昨日の今日、夏村さんとの衝突を避けるためにもいない方がいいかと納得した。
「今日は沙羅ちゃんとどこ行くの?」
母が俺に今日の外出の行き先を聞いてきた。
「多分、PARCOかな?、CORSOには無さそうだし、伊勢丹の可能性も有るかな?」
「何、買いに行くの?」
「いやぁ、夏村さんの付き合いかな?」
と軽く言葉を濁し、受け流した。
まさか、ここで夏村さんの水着を買いに行くなどという言葉が俺の口から出たら、母は卒倒するだろうと思った。
なにせ、食卓で俺も晏菜も交際の『こ』の字も会話に出てこなかったからだ。
両親も子供の交際についての免疫も心の準備も出来ていないのであろう。
すると間もなく、夏村さんが店先にやってきた。
今日の髪型は? と見るといつものように腰まであった金髪を結んでおらず、ミディアムレイヤーに整えた感じって…… ん?
もしかして髪を切ったのかと俺は思った。
「夏村さん、おはようございます! 髪切りました?」
「あぁ、髪伸ばしてプール行くと髪痛むし、どうせ今日、水着選びに行くなら、先に髪切って髪型と似合うものにしたかったからな。どうだ、似合うか?」
「ものすごく似合っております……」
「お前、ショートの方が好きなんだろう?」
「だから、あれは忘れて!」
そう、あのエロ本のモデルの子はショートヘアだったのをまだ根に持っている様子だった。
「そういえば、お前のクラスの隣の席の女子バレー部の子、確かショートヘアだったよな。俺より胸も有ったし…… さては、お前、あいつ、好きなタイプだろう?!」
確かに、井上さんは運動部ということでショートヘアではあったが、特には意識はしていなかった。
というか、告白してすぐに他の女の子に興味があるほど俺の懐は大きくない。
ただ、こんなことを意識させられたせいで、夏休み以降、井上さんを見る目が変わらぬよう注意しておこう。
そして、こんな話題に名前を出してしまって申し訳ないと井上さんに心の中で詫びた。
そんなことを考えながら母の顔を見ると、明らかに顔を赤くして怒っているのがわかった。
確かさっき夏村さん、俺があえて避けていた言葉を言ったよね?!
「と・こ・ろ・で、和也! 沙羅ちゃんと水着選びに行くの?!」
やっぱ、聞こえていたのですね…… お母さま!
「はい、そうですが…… 何か……?」
すると夏村さんが強引に話に入ってきた。
「あっ、おばさま。和也さんって私みたいな胸のない子は好みじゃないみたいなのでご心配はいりません。私の水着姿では発情されないようですので」
完全に根に持っていますね…… 今日一日怖いなぁ。
すると母は何に安心したのか、こう言った。
「そ、そうなのね。だったら、和也。店で他の女の子の水着見てないで、ちゃんと沙羅ちゃんの水着姿も見てあげなさいね!」
「それって夏村さんに失礼な話じゃない? 見るに決まっているじゃ・な・い・で・す・か……」
と言った自分が恥ずかしくなった。
「なんだ、やっぱり、俺の水着姿に興味あるのか…… しゃあないな、じっくりと拝ませてやる!」
「はいはい、よろしくお願いいたします」
そう言いながら俺は立ち上がり、靴を履き夏村さんの所に向かった。
「昨日といい、本日といい大変御無礼を……」
と俺が謝ると、夏村さんは、こう言った。
「いや、俺も昨日は大人げなかった。ごめん……。ところで、今日は晏菜ちゃんは?」
やはりいつもしゃしゃり出てくる『師匠』がいないことに気づいたのですね。
「今日は友達と会うって言って出かけたみたいよ」
「うん、そうか…… よく考えてみると、かずと買い物行くのって初めてだな」
思い返せば、デートのときも、勉強会の食事の準備も俺は夏村さんと二人で『買物』はしたことがないことに気づいた。
ヤンキー姿の夏村さんとは、何度も浦和駅周辺を一緒に歩いたことはあるが『買物』という目的意識をもって一緒に出掛けることは初めてだったかもしれない。
いつも買物と言えば夏村さんは晏菜と出かけていた。
「どうして、晏菜といつも買物に出かけるの?」
「何か、晏菜ちゃん、実際はいないんだけど、妹みたいで、すごくリズムが合うっていうか、話していて楽なんだよ」
「ふつつかな妹ですがお役に立てて良かったです」
彼女にはヤンキーという多くの仲間がいる。
ヤンキー同士ではそこまで気が置けなかったのだろうか、それとも彼らから夏村さんが一歩引いていたのかはわらないところだった。
しかし、以前、横山が俺に言っていたように夏村さんが『自分一人でいろいろ抱え込んでいた』という言葉をもとに考えてみると、彼らには頼らず、一歩引いていたという線が強いのかと俺は考えた。
もし、晏菜が少しでも夏村さんに対して他者がアプローチできないところに入り込んでいるのであれば、それはとても良いことだと俺は考えた。
家を出た俺と夏村さんはいつもの駅方面には向かわず、旧中山道を反対方向にいき、裏門通り商店街からイトーヨーカ堂の前に向かった。
そして、JRのガードをくぐって駅の反対側に出て、東口駅前にあるPARCOに向かった。
現在では浦和駅は西口東口が通路で往来ができるが、当時は改札で区切られており、一度周辺のガードをくぐっていかなくてはならなかった。
ガードをくぐって東口に出ても、ここ東高砂商店街は浦和駅前商店街の一部であり、父の同行で商店街の会合等に参加させてもらうことがあるため、知り合いと会ってしまう。
団子やのおじさん、焼鳥屋の店長、ラーメン屋の大将…… と顔見知りが多く、声を掛けたり、掛けられたりして挨拶してしまう。
夏村さんも俺がこんな人間だと理解し始めたので、一緒に挨拶もするようになっていた。
「おう、かずくん。今日は彼女とデート?」
東口の星野生花店の前を通ったとき、店で花の水揚げをしていたおばさんに声をかけられた。
「あぁ、おばさん、こんにちは! 今日も暑いですね」
「暑いね。かずくんも熱いね!」
「いやいや、そういえば、さとこちゃん、最近お会いしてませんが、元気にしてますか?」
「元気にしているよ。クラブで硬式テニスしていて、今日も学校だよ」
「さとこちゃんって学校どこでしたっけ?」
「市立だよ」
『市立』とは地元の人は浦和市立浦和高校のことを呼ぶ。
浦和市立の高校は以前、サッカーで有名になった浦和南高校もあるが、こちらは『南高』と呼ばれている。
浦和市内では偏差値順で県立浦和、浦和一女、浦和西、市立の順となっており、地元の人からは有名私立大にも多くの卒業生を輩出している市内でも当時から一番人気の有る学校であり、現在では中高一貫教育校として偏差値も急上昇している。
以前は『制服がかわいい高校』全国ナンバーワンにもなっており、スポーツも盛んで、以前は高校野球で甲子園にも行ったことが有る学校だ。
そういえば、俺が大鳳高で、さとこちゃんが市立に受かったとき、母は例のごとく、『さとこちゃんは市立受かってあんたは!』とめちゃくちゃ比べられたのを思い出した。
嫌なこと聞かなきゃ良かったと思いながらもすでに後の祭り。
おばさんに別れを言い、PARCOに向かった。
「さとこって誰だ?」
「花屋さんって組合が有って、浦和だと浦和生花商組合っていうのがあるんだけど、その懇親バスツアーとかに以前俺も家族と一緒に参加したことが有ったんだ。その時、同級生だったんで、バスの中でよく話したのが星野聡子ちゃんなんだ。晏菜も良く知っている子だよ」
「それで、その子はショートヘアで眼鏡で巨乳か?」
夏村さん、まだ、根に持っていらっしゃるんですね。
「ちがいます! あれ? 眼鏡は当たってたかな?」
星野さんの店から歩いて数分で浦和PARCOに着く。
女性ファッションは二、三階に有るが俺は一度も足を踏み入れたことのない未開の地であった。
そこには男性はほとんどおらず、女子高生、女子大生らしき人たちで賑わっていた。
やはりそんな所に陰キャラでダサい俺がいるのは場違いらしく、買物客はジロジロと俺を見ている。
なるべくこんな所からは一刻も離れたいのだが、俺の来ているTシャツの裾を夏村さんが掴んで離さなかった。
周りの女性は俺の顔と夏村さんの顔を交互に見ては不思議そうに考え込んでいる。
どうせ、俺は夏村さんに不釣合いですよ!
こんな流れで特設水着セール会場に着いた。
当然、女性ものの水着ばかりでどこに視線を置いても不審者になってしまうので目の置場に困る。
「さぁ、かず。何がいい? 選べ!」
全く意味が分かりません、俺には選べないって! というか夏村さんの趣味が俺には全くわからない。
「よし! 俺が選んで着てみるから感想を言って! それで決めよう」
是非、大人しい水着にしてくださいねと祈った。
『よし、行くぞ』と言いながら夏村さんは相変わらず俺のTシャツの裾を引っ張り、会場内に引き込んでいった。
ここでおどおどしていると、更に不審者になると思い、無難な方法、夏村さんの姿をずっと見ていようと思った。
夏村さんが『この水着どうだ?』と言ったら、瞬時に水着を確認し、『うん』と回答し、再び夏村さんの姿に目をやる。
次の水着を見せられたら、同様に確認し、『これは……』と回答し、再び夏村さんの姿に目をやる。
その連続であった。
「あっ! おにぃと沙羅ちゃん、見っけ!」
どこかで聞いたことが有る声…… 晏菜だった。
確か今日は友達と一緒…… 確かに晏菜は他に三名の同級生らしき子を連れてきていた。
「な、何で晏菜ちゃんがいるの?」
声を裏返しながら夏村さんは質問した。
「友達と今年の水着探しに来たら、偶然!」
楽しそうに答える、晏菜。
三人は初めて会う子たちだ。
ここは晏菜の兄らしい対応をしなくてはいけないと俺は思い、三人に挨拶した。
「晏菜がいつもお世話になっています。兄の和也です」
三人は自己紹介を終了すると、全員、目を夏村さんに向けた。
「この方は?」
「おにぃがお付き合いしている夏村さんです」
晏菜が夏村さんを紹介するや否や、三人は色めきだす。
「おにさんの彼女さん、メチャかっこいいですね」
「おにいさん、がんばりましたね。告ったとき、この人じゃ振られるとか思いませんでしたか?」
「夏村さんきれいですけど、おにいさんからの告白ってどんなのでした?」
完全にガールズトークの矢面に立たされる、俺と夏村さん。
すると、夏村さんがこう言った。
「私から和也さんにお付き合いをお願いしました。昔から好きな方だったんで」
三人は突然話すのを止める。
さすが、夏村さんの一撃はすごい。
でも言われた俺が赤面してしまった。
まぁ、嘘じゃないけどマジに告白したのは俺の方です。
そこに間髪入れずに晏菜が、こう言う。
「沙羅ちゃん、おにぃのこと好き過ぎて毎日のように家に来てるんだよね~」
その一撃で夏村さんが逆に赤面する。
夏村さんのレスポンスを確認した所で晏菜は、
「折角、会ったんだから一緒に水着選ぼうよ! それで、おにぃ、誰が一番水着似合うか判定してね」と、言い出した。
すると、『いいね! いいね!』と賛同する晏菜の友達に対し、迷惑そうな顔をしている夏村さん。
折角、この場の対処法を俺は会得したとおもったのに……
大体、『判定』って何をすればいいんだと俺は思った。
晏菜は俺の耳元で、
「どの子が好きか嫌いか言ってくれればいいんだよ~!」
と言い、晏菜は友達と水着を選びに行った。
そこには自発的ではなく、晏菜に手を引っ張られていく夏村さんがいた。
ぽつりと残された俺は水着セール会場から出て、会場の前に有るベンチに腰掛けた。
もうこの時点で俺はヘロヘロであった。
急展開な中、不思議な点が多数残る。
なぜ晏菜がここにいたのか?
なぜ友達も一緒なのか?
なぜ夏村さんを引き込んだのか?
しかし、何も手掛かりがないため、時間は勝手に過ぎていった。
セール会場にいた晏菜は俺を見つけると走って近寄ってきて、俺の手を握り、更衣室の方向に連れて行きながらこう言った。
「さぁ、水着ショーの始まりで~す!」
セール会場の水着のジャングルの中を俺と晏菜は突っ切っていった。
周りは色とりどりの水着の木々が俺達を取り囲んでいた。
俺はここにいて良いのかと赤面しながら晏菜の後を付いていくとセール会場左奥手の方に5つの更衣室が並んでいた。
その上、なぜか、その空間だけは人ごみも少なかった。
更衣室のうち、左の一つはカーテンが開いていたが中には水着が何着か置かれており、その他は使用中のようだった。
晏菜は開いていた一番左の更衣室に入るとこちらを見ながら、
「じゃ~ん! さて、お待たせしました。これから、『おにぃが好きであろう水着を選ぶのは誰だろう大会』を開催しま~す!」
と言った。
俺はそのコールに拍手を贈る訳にも行かず、突っ込む。
「言っている意味が分かりません?! 大体、趣旨がよく分からん!」
「これから美女五名が水着を着て順に登場いたしますので、おにぃは誰が一番好きか答えてください。いいですか?」
「全然、よくない!」
俺がそう言っても晏菜は勝手に始めてしまう。
「ではエントリー番号一番 なかやま ななみ!」
と晏菜がコールすると左から二番目の更衣室からカーテンを開けて晏菜の同級生が水着姿で登場する。
さすがに生の女性の水着姿を見ることは中学校時代、プールのなかった俺には免疫が無かった。
しかし、なぜ、ななみちゃんは見ず知らずの友達の兄に水着姿を見せて喜んでポージングしているのであろうか?
理解に苦しむ。
しかし、中学二年にしては成長がよろしいようで目の置場に困る。
「何やらおにぃの挙動が変なのでおもしろくなってまいりました。次に参ります! エントリー番号二番 たかやま あかね~!」
別の子が登場する。
一番目も二番目の女の子もカラフルなビキニであった。
最近の女子中学生は成長が早いのか、この子も胸が結構有ることに気づいた。
男の子だもん! 心頭滅却してはしているが視線は自然に胸に行ってしまう。
しかし、俺はこの二人を見た時、胸に引っ掛かる違和感を感じた。
あれ? この子も髪型、ボブヘア……?
「既におにぃは赤面状態! 続いて、エントリー番号三番 あさくら れな~!」
更に別の子が登場した。
三人目の女の子が出てきたとき、俺は三人の共通点に気づいてしまった。
三人とも巨乳(世間ではそれほどではないのかもしれないが)、眼鏡、ボブヘアで登場しているのであった。
そのキーワードを頭の中で見つけてしまった時点で、俺は嵌められたと思ったが、後の祭り。
顔が真っ赤になってしまった。
そして三人目のコールが終わると同時に更衣室に籠もった晏菜は適当なタイミングで、
「続きまして、エントリー番号四番 たかまつ あんな~!」
と自分でコールして自分が登場してきた。
まあ、俺の妹なので気休めにと思い、晏菜の姿を見た。
しかし、晏菜は今までの四名の中で一番バストが有り、色も白く、普段もかけている眼鏡をかけ、わざとらしく、ちょっと恥じらいながら登場したのだ。
その上、晏菜はいつもとは違うメガネをわざわざ準備してきた様子である。
確か、最後に晏菜の水着姿を見たのは二人とも小学生の頃であった。
不覚にもやたら緊張してしまう。
何これ? 俺は妹に何か悪い感情が生じているのではないか混乱しながら、額の汗を拭いた。
「おにぃ、どう? どうよ?」
「幾ら妹でも水着姿見るの久しぶりだから緊張したわ!」
俺は半ば切れ気味に晏菜に言った。
「あれ? おにぃ、私のこと意識してない~?」
そこで俺は気づいた。
前の三人で緊張させ、緊張MAXのときに自分が出てきて俺を脅かそうという魂胆であろうことを。
実の兄が緊張しているのがそんなに楽しいのか?!
「するか!」
と恥じらいながら俺は大声を上げることしかできなかった。
「さて、最後にエントリー番号五番 なつむら さら~!」
このコールに半ばやけ気味に更衣室のカーテンを開けた夏村さん。
そこには晏菜たち四人と別次元の人間かと思うような水着の女性がいた。
ワインレッドのビキニで上品さが有り、そこからの伸びる手足が長くて美しかった。
「どうかな、これ? 昨日、帰りがけに本屋で買った雑誌を研究して探した…… オイ! お前、眉毛がハのときになってるぞ。俺にゾッコンだろ!」
眉毛の件、晏菜の野郎、つまらないこと教えやがって! はいはい、そうですよ! と思いながら夏村さんに言葉を返した。
「今日のためにいろいろ準備して考えてくれてありがとう。今日の髪型ととてもお似合いです」
「このタイプの水着だと胸が少し誇張できるらしいんでな。どうだ! 欲情してきたか?!」
「はい! しました! 夏村さんが一番です!」
やっぱ、夏村さんはすごいと思った。
完全に俺は彼女の手のひらで転がされていた。
多分、晏菜は夏村さんが胸を気にしていたので、胸の大きめの同級生を集めて、いじるために設定した水着大会も夏村さんのスタイルで完敗させられたと俺は思った。
結局、晏菜も同級生も所詮中学生、高校生の夏村さんには勝てるわけないのだ。
また、こんな素敵な子の横に、外観が完全に陰キャラで短足の水着姿の俺が並んだのを想像するとバランスが悪いなあと感じ、ため息を着いてしまう。
「どうした? かず。」
「いや、こういう場面になるといつも夏村さんの隣が俺でいいのかなぁと考えちゃうんだよね……」
「気にするな、俺は俺の隣はかずだけだと思っているし、かずと並んで歩くのが楽しいんだ」
ありがとう、夏村さん。
「お前が満足しているか分からないが……」
「満足してます!!」
「ところで、晏菜ち・ゃ・ん? 何で四人とも同じ格好で眼鏡かけているのかなぁ? 何か不愉快な感情が湧いてきた!」
と言いながら、夏村さんが指をバキバキと鳴らして、晏菜たちを睨みつけた。
「ごめんね、沙羅ちゃん。私たち、お邪魔みたいなのでここで失礼しますね。バイバイキーン!」と言うとそそくさと着替えを終わらせ、友達とこの場を離れた。
あいつ、何を企んでいるんだと、問い詰めようと思ったのだが、夏村さんが別の水着も用意してあるので見てほしいと言われたので、更衣室前で待った。
『俺が夏村さんの横でいいんだね……』
と俺は夏村さんに感謝し、もうこれ以上つまらない考え方をするのをやめようと思った。
似つかわしくない男性ではなく、胸を張って夏村さんの彼氏ですと自分から言えるような男になりたいと思った。
そして数十分後
夏村さんが水着を購入して、俺と会場を出るのを会場の端から眺めていた晏菜とその友達はこう言った。
「晏菜のおにいちゃん、本当に真っ赤になってたね」
「やっぱ、おにぃ、巨乳、眼鏡、ショートヘア、清楚系好きだわ!(笑)」
「これは夏休みの楽しみがひとつ増えましたワイ」
「晏菜ちゃん、次の作戦もよろしくね!」
「次は、たぶんプールになるけど、みんないい?」
「オ~!」
「夏村さん、これからどうする? 俺の家へ行く?」
「いや、これから俺の家に行って、水着ファッションショーだ。そこで、かずがプールで興奮しないように免疫を作る。別に帰ってから俺の水着姿を思い出してオカズにしてくれてもいいぞ。その方が後々…… まあ、これはどうでもいい。それと、俺もかずの裸、見ても緊張しないように、お前の裸…… も・ち・ろ・ん・上・半・身だけだけどじっくり拝んで頭にインプットする」
「もちろん裸は見せないけどね」と笑いながら、俺と夏村さんは家に向かった。
プールの場所と日程は夏村さんが天気予報を見て決めることになり、当日朝に電話をかけてくることになった。
まあ、夏期講習が始まる前なら俺はいつでもよかった。
◇◇ 北区赤羽 ◇◇
JR線赤羽駅の西口ロータリー周辺は夜の二十二時を回っても人通りは絶えなかった。
地下のゲームセンターでたばこをふかしながらゲームをしている男がいた。
外観は明らかに高校生であったが、眼光鋭く店員は喫煙をとがめることはしなかった。
もう手元にはコインはほとんどなく、その後、ほんの数分でコインは使い切ってしまった。
男は煙草をくわえながら、立ち上がり、同じくゲームを終了して帰ろうとしていた会社員風の男の後を追っていた。
ゲームセンターを出て、一階に上がる階段で男は、会社員風の男の背中をつかみ、右手にはナイフを持ち、会社員らしき男の背中に押し付けた。
それを感じ取った会社員風の男は両手を挙げた。
男は、口に煙草をくわえたままこう言った。
「すいません。ちょっと帰るのにお金足りなくなっちゃったんで貸していただけませんか?」
会社員風の男が手を震わしながらポケットから財布を出すと、男は財布を取り、中に有った一万円札二枚を抜き取り、会社員風の男に財布を返した。
そして男はこう続けた。
「すいません。後でお返しに上がりますので、お名前と電話番号を教えてください」
と言い、背中からナイフを離すと、会社員風の男はそこから走って逃げ去った。
男は会社員風の男の後は追わずに、抜き取った紙幣を自分のポケットに入れた。
「あれ? 借りるって言ったのに、俺にこの金くれたのかな? ありがとうございます!」
と言い、ゲームセンターの別の出口から出た。
男は外に出ると交番のある北改札ではなく、南改札に向かい、券売機で切符を買った。
それは『南浦和』までの切符であった。
改札前まで吸っていた煙草を改札前で下に投げ、足で踏みつぶしながら男はこう言った。
「夏村と部下の奴ら、いつかぶっ殺してやる」
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2021/10/07 体裁・誤記修正
2022/06/25 改稿
2022/08/30 校正、一部改稿




