2-1話 終業式の日(1)
【読者さまのコメント】
期末試験が終われば一学期が終わるということで、となるとやってくる!
通 知 表 ! ! !
ドキドキする! でも、さすが高松。すごいなぁ。
高松は多江ちゃんと同じ理系志望かぁ。
夏村さんはどうするのかしら?
高松の家族に馴染んでいる夏村さん、凄すぎる!
◇◇ 一学期の終業式の日 ◇◇
当校後、全体集会で体育館に全生徒、職員が勢ぞろいする。
相変わらずのつまらない校長のお言葉を聞き、夏休み中の注意点などを教育指導の渋谷先生から聞いた。
『不純異性交遊』って言葉、どうも引っ掛かります。
俺、抵触していないよなぁと不安になる。
相手が誰であろうと好きなもの同士であれば、不純じゃない、逆に清純だよと俺は強く先生の口から出た単語を否定した。
うちはまだ付き合って間もないし、夏村さんと話ができるだけでうれしいし、それ以上のことは望んでいなかったからだ。
交際していても童貞、別にいいんじゃないの?
卒業まで交際が続けば、その時に考えればいいと思った。
もちろん、高校一年だからエッチなことは頭を駆け巡るけど、それはいつでも解消できる。
まずは夏村さんのことをいろいろ知りたい欲求の方が強い。
これは俺と夏村さんだけで共有する情報であり、他の人は知りえない情報だ。
この優越感をため込んでいきたいと思った。
これが最終的に夏村さんとの思い出になる。
思い出を積み重ねることで記憶が構成されていく。
みんなとは違った俺だけの真の夏村さんの情報のパーツが集められ、組み立てられていく。
こんな日々が楽しいのだ。
ところで、うちの高校は全体集会の際、前に一年生、後ろに二年生が並ぶ形式になっている。
これは入学式も同様であった。
当然、クラスでの並び方は身長の低い人が一番前で、高くなるほど後ろになる。
俺はクラスの男子では一番背が高いので列の一番後ろに並んでいたのだか、ふと、後の先輩方はどんな感じかと後ろを振り返ると、入学式のときの状況とは異なり、きちんと身長順に並んでいた。
もちろん一年生はどうかと言うと、俺が最後位にいるくらいなので、順位は守られていた。
周りの同級生は全く気にしていないようであったが、俺はこの大きな変化に違和感を感じていた。
入学式のとき、後方でタムロっていたヤンキー先輩たちの存在と今は順序よく整列している先輩たち……
何かあったのではないかと思うのに十分な変化であった。
ふと、隣のクラスを見ると女子の一番後ろに夏村さんはいた。
多分、身長は百七十センチくらい有ると感じていたので学年でも高い方だと思う。
目が合うとヤンキー姿にもかかわらず、ちょっと手を振ってきた。
格好としぐさのギャップが有り過ぎて、俺は少し笑ってしまったが、そのまま無視も出来ないので、俺も照れながら手を振り返した。
すると隣に並んでいた井上さんが俺の横っ腹を突っつき茶々を入れてくる。
井上さんは女子バレー部の高校一年にしてエースであるため、身長は俺よりも高く百八十センチはこえていた。
教室でも隣で体育館でも隣。
俺と夏村さんとのやり取りを見ては、からかってくる。
さて、俺は体育館で気づいたことを確かめるすべもなく、終業式の全体集会は終了した。
体育館から総合棟に移り、一階にある職員室の掲示板に、ふと目をやったとき、そこには
『二年四組 阿部 剛 退学
理由:著しい風紀違反が認められたため退学とする』
という張り紙が有った。
うちみたいなヤンキー高校なのにも関わらず、『著しい風紀違反』で処罰というのはかなりのことをしでかしたのかなぁと俺は思った。
この時点では、このことは俺にはどうでもいいことで、時間がたつに連れ、忘れてしまったのが、このことが夏休みでの本校の一大転機となる大事件につながるとは俺は知る由もなかった。
教室に戻ると、クラスルームが始まり、まずは各教科担任の先生から夏休みの宿題としての課題資料や問題集のプリントを渡された。
この辺、各授業の最終日に手渡せばいいのにと思うのだが、ご丁寧に生徒が無くしたり、教室に置き忘れないように終業式の後にまとめて配ってくれるという、学校側のご配慮のたまものであった。
さすがに自由研究や絵日記とかはないが、プリントの量は小学校の夏休みの宿題を思い出させるほどの量であった。
ついに最後の大詰め、担任からの通知表の配布である。
渡された通知表の点数について一、二学期は各教科十点制で三学期は五点制であった。
通知表はクラスの番号順(あいうえお順なのだが)に名前が呼ばれて担任から手渡された。
『おまえ、がんばったなあ』の一言ぐらい手渡される時に担任からコメントがあるかと思ったが、成績といえども個人情報、コメントは控えての手渡しということであろうか。
何ひとつコメントはなく、「はいよ」と言われて終わりだった。
俺は渋谷先生から通知表をもらうと通知表の中身は見ずに席に戻った。
そして席についたらこっそりのぞいた。
体育が八点、書道が七点でその他はすべて十点であった。
中学時代運動部に所属したものとしては次からは体育も真面目にやらないとは思ったが、字ばかりはどうにもならないので努力だけは見せるようにしようと思った。
そして、一学期の総評の欄にはクラス一位、学年一位と記載が有った。
多江ちゃんには悪いが、三年間は負けないぜと俺の決心は固まった。
その後、あいさつとともに終業となり、風雲急を告げた俺の一学期は終了した。
例のごとく俺の机の周りに集まった勉強仲間たち。
通知表を見せ合い、順位を比べる。
クラス順位イコール学年順位とは行かず、五科目以外が得意不得意で順位が微妙に変化していた。
勉強仲間七名(俺、多江、佐々木、さくら、坂本、鵜坂、牧野)で学年七位までを独占していると思ったのだが、どうも鵜坂、牧野の前に一名、他のクラスで俺たちの間に割り込んできた子がいることが分かった。
そのときは『誰だろうね?』程度で話は終わったのだが、帰路で鵜坂、牧野はかなり気にしていた様子だった。
俺はこんな会話を勉強仲間としている間に夏村さんがやってきて、話に割って入ってくるのかなぁと思っていたのだが、今日はうちのクラスにやってくることはなかった。
俺は仲間とともに自転車に乗り、次回、夏期講習か全国模試のときに会おうなという話をして別れた。
最後まで俺と帰り路が一緒だったのは多江ちゃんだけだった。
「どうだった、一学期。楽しかった?」
と俺が多江ちゃんに聞くと、
「うん、入った時は自分一人でがんばればいいかなっておもったけど、かずくんの仲間に入れてもらって、かずくんという好敵手も見つかったのでよかったかな」
「じゃあ、俺がバカだったら、多江ちゃんはどう俺を扱ったのかな?」
「無視かな」
「まじか~! でもよかったよ、嫌われなくて」
「ところで、かずくんと私だけ理系志望だけど、大学はどこ目指すの?」
と多江ちゃんに聞かれたとき、まだ具体的に進路が決まっていない自分に気づかされた。
「化学とか生物が好きなだけで具体的には決まっていないんだ」
「そうなんだ、でも、成績上位の子は、もうそろそろ具体的な志望校を決めていかないと力を入れるべき科目とかも絞れないから早めに決めていた方がいいよって塾の先生にこの前に言われたよ」
「微塵も考えていなかったよ。夏休み中に考えようかなぁ? ところで多江ちゃんは?」
「私は国立医学部が第一希望だけど、私立でもいいから医学部に入れって言われているんだ」
「医学部か…… そりゃ大変だね。うちは中流階級だから医学部なんて学費は払えないから無理。だから医歯学部以外で将来お金貯まりそうな、手に職をつけられる学部を狙って勉強しようかなって思っている」
「何か堅実すぎて女性みたいだね」
「それは悪うございました!」
「でも当分は同じ理系だから一緒にがんばろうね!」
「オッケー!」
確かに勉強仲間七人にのうち現時点で明確に理系志望なのは俺と多江ちゃんだけだった。
俺自身の思いは、他のやつはどうでもいいから多江ちゃんだけには志望大学に入学して、医師の道に乗ってもらい、家族関係を取り戻してほしいと思っていた。
「じゃあ、この辺で!」
そう俺が言った瞬間、多江ちゃんがこう切り出した。
「あの~、今度、かずくんちへ行っていい?」
「えっ! 何で?!」
「同じ理系ということで分からないことが有ったら聞きに行きたいなぁと思って」
「塾の先生に聞いたら?」
「毎日、塾に行く訳じゃないから、塾がない時に分からなかったら聞きに行こうかなぁと」
多江ちゃんの家は俺の家の有る高砂と目と鼻の先の仲町に有り、自宅がクリニックを開設していた。
『小倉外科内科小児科クリニック』は地元では有名で外科・内科を多江ちゃんのお父さんが、小児科をお母さんが担当している。
実際、俺も晏菜も子供のころはよく小倉先生を受診していたものだ。
多江ちゃんの家には同じ二丁目同士で、歩いて二、三分で着くことができる距離にあった。
「別にいいですけど…… 俺には夏村さんがいるので…… 彼女以外の女性が来るとちょっと立場が……」
「じゃあ、今度、なっちゃんには私が直接話しするから。それでオッケーならいい?」
「まぁ陰でコソコソやるよりは、了解取得済みであればいいですけど」
「じゃあ、今度、なっちゃんと話しておくね」
「あぁ、けんかにならないことを祈っておきます」
「そんなになっちゃんは怖くないんだよ、本当は。性格はかわいいんだから!」
自宅モードはそうなのかもしれないが、ヤンキーモードでは到底考えられなかった。
この日は多江ちゃんとはこんな話をして別れた。
家に帰り、店先に自転車を止めていると隣の山田さんが声をかけてきた。
「おっ、かずくん、お帰り! 奥さんもう帰ってきてるよ」
奥さん=夏村さんの意味であろう。
早く帰ったのってこれが目的だったのかと俺は思った。
良からぬ話をしていなければいいのだが。
「おじさん、まだ結婚なんか決まってないし、ぼくはまだ結婚すらできない年ですよ!」
「そうか、ということは今は嫁入り修行中ってところか? 奥さん、花屋を継いでくれるって言ってるのか?」
「あんな格好していてもお嬢様なので花屋みたいな汚い仕事は無理っすよ!」
「でも、今日はかわいい格好して、さっきまでエプロンを付けて花の水取り換えをしてたぞ!」
「えー! 知らない、知らないっすよ!」
そういえば、以前夏村さん『嫁入り修行するか?』とか言っていたのを思い出した。
「か、確認します!」
と言って、俺は誰もいない店の中を通り、リビングダイニングに向かう。
ドアを開け部屋の中を見ると、確実に一度自宅に戻って自宅モードに変わったであろう夏村さんがエプロン姿で定席に座って両親とお茶をすすっていた。
「かず、お帰り! 今日はお前のお嫁さんに店の手伝いしてもらったよ!」
本当だったんですね! てか、どこまで本気なの? 夏村さん!
「あぁ、商売ってすごく興味有ったから、まずはお手伝いしてみようと思って。まずかったか?」
「いえ、とても光栄です!」
夏村さんはどこまで一直線な人だなという俺の感心が俺の羞恥心を吹っ飛ばしてしまう。
「ところで今日は何?」
「通知表をもらったから真っ先におじさんたちに見せに来た」
「うれしいこと言うねぇ。かあさん! 市役所行って、婚姻届もらってきな!」
「だから、まだ早いって!」
「お前! もしかして後々俺と違うやつと結婚するつもりか?! おじさん、こいつ浮気しようとしているので殺していいでしょうか?」
「いいよ。また別の出来のいい子を作る」
「悪いな、息子が出来悪くて!」
全く掛け合い漫才みたいな会話である。
でも、本当に夏村さん、俺の家族に溶け込んでいるなぁと思った。
ところで……
俺は自分の席に着くと夏村さんに改めてこう言った。
「では、夏村さんの通知表を見ましょうか」
と言うや否や『じゃ~ん』と言って自分のカバンから通知表を出してきた。
俺は夏村さんから通知表を預かり、開く。
何と主要五科目以外はすべて十点、主要五科目も八以上の点数を取っている。
確かに夏村さんは字もきれいだし、家庭科の課題も得意そうだし、球技大会を見たら運動もできそうだ。
ところで順位は……
クラス順位一位、学年順位ろ・ろ・六位?!
点数的には勉強仲間のうちの五名と差は有るが鵜坂、牧野と全教科足した成績では、夏村さんが勝っていた。
これについて俺は正直びっくりしていた。
主要五科目以外の科目がこれほど高いとは思ってもみなかったのと、ヤンキーなんかが音楽や家庭科とか絶対マジにやるとは思ってもみなかったからだ。
そういえば夏村さんが国立大学附属中学出身だったことを俺は思い出し、夏村さんが主要五科目も本気で上げてきたらと考えたとき、少々寒気を感じた。
「すごいなぁ、沙羅ちゃん。中間テストはそれほどじゃなかったんだろう?」
「おじさん、かずやさんの教え方が良かったんですよ。中間は中の上くらいだったのですが、期末が良くて、通知表は期末までの達成度で評価されるのでこんな成績になりました」
「でも、すげぇや! 沙羅ちゃん。こんだけ顔も良くて、成績も良かったら、かずなんかじゃなくて、もっと良い人探した方がいいんじゃないか?」
「いえいえ、たとえ私がかずやさんを成績で抜いたとしても、かずやさんを見捨てるようなことはしませんので!」
「かず、言われてるぞ! (笑)」
そこへ、晏菜も帰ってきた。
晏菜の中学も今日が終業式だった。
「ただいま…… 暑ちぃ…… あっ! 沙羅ちゃん、来てたんだ!」
「また来てます!」
「よく飽きないね? こんなおにぃの顔」
「見れば見るほど味がでるので」
「えっ! 沙羅ちゃん、おにぃの顔、なめたの? それともキスでもした? 絶対死ぬよ!」
「えっ! 本当! どうしよう! 死んじゃったら」
「てか、沙羅ちゃん。おにぃとキスしたわけ……?」
夏村さん、あからさまな誘導尋問に引っかかるなよ……
うちの家族の一人と言っても過言でないこの雰囲気、夏村さんはすでに他人ではなく、家族の一員として俺たち家族の輪の中に融合されていた。
そんなところに母は、晏菜に向かってこう言った。
「沙羅ちゃんはいい成績だったのよ。晏菜は?」
「はい。ちょっと待ってね」
と言って晏菜は母に通知表を手渡した。
学年三位!
相変わらずのすごいやつだ。
俺の出身中学からは毎年、県立浦和、浦和一女に数人入学していることから考えても、晏菜の成績から高校の進学先には母も期待をしていたようだった。
「晏菜ちゃん、これなら一女も間違いなしだね。再来年の受験が楽しみだな」
そう言った夏村さんに晏菜はこう言った。
「あたし、大鳳行くから。それまでにおにぃと沙羅ちゃんで大鳳をいい学校にして! そして私が在学中に沙羅ちゃん、おにぃ、おにぃの仲間が有名大学に行った実績を作って! そしてみんなが楽しんで勉強できるシステムを校内に作って! 沙羅ちゃんだったらできるよね! おにぃはその後押し。おにぃが先陣切るととんでもないことするの分かっているから」
「ちょっと待って! 晏菜、何言っているの?!」
当然のことなら進学に対して厳しい母は顔を真っ赤にして晏菜を怒った。
しかし晏菜は介せず、こう言った。
「だって、大鳳、楽しそうだもん。私は二年になった時、そのとき沙羅ちゃんもおにぃも有名大学受かっていたら鼻が高いし。その上、ヤンキーが有名大学進学ってアニメじゃないって! まぁ冗談はさておき、沙羅ちゃん、おにぃ、がんばってよ!」
「冗談なのね。余り心配させないの!」
と言い、胸をなでおろす母。
「だって、おにぃも沙羅ちゃんも毎日楽しそうなんだもん、そんな学校行ってみたいって思うじゃん」
「実際はそんなもんじゃないんだよね…… 夏村さん? どうかしたの?」
ふと、夏村さんの顔を見ると先ほどまで明るかった表情が曇っているように感じた。
これは夏村さんに胸を張って宣言できない何かがあると感じ、話を変えようと思った。
「夏村さん、いつもこの部屋ばかりだから俺の部屋に行ってみる?」
「えぇ! かずの部屋…… 行っていいの?」
両親、晏菜の顔を見回す夏村さん。
「いいよ。行ってらっしゃい。ところでかずやの部屋、臭くないか?」
父は余計な情報を提供してきたので、早々に打ち消さなくてはいけない。
「臭くないわ!」
「じゃあ、私も自分の部屋に行くわ! 隣で悪いことをしたら聞こえるからねぇ~!」
確かに俺の部屋で俺が夏村さんに不届きなことをして、変んな声(どちらの声からわからないが)を発したら隣にいる晏菜には聞こえるだろう。そこは事前に打ち消しておく。
「するか!」
「じゃあ、お昼ができたら呼ぶわね。沙羅ちゃん、昨日の残りのカレーでいい?」
「あ、あ、ありがとうございます。失礼し・ま・す……」
と夏村さんは緊張しながら答える。
そんなに緊張してたら、こっちも変に緊張しちゃうじゃないですか。
ところで……
「あのう、俺の通知表って皆さん、興味ないの?」
「興味ない。そこにおいといて」
なんとも冷たい母の仕打ちであった。
そんなこんなで俺たちは俺の部屋に移動するため腰を上げる。
そして、晏菜は自分の部屋へ向かった。
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編集記録
2021/10/05 体裁・誤記修正
2022/06/18 改稿
2022/08/28 一部改稿
2023/05/29 校正




