1-10話 初の試練
【読者さまのコメント】
勉強会を開始して、ついにきた……!
期末テスト!!!
夏村さんのこれまでの頑張りはどのような結果を出すのか、そわそわする!
勉強に前向きな夏村さんが可愛くて、ものすごく応援したくなる!
そして、結果! 最強ですわ!!!
でも、最後が不穏……!
◇◇ 梅雨も明けた7月中旬 ◇◇
夏村さんに勉強を教えてから最初の試験があと一週間に近づいた。
毎週三回通っていた進学塾も試験休みに入り、前回の中間試験の時であれば坂本の家に集まって勉強仲間で勉強会をしていた。
今回は夏村さんと試験に臨みたいと思っていたので、早々に勉強仲間には勉強会への参加を辞退していた。
佐々木からはおまえが居ないから、今回のトップは俺だなと言われたり、坂本からは夏村さんの成績を上げてもおまえの成績が下がったら、おまえのところの母さんって怖いから注意しろよと心配されたりとさまざまな反応であった。
中でも多江ちゃんは、俺よりも夏村さんを気にしているようだった。
「かずくん、なっちゃんの勉強はどんな感じ?」
「学校の授業には付いていけてるみたいなんで、まずは期末試験で実力試しだね」
「かずくんがそこまで言うなら大丈夫だね」
「保証する」
「じゃあ、結果を楽しみにしておこうっと」
あれ?
俺の話はと思ったが、やはり旧友の成績が心配だったのであろう。
試験終了日前日までは毎日、夏村さんとの勉強会には付き合おうと思った。
彼女には教科書に準じた問題集を購入させ、その問題を解かせて、問題・疑問点があれば俺に質問させた。
うちの高校のレベルを考えると、このレベルの問題集で十分だと思っていた。
今はこれで必要十分。
手の空いた時間、例えば彼女が集中して問題集を解いている時は自分の勉強に集中できた。
今の授業に追いつくまでは、あぁだの、こうだの、煩かったが、授業に追いついてからは彼女のペースで学習している。
その辺は中学時代を思い出したのか、彼女の勉強に対しての集中力はすごかった。
もともと読解力や理論的な力はある子だと思っていたが、嫌がっていた暗記も日が進むにつれ、嫌がらず積極的に行うようになっている。
実は暗記ものを中学時代は得意としており、勉強の仕方を取り戻せば、できると思っていた。
ヤンキー時代に定着した『めんどくさい』を払拭してやると進みは早かった。
最近では俺が進学塾で出された到達度試験の問題を解かせてみた。
当然、おバカ高校の授業に比べて、難易度は高いのだが、苦しみながらも問題を全問回答することは出来るようになっていた。
誤回答は散見されたがよくここまで追いついてきたなぁと感心していた。
勉強会終了。
「終わった~。疲れたぁ。じゃあ、ご飯を暖めてくるわ」
もう、勉強会終了後のいつもの二人の会話になっていた。
どうせ、自分の夕飯を作るからおまえも食っていけというのが発端であったが、いまさら拒む理由もないので、食べて帰っている。
最近は母が気を利かせて、食事代として夏村さんが来た時にお金を渡しているようだ。
始めはお金を拒んだ夏村さんだが、お金を受け取っちゃえば、その金で食わせているという理由ができると考え、今では気持ちよく受け取っている。
実は俺の方が一緒に過ごしている時間が楽しくて率先して付き合っているというのが本音であった。
思い起こせば、勉強会開始当初は苦難の連続であった。
約束はしていたが、間違えると切れるし、わからないことを話さず、教えてくれなかった。
それを解消するのに時間は掛ったが、それを受け入れるだけの夏村さんには懐があった。
無駄な抵抗を振り払った後、勉強の進捗が一気に進んだ。
実感を得た夏村さんは一気に俺と打ち解けてくれて、学校での態度も変わっていった。
短い期間ではあったが、お互いに納得しあえる時間を共有することで、当初、仮の交際ではあったが、今や本当の彼氏・彼女になることができた。
食事がのったテーブルを挟んで、いつものように今日の勉強のことや日常のことを話し合う。
今も学校では夏村さんはヤンキー姿で過ごしている。
そのことについては二学期以降に検討するとして、まずは明日からの期末試験をがんばらなければと思った。
「さてと、いよいよ、明日の月曜からは期末試験だね」
「結構、がんばったんでいけると思う。ありがとう」
「うん、俺もたぶん夏村さんは行けると思ってる。大丈夫。胸を張っていこう」
「わかった。でも、本当に結果が出てほしいなぁ。これが俺のかずへの恩返し一号になるしなぁ」
「えっ、二号とかもあるの?」
「それは今は言えないよ。おいおい達成したらやっていくから」
「うん、それじゃあ、楽しみにしてる」
「あんさぁ~」
「何?」
「……~~結果が悪くても、俺を見捨てないでくれる?」
「もちろん。最後まで付き合うよ。大学に行くんだろう?」
「ありがとう。がんばるよ」
「まずは、成績が出たら、真っ先に点数を教えてよね。次回の対策を考えます」
「おう。すぐ教える」
そう言って夏村さんとは別れた。
とはいえ、俺がうちに帰っても夏村さんは何度も不明点を電話で聞いてきた。
今回の試験に対する彼女の決意の強さを嬉しく思い、話を最後まで聞いていた。
そして同様の勉強会は、試験一日目、二日目の午後も続いた。
試験が終わった後、夏村さんの家で、試験できたかと聞くと、
「たぶん、できた」
と笑顔で回答してくれるのがすごくうれしかった。
俺の高校受験後に両親に伝えた言葉と同じではあったが、真意はまるで違う。
結果は二の次、夏村さんをまたひとつ俺の手で笑顔にできたのがうれしかった。
期末試験終了……。
俺は勉強仲間と話しながらげた箱に移動する。
みんなは結構試験の出来には自信がある様子だ。
まぁ、しょせんうちの学校の期末テストなので難易度は激低い。
みんながそう思うのも無理はない。
明日は試験休みであさっては球技大会。
球技大会はサッカーに出場する予定だ。
明日は、勉強仲間と夏期講習の申し込みに行く約束をしていた。
上履きをげた箱に入れ、置いた靴に履きかえ、出口を見ると右手を腰に置き、左手を扉に置いた夏村さんがニコニコしながら俺にこう言った。
「試験、終わったぜ。かず、デートしよう!」
俺が不意にニヤけてしまったのを見ていたのか、佐々木は俺の肩をたたき、こう言った。
「試験が終わったんだから、仲良くがんばってこいよ。明日は南浦和駅前十三時集合なぁ!」
『がんばってこいよ』の意図は俺には分らなかったが、出て行く勉強仲間に手を振った。
勉強仲間が夏村さんの前を通り過ぎるとほぼ同時に夏村さんは多江ちゃんに声を掛けた。
「小倉さん、今、いいかな」
「なっちゃん、いいよ」
「小倉さん、いろいろ迷惑をかけちゃってごめん。かずから小倉さんが心配してくれていたことを聞かされていたんだ。中三の時、いろいろ有って小倉さんに迷惑を掛けたくなくて、何も言えなかったままだったけど、本当に悪かった。一度おわびしたかった」
軽く多江ちゃんに頭を下げる夏村さん。
「なっちゃん……。いいよ。気に掛けてくれていたことがわかっただけでうれしいよ。それと、中学の時みたいに、なっちゃんとこれから話せるかな?」
「うん、大丈夫。かずからいろいろと教えてもらったんで、時間はかかるかもしれないけど、がんばるよ」
「わかった。じゃあ、かずくんと仲良くね。なぐっちゃだめだよ!」
「なぐるわけねぇだろ。サンキュー!」
「いいよ。元気ななっちゃん、好きだし!」
手を振って勉強仲間の元へもどる多江ちゃん。
それを見送る夏村さん。
「これが彼女に言いたかったことですか?」
「うん、全部とは言えないが、少しでも伝えられたから、いいや」
「じゃあ改めて、どこに行きます?」
「腹が減ったから、餃子の満州に行ってからかずの家な!」
結局、俺の家に来るのかと思ったが、一番無難な選択だろう。
ヤンキーモードの夏村さんと一緒なら。
球技大会。
辞めればいいのに夏村さん、俺の応援に来るもんだから、相手チームもビビっちゃって、最終的に優勝してしまう始末に。
実は目立たない程度に中学時代サッカー部の片りんはみせたんですけどね。
夏村さんはと言えば、バスケットボールの試合に出ると運動神経が高く、ゴールを量産、こちらも優勝。
試合終了後、なぜか、俺はヤンキーたちの打ち上げに参加させられて……。
その辺のところはまた機会があればお話ししたいと思う。
試験休みと球技大会中に先生方は試験の点数を付けているのだろう。
球技大会の翌日には、試験の返却と成績表の交付、昼休みにはまた校内の成績優秀者の発表が職員室前の掲示板である。
俺は解答用紙の返却の時点で全科目満点の連勝記録は続いたことがわかっていた。
今回も一位獲得は確実ではあるが、勉強仲間には何点かは伏せている。
結果発表時の楽しみはとっておいた方が楽しい。
職員室前。
もうすでに人ざかりが出来ていた。
そんなに他人の順位に興味あるのかと不思議に思いながらも、結局、見に来ている自分もいる。
まずは二年生の成績上位者が発表される。
成績は一位からの発表となる。
二年の一位は上郷地先輩。一年の中間試験から一度も一位から落ちたことがないとのこと。
一度お会いしてみたいものだ。
二位は今回も小鳥遊先輩だった。
次に一年生の発表である。
一位は俺、多江ちゃんが二位、その後、佐々木、さくらちゃん、坂本、鵜坂、牧野、う~ん、勉強仲間がベスト7まで独占したな。
相崎、夏村、森。
夏村?
あの夏村さん以外にも夏村っていたんだねと俺は思った。
俺が一覧表を眺めていると、
「おい、かず!」
群衆が左右に分かれ、夏村さんがやってきた。
「さすが、かずだな。連続一位おめでとう。うかうかしてるなよ。じきに抜く。よろしく!」
と言いながら、掲示板の成績上位者の前に行き、紙面のある箇所を指さした。
俺はその指先の文字を読んで絶句する。
『第9位 夏村沙羅』
夏村さんは俺の方に近づき、俺の肩をバチバチたたき、耳元でこう言うのだった。
「ご褒美に夏休み、どこか連れてけ……。か・ず!」
群衆を抜けるとヤンキー仲間が夏村さんを取り囲み賛辞を贈っている。
さすが、夏村さん、あんたは最強だよ。
俺は満足感を感じるとともに、本当に最強のヤンキーを育ててしまっているのではないかと思った。
だが、そんな心配は全く必要なかった。
俺が自宅に帰ると夏村さんはうちのリビングダイニングルームにおり、いつのまにか定位置になった場所に座り、俺の両親と何かを話していた。
「かず、今ご両親から二人でどっか行っていいってご了解をもらった。計画を立てようぜ!」
俺は『夏村さんにはかなわないや』と思いながら苦笑いするのであった。
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『沙羅ちゃん、おにぃを独り占めにはさせないよ。私も一緒に行くから』
晏菜がまさか、夏休みの俺たちにこんなことをしでかすとは思いもよらなかった。
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編集記録
2022/08/27 校正、一部改稿
2023/05/07 改稿




