表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/189

1-6話 和也の家族のこと

【読者さまのコメント】

高松のご両親は礼節を重んじるきちんとされた方々。

少々勉強熱心すぎて高松は居心地悪く思う部分があるみたいだけど、グレてしまうほどでもない。

だから、夏村さんとの交際は問題になるよね!!!(汗)

このピンチ、どう切り抜ける?!

とにかく夏村さんが可愛い!!!

 浦和駅西口駅前。

「夏村さん」

「おう、かずか。今日はどうした」

「いや、ちょっと本屋行こうかなと思って出てきたんですけど、偶然ですね」

「本当だな、俺も一仕事終わって、帰ろうかなと思っていたところだ」

「一仕事って何やってたんですか?」

「内緒だ」

「まあ、いいや。いっしょにぶらついてみます?」

「お、おう。いいな。じゃあ、どこへ行く……」


 勉強会の回数も増えてくると、夏村さんの格好を気にせず、近所で声をかけたり、駅前で一緒に買い物をしたりするようになっていた。

 偶然、商店街で会って、いっしょにどうかと聞いても彼女は少し躊躇していた様子だったが、俺は自分から彼女に声をかけるようになっていた。

 身なりや態度は怖いけれど、勉強の時のまじめさを考えると、外見で彼女を差別してはいけないと思っていた。

 第三者がどう思うと関係ない。

 誰かにどなたかと尋ねられれば俺の彼女だと言えるまで信用するに至っていた。


 ※※※※


 今日の勉強会も順調に終了。

 いつものように夕食をいただいたので夏村さんの家を出るのは二十二時を過ぎてしまう。

 夏村さんの家から五分ほど歩き、旧中山道に出て大宮方面に向かえば、俺の家まで一直線の位置にある。

 とは言え、今は梅雨。

 十五分も歩くとベタベタに濡れてしまう。


 俺の家はJR浦和駅から歩いて五分ほどの高砂というところにある。

 夏村さんの家からは駅を挟んで逆方向にある。

 この辺は浦和の中心街かつ高台ではあるが、少々地盤が緩いところから、昔は海のそばの『高い砂地』であったのだろう。

 JR浦和駅には当時西口東口に分かれており、西口にショッピングモールCORSO(コルソ)と伊勢丹、東口にはルミネがある。

 高砂は西口で伊勢丹から歩いて数分のところなので、駅のホームの放送を聞いて家を出ても電車には十分乗れる場所にある。


 飲み屋街の一角に俺の自宅はあり、三階建ての一階は店とリビングダイニングと風呂、二階が俺と妹の部屋、三階に両親の部屋がある。

 なお、各階にはトイレもある。

 家の前の通りの突き当たりには玉蔵院(ぎょくぞういん)というお寺がある。

 小学校のころはそこの庭でよく妹と遊んだ。


 俺の家は祖父の代からの生花商、いわるゆる花屋だ。

 多分、玉蔵院の門前ということで建てられたのだろう。

 ところで昔は小学生の女の子の憧れの職業はお花屋さんというのが定番であった。

 俺は花屋の汚さ、特に夏になれば水が腐るし、水取り換えはヌルヌルして気持ち悪いし、枝には蛾や昆虫の卵が枝に付いていてお客さんがそれを嫌がるのでハサミで剥ぎ取るなんてことも知っていたので、お勧めはしない。

 俺自身理系志望であったため、商売である家業は継ぎたくないと思っていた。


 父は生花業を営みながら俺と妹が通った小学校の通学路に毎朝立ち、黄色い旗を振って児童の交通安全に協力している。

 たまに小学校の校外活動の名目で講演会を頼まれ、仕事のこと、世の中へのかかわり方など有難いお話をしたりもしていた。

 その上、浦和駅西口駅前商店会の会長もしている。

 口癖は『社会に迷惑をかけるな』であった。


 母は子供の教育に熱心な人であった。

 これは良い言い方であり、悪い言い方をすれば、見栄張りというか、とかく近所の同級生と比較したがる人だった。

 そんな母は、近所の同級生がみんな中学から私立に行ったことで教育熱にさらに火がつき、俺には『勉強しろ』、『○○ちゃんは●●中学に行ったのよ、あんたは何でできないの』と何かにつけてプレッシャーをかけ続けていた。

 よって、俺が私立高校を全て落ちた時の落胆はひどかった。

 仕事が手に付かず、ついには寝込んだ。

 結果、大鳳高校を受験したというのは前述のとおりである。


 大鳳高校の中間試験で学年一位を取った時はこんな学校でも母は喜んでくれた。

 考えてみれば俺が母を喜ばせたのはこの時が初めてであったと思う。


 妹、晏菜(あんな)は現在、俺の出身中学の二年生。

 中学一年から、うちの中学の成績上位を維持している。

 俺とは違い、勉強熱心で俺とは違った意味で先生達からの知名度は高い。

 いつも学校では『お前の兄は……』と言われ続け、肩身の狭い思いをしたと思う。

 嫌みを言いながらも仲良くしてくれている晏菜には感謝をしていた。


「ただいま!」

 さすがに二十二時を過ぎると自宅の店の入り口は当然閉まっており、店の横の玄関から中に入る。

 そこから店内を横切り、店の奥にあるドアを開け、リビングダイニングに入ると珍しく家族全員が揃っていた。

 嫌な雰囲気を感じつつも俺はテーブルの前に進む。


「ただいま~! どうしたの?」

「和也、まずは座れ」

 父は俺をいつも座る場所に座るよう促す。

 俺はまだ雨で服が濡れているんだけどなあと思いながらも俺の席に座った。

 まず、母が口火を切る。

「和也、今日も夕食は済んでいるみたいだけど、お金は?」

「あぁ、友達の家で食べてきた」

「何度もそちらさんにお世話になってるみたいだけど、今度ご挨拶しないとね」

「あぁ、そうだね……」


 数分間の沈黙。

 両親、晏菜の顔を交互に見る俺。

「あの~、何かございました?」

「実は近所の方から聞いたんだが、お前、悪い仲間と付き合っているそうだな」

「何、それ?」

「お前とヤンキーの女子高生が一緒に話しながら歩いている所をいろんな人に見られてるんだよ」

 ついにこの時が来たと思った。

 でも、夏村さんと付き合っているのことに後ろ指をさされる覚えは無いと思っていたので、冷静に対応しようと思った。


 しかし、ここから両親の連射砲を浴びることになる。

「もしかして仲間に入ってカツアゲとかしてそのお金で夕食とか食べてるんじゃないの?」

「いつも言っているよな。社会に背を向けるようなことはするなと」

「世間様に顔向けできないわ」

「お前、中学時代のようなトラブルをまた起こしているんじゃないか?」


 中学時代の一件とは関係ないと口をはさみたかったが、両親はたたみかける。

「その子、どこの子なの?」

「子供をヤンキーにするなんて親はどんな教育したんだ?」

「学校でも問題になってないの?」

「どこの馬の骨かわからない奴に……」

  …………

 さすがにここまで言われると俺もカチンときてしまった。

 中学時代の問題の原因を作ったにも関わらず、相手の親を責めてるんじゃねぇ……。

 俺はこう思いながら握りこぶしを作り、握った手は怒りで震えていた。


  俺が事前に家族に説明していなかったことは悪かった

  だが、夏村さんをそんなに悪く言うな!

  彼女が悪いことをしたって?

  彼女が何をしたんだ!

  あんたらは何を知っているんだ!

  何も知らないのに人を評価するな!

  あんなに仲間思いの夏村さんを。

  俺に夕食をたべさせるために準備をしてくれる夏村さんを。

  なぜ彼女が批判されなくっちゃいけないんだ!


  俺も決して褒められる行いをしてきた訳じゃないから信じて貰えないのは分かる。

  それは信じて貰えない()()()()()()()()が悪いんだ。

  俺を悪いと思うのはいい。

  でも……。


  俺の夏村さんを悪く言うな!


 心は決まった。

 俺は家族に思いを一気に(まく)し立てた。

「勝手に夏村さんを悪く言うな! あの子は俺の彼女だ! そう、俺は夏村さんと付き合っている。そして彼女が勉強を教えてほしいというので週二回彼女の家で勉強を教えている。まあ家庭教師みたいなもんだ。夕飯は感謝の気持ちとして彼女が作ってくれている。彼女はあんなカッコしているけど、暴力沙汰や悪いことで警察にお世話になったことは一切ない。彼女は世間に恥じることは何もしてない! 外見でものを言うな。そ、そんな俺の彼女の悪口を言うな!」


 しばしの沈黙……。


 父が俺に声を掛ける。

「わかった。夏村さんというんだな。まずは今度彼女を家に連れてこい。そこで話を聞こう」

 母さんと晏菜は黙って下を向いている。

「了解。今度連れてくる」


 重い沈黙が数分続いたであろうか、突然沈黙を破るように玄関のチャイムが鳴った。

 インターホンに一番近い晏菜が席を立ち、受話器を取る。

「高松です。どなたでしょう?」

『あっ、夏村と言います。和也さんが家に教科書を置いて行かれたのでお持ちしました』

 インターホンから俺も聞き覚えがないほどの丁寧な夏村さんの声が聞こえた。


 家族全員、目を見開いた。

 ()()()()()()()()()()()()

 父も母さんも席を立ちあがった。

 ソワソワしているのが露骨にわかる。


「俺が行く」

 リビングダイニングを出て、玄関の方向に向かった。

 なんともいいタイミングなのか悪いタイミングなのか頭の中はゴチャゴチャになっていた。

 俺は余計なことを考えてしまった。

 夏村さんの家から帰るときはいつもの自宅バージョンのカッコだったしなぁ。

 まぁ無難なカッコして来たならいいんだけど……なあ。


 ドアの鍵を開け、ノブを回すと……。

 目の前には夏村さん、それも見たことがないような清楚可憐な女子高生モードの夏村さんがいた。

 髪はポニーテールにまとめ、横は編み込んでいる。

 よくそんな時間があったなぁと思いながらも、こういう時の配慮は忘れない人なんだなぁと感心した。

 雨の中、白いシャツと紺のベスト、黒のロングスカートは雨に濡れ、白のソックスは泥に汚れ、靴も濡れていた。

 もちろん傘はさしていたようだが髪も濡れていた。

 長身でスレンダーな夏村さんだが、全身ずぶ濡れでもっと細身に見えた。


「早く、入って! かあさん、タオル準備して!」

 夏村さんは俺の耳元に口を近づけ、小さな声でこう言った。

「こんな格好でいいのか? 久しぶりでよくわからん」

 清楚可憐な女子高生が想像できないような口調で話すのを聞いて、俺は思わず吹き出してしまった。

「お前、殺すぞ!」

 いつもの夏村さんが顔を出した。

「ごめん、不覚にも笑っちゃったよ。ちょっと付き合っているのがバレちゃって火の車」

「わかった、ここは俺がなんとかする」

 あれ、それは俺が言う言葉じゃないか?

 でも、かっこいい……


「失礼します」

 夏村さんはリビングダイニングの扉を開け、中に向かって挨拶した。

 当然、ヤンキーの襲来を予測していなかった両親はビビりまくっていたが、部屋の中に入ってきた清楚華憐モードの夏村さんの姿に改めて度肝を抜かれた。

「あなたが夏村さん?!?!」

 とんでもない所から声を出したのは母だった。

「まぁ~……座りなさい」

 と父は夏村さんを俺の席に座らせ、俺は立ったままで夏村さんの横に付いた。

 母さんは夏村さんに着替えを勧めたが、夏村さんはご両親へのお話が優先と言い、話し出した。


「私が先ほどお話に上がりました、和也さんとお付き合いさせていただいています夏村沙羅と申します。以後よろしくお願いいたします。………」


 その後三十分くらいだろうか、両親からの質疑応答に夏村さんは躊躇なく的確に回答していった。

 その質問と回答のリズムがとても歯切れがよく、聞いていてこの人は頭も回転の良い人だなあと思わせるには十分だった。

 俺の前とは異なり、敬語の使い方もばっちりで、その発言はどこかのお嬢様のようだった。

 そして、最終的には今後の勉強会の件とお付き合いの件をまとめて両親から許可を得てしまったのである。

 そのうえ、両親の心も鷲掴みにしてしまったのである。

 この人、実はすごい潜在能力もってやしないかと思った。

 何しろ、俺との勉強時間は二人だけなのにも関わらずヤンキー口調で態度もヤンキーだったからだ。

 この差はなんだ?


 ※※※※


「長居をしてしまい、申し訳ありませんでした」

 そういうと夏村さんは立ち上がった。

「今度はゆっくり、うちに遊びに来てね」

 打って変わっての両親の返事。

「ありがとうございます。改めてお邪魔いたします」


「もう一度、聞くけど、和也でいいの?」

 母さんは再度念を押した。

 当然、清楚華憐モードの夏村さんは俺にはもったいないと母さんは思ったのだろう。

「逆に私で和也さんにご迷惑かけてないか心配です。普段はヤンキーの姿で一緒に居たりしているので……」

「心配しなくていい。私は夏村さんが本当は悪いことするような子じゃないと分かったから、逆に和也のことをよろしくお願いしたい。こいつ、つまらないところで、とんでもないことするから。そんな時は夏村さんが私の代わりに殴っていいから」

「おじさま、ありがとうございます。その時は遠慮なく!」

 そんな感じで話はお開きをなった。

 なぜか晏菜はアットホームな輪の中に入ってこず、じっと両親と夏村さんの会話を聞きながら夏村さんをじっと見ていた。


「こんな感じでいいか?」

 夏村さんは俺に耳打ちした。

「ありがとう、助かりました……」

「おじさま、おばさま、では今日は失礼致します」


 俺は玄関まで、夏村さんを誘導し、外で挨拶し、俺がドアを閉めようとすると、晏菜が俺に駆け寄り、背中を小突いた。

「おにぃ、これだからもてないんだよ。ほら、彼女を送って! 送って!」

 と送り出した。

 そして夏村さんに向かってこう言った。

「夏村さん。私、夏村さんのこと『沙羅ちゃん』って呼んでいい? なんかお姉さんができたみたいでうれしい」

「あっ、いいですよ。じゃあ私も晏菜ちゃんで」

「オッケー! それと携帯の電話番号とメルアド、ラインのIDを教えてもらっていいですか?」

「えっ! なんで?」

「私に情報を提供すると無料でおにぃの好きなもの、だめなところ、好きな服、諸々情報が付いてきます」

 テレビショッピングでナレーションを担当する声優さんみたいなことを晏菜が言うと、夏村さんはこう聞いた。

「何! かずの好きな服とか、わかるのか?」

 腰に手をやって答える晏菜。

「わかります!」

「かずの好きな食べ物とか?」

「わかります!」

「かずの性癖とか?」

「せ・い・へ・き? 何、それ?」

「いや、忘れてくれ……。 わかった、携帯だな。教える! 教えるぞ!」

 完全に晏菜の策略にはまってしまった。

 この後、晏菜と夏村さんは頻回に連絡を取り合うようになったことを聞いたのは数日経ってのことだった。


 すでに外は雨も止み、月も雲から顔を出していた。

「夏村さ~ん、送っていくよ~」

 俺は夏村さんの後を追った。


 俺たちを見送った晏菜はドアを閉めながらこう言った。

「夏村沙羅さんか…… かっこいい人だなぁ。その上、とってもきれい。おにぃには勿体ないなぁ。でも、普段はヤンキーねぇ……。でも、どこかで見たことがある顔と名前だったなぁ。沙羅さんか……。もしかして……」

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

面白い・続きが気になる等思われた方は、評価ポイント(↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)を入れて頂けると作者の励みになります。

また、ブックマーク登録・お気に入りユーザー登録の方もよろしくお願いします。


編集記録

2022/08/21 校正、一部改稿

2023/05/04 改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ