7-15話 修学旅行(8)
【読者さまのコメント】
高松は夏村さんとパトロールに行く!
けれど、夏村さんの様子がおかしい。
女子会でたくさん暴露しちゃったんだなぁ。可愛い!
二人がパトロールをしていると、女子生徒が絡まれている!!!
助けなくては!
……石森さん、まさかそんな趣味が?!
今日一日、あれだけ存在感を隠していた夏村さんを見たことが無かったので、ホテルの自分の部屋に戻っても気になって仕方なかった。
女子グループのいつも後方にいて、俺と一緒に写真を撮っていても、一歩俺から引いた感じで接していた。
しかしこの場面で、隣の女子部屋に乗り込んで話を聞くのは得策ではないと考え、パトロールの時間に事情を聞いてみようと思った。
やはり、あれだけ女子メンバーと話しても、夏村さんがいないのであれば、何か空間にぽっかり穴が空いた様だった。
俺は右手の爪を見ながら、畳に横になり、一人考え込んでいた。
「やっぱさ、修学旅行と言えば「枕投げ」だよな。やらねぇ?」
と佐々木が言い出す。
「いいねぇ。夕飯食べ終わって部屋に戻ってきたら布団敷いてあるから、それ以降だな」
と坂本は提案した。
「せっかくなのに外出しないの?」
と俺がメンバーに聞くと、
「夜の街、京都も浦和とそんなに変わらないから別にいいかな?」
と佐々木は答え、頷く仲間達。
それは京都市民に失礼だぞと俺は思った。せめて東京くらいとかいうのが正解である。
仲間に話を聞くと祇園や花見小路にも行っていない様子だった。
「八坂神社のそばに花見小路ってところがあって、夜景がとてもきれいだったよ。記念になるから行けば良いのに」
と俺は言ってみたが、それは裏目に出る。
「そこを夏村さんとデートしたって訳ね~。いいなあ、どうせ、綺麗な彼女と一緒に写真撮っちゃったりしてるんだろう。野郎四人で行っても楽しく無いし」
そう言われればそうなのかもしれないが、なかなか来ることができない場所なのでと再度説得してみたが効果は無かった。
時計を見ると、そろそろロビーでの集合の時間だ。
「まあ、部屋にいるのはいいけど、枕投げ、俺が帰ってくるまで待っててよ!」
「どうせ、帰ってきても女子の部屋から呼び出し有るんだろう。約束はできないな」
冷たい奴らだと思いながら、スマホを持って部屋を出た。
多分、廊下で俺を待っているだろうと期待していた夏村さんはそこにはいなかった。
これは結構凹んでいるんだろうなと思いながら、ロビーに向かう。
ロビーにはパトロールメンバーが揃い始めていたが、夏村さんはいなかった。
何か起こったのかなと思い、一旦、女子の部屋に向かおうとしたとき、夏村さんは内田さんたち四人娘と一緒に集合場所にやってきた。
もともと、四人娘はヤンキーの時もそれほど酷い格好はしていなかったのだが、今回修学旅行に着てきた服装は、とても落ち着いた物で、もともと小柄で普通の子達より目鼻立ちがしっかりしているので、かわいい姿であった。
「あっ、かずさん。お疲れ様です。今日、ちょっとなつさんが話があるっていうんで、なつさん、お借りしました」
この容姿なら彼氏ぐらいと考えてしまうのだが、小柄なのにトーンの低めな声に夏村さんに負けないくらいのヤンキー言葉……
まずはここを直さないことには彼氏はできないなと俺は感じた。
内田さんと同様なことが、同じグループの羽田さん、曽根さん、川尻さんにも言える。
体格も同じくらいで、ショートカットなので、四姉妹と言われれば、他人はそうなんですかと答えてしまうであろう。
ただ、やはり口が悪い。
「なんすか? かずさん、こっち、じっと見てますけど、なつさんより私たちの方が良いっすか?」
という曽根さんの言葉使いでやはり俺の心は引いてしまう。
「いや、夏村さんと身長差ずいぶんあるなと思って」
と話をはぐらかせてしまう。
ちなみに夏村さんは身長が170センチで四人組は155センチぐらいである。
四人娘との話が終わったのか、夏村さんはゆっくりと俺と目を合わせないようにジリジリと近づいてくる。
その行動が何か可愛く感じてしまい、くすっと笑ってしまった。
「お、おう、かずや、元気か?」
その夏村さんの普通じゃない会話の始まり方に思わず吹き出してしまった。
「ごめん、ごめん。夏村さん、どうしたの? 何かよそよそしいんだけど」
「ええとなっ…… それはなっ…… ごめん!」
「どうしたの?」
「昨晩、女子会で彼氏がいるのが私だけだってことで、質問攻めに遭ったんだ。そこでいろいろと話してしまって……」
「たぶん、そんなことだと思っていましたよ。ところでどこまで話したの?」
「キスはしたことあるけどエッチしたことないとか……」
「いつもの勢いでバンバンやってるとか言っちゃえばよかったのに」
「俺、そういうこと、嘘付けなくってさぁ……」
「素直なことで…… 別にいいんじゃないの?」
「そのおかけでかずやが童貞ってバレた」
「全然気にしなくていいよ。本当の話だし。それより、もっと昼間一緒に話しができたらよかったのになぁ~」
「ごめん! 本当に女子会の話で自責の念がいっぱいになっちゃって……」
「そういうところもかわいいよ、夏村さん」
「そうか! ちょっとこんなテンションの時に言われると照れるなぁ。よし! かずやが気にしてないならオッケーだ。気分変えてがんばるか!」
なるほど、俺と夏村さんの現状や今までのいきさつを聞いたことから、那奈や多江ちゃんは積極的な行動に出てきたんだなと俺は思った。
と言いつつ、夏村さんを見るとやはり昨日のことをまだ気にしている様子だった。
「さて、今日はどこに行きますかね?」
「どこでもいいぞ」
「じゃあ、昨日は東の方に行ったので、西の方にいってみましょうか。昨日は東の観光地の多いところに行ったので、今日は本来の目的であるパトロールしましょう」
「うん、昼間一緒に行動できなかったから、かずやと一緒ならどこでもいいぞ」
ということで、今日は河原町から堀川通り周辺をパトロールすることにした。
しかし……
十数分、四条通りを二人は話しながら歩いて行くと、不意に二人は顔を見合わせた。
「こっち、やっぱ、観光地ないから戻りますか?」
「そうだな。完全にオフィス街だもんな。同級生も好き好んでこっちには来ないだろう」
スマホを覗くとアプリではほとんどのパトロール部隊は祇園方面に集まっていた。
帰ろうと方向転換し、ホテル方面に向って歩き始めると、東京にもあるデパートの大丸の前でうちの高校の女子生徒五人が三名の男性に絡まれていた。
俺は素早く、スマホの録音を開始した。
ここから遠いので録音出来ているかは不安であったが、結構、特に男性の方が大きな声で騒いでいたので、一か八かスイッチを押した。
音声の強度を示すインジケーターが明らかに男性の声に合わせ動いていることから、録音できていると確証した。
「夏村さん、行きますか」
「ちょっと、昼間の憂さ晴らししてくるか」
「お嬢ちゃん達、京都楽しんでる?」
「この辺、楽しいところ無いよ。俺たちともっと良いところ行かない?」
「山の上の方から見ると京都の街がきれいだよ。乗せていってあげるよ」
「結構です! もうホテルに帰る時間なんで!」
「そんなに早く帰らなくていいんじゃない? みんな、行こうよ!」
この辺は人通りも多く、彼らのやりとりを見ていた人は多く居たが、誰一人として止めに入らなかった。
そのうちに、それを断る女子たちのうちの一人が男性に腕を握られた。
見たところ、その子達はうちの高校の陸上部とテニス部の子であることを俺は思い出した。
「夏村さん、どうします?」
「三人くらいならどうにかなる。俺に任せろ」
「じゃあ、俺は先生に連絡します」
「頼む!」
というと、夏村さんは人だかりができた中に向かって行った。
俺はアプリを見て他のパトロール部隊を探ると、やはりほとんどが祇園方面にいたため、ここから一番近いところにいる人、ということでホテルでスタンバイしている渋谷先生に連絡した。
アプリでの呼び出し方法が面倒であったため、以前、教えて貰っていた渋谷先生の携帯番号に直接電話した。
「ちょっとすみません。うちの高校の子なんで手を出さないでいただけますか」
といい、夏村さんは女子の腕を握った男性の腕を絞り上げた。
すると男性は激痛からか、つかんでいた女子の腕から手を離した。
「痛っ! てめえ、何するんだよ!」
「何するんだよはこっちの台詞だよ。うちの子に手を出したらゆるさないよ。みんな、さがってて」
「な、なつむらさん?!」
「さあって、どうしようかな。こっちに近づいたらこの人の手、どうなるか知らないよ」
俺は連絡が終わると、スマホの録音をビデオ録画に変え、夏村さんの後方に避難していた被害者の女子に俺のスマホを渡した。
「ごめん、これで現場撮影しておいて。あと、もうすぐ渋谷先生が来る。いいかな?」
「あっ、高松さん! は、はい、わかりました」
俺は夏村さんに近かづいて、こう言った。
「夏村さん、お待たせ。さすが暴力は振るいませんね」
「先に、うちの子に手を出した。正当防衛だ」
「さて、おにいさん達、どうします? いちおう、三対二ですけど、この女性、少林寺やってますよ」
「ば~か、この辺の若いのはナイフぐらい持ってるんだよ。素手なんか全然怖くねえよ!」
と言い、残りの二人はナイフを取り出した。
「夏村さん、どうします?」
「かずや、この子達を逃がしてくれないか。こいつらの面倒はこっちでみる」
「そういう訳にもいかないでしょ。俺も手伝いますよ」
「お前、喧嘩は嫌いだって言ってたよな?! それと左腕は?」
「俺には足があるんで!」
そんな会話をしていると、しびれを切らしたのか男達が俺と夏村さんに向かって襲いかかってきた。
夏村さんは男性一人の腕を決めている…… さあ、どうする?
俺は夏村さんの前に出て、ナイフを持った手をこちらに振りかざしてきた男性の軸足を左足で払った。
すると男性は、つんのめった形になり、勢いよく転がった。
俺は転がった男性のナイフを持った手を激しく踏みつけ、ナイフを放したのを見計らい、ナイフを蹴り飛ばした。
そのナイフは立ち止まっていた通行人が確保してくれた。
そしてもう一人の向こうずねを蹴り込むと、痛みに耐えきれず男性はしゃがみ込み、のたうち回った。
すると、近くの交番に通行人が行って通報してくれたらしく、警察官が二名走ってやってきた。
「大丈夫ですか。ご協力ありがとうございます。すみません、こんな状態なので事情聴取させていただきたいのですが、ご同行お願いできますか?」
と警察官が言うので、夏村さんは腕を決めた男性を警察官に引き渡し、残り二名のうち、転がった男性をもう一人の警官が取り押さえ、もう一人の男性は、よほど上手く弁慶に入ったのか、まだうずくまっていた。
遠くから、渋谷先生とホテルで待機していた先生数人が現場にやってきた。
「高松、夏村、ご苦労だったな」
「いえ、この子達が無事でよかったです。一点お願いなんですが、たぶんこれから事情聴取になると思うのですが、彼らと出会った時のことを説明してもらえる子ひとりに同行をお願いしたいのですが」
と言うと渋谷先生は五人の女子に事情を話した。
すると俺が携帯を託していた子が同行することに同意してくれた。
俺は彼女に礼を言うと、彼女は俺にスマホを返した。
俺はスマホを受け取り、夏村さんのところに向かった。
「夏村さん、お疲れ様でした。さすが少林寺やっていたのは伊達では無いですね」
「てか、お前、なんでおいしいところ全部持って行くんだよ。俺は一人相手で、お前二人。どう見ても主人公はお前になるだろう」
「だって、その方が、事情聴取の時は俺がメインになると思ったので……」
「お前、そんなことまで考えてくれていたのか…… やさしいな。てか、喧嘩が嫌いって小学校の時、言ってやがって、少林寺一緒にやろうと誘ったのに拒否しやがったくせに、なんでこんなに喧嘩強いんだよ?」
「ああ、あれね。全部、サッカーの反則技なんで」
と適当な理由を付けて俺は話をごまかした。
大丸前にはパトロールカーが三台来た。
何度聞いてもあのサイレンの音は嫌だ。
さくら草通りでの夏村さんの仲間の刺傷事件、そして、『中山道事件』……
一台目に男二人が乗り、二台目に残る男一人、そして三台目には、俺と夏村さん、そして残って貰った同級生が乗り込んだ。
残った同級生たちは渋谷先生たちがホテルまで送ってくれるらしい。
俺たちは下京警察署で事情聴取を受けた。
警察側は三人を同時進行で話を聞いてくれた。
これなら三人の事情聴取は早く終わるだろう。
俺は自分のスマホに収められた動画を警察側に提出し、証拠提出物一覧と状況見聞調書の下にサインをし、お役御免となった。
加害者側の立場で考えてしまったが、被害者は状況見分調書で加害者は事情聴取調書と言うらしい。
あまりこの調書というものにサインをするというのは気持ちが良い物では無い。
過去の嫌なことを思い出させるからだ。
警察署から出てくると、出口付近に夏村さんと同行してくれた同級生の女子が待っていてくれた。
「すみません。遅くなっちゃって。先に帰っていただいても良かったのに」
と言うと、外で待っていた二人はお互い顔を見合わせて、
「ホテルまでの道がわかりません」
と声を合わせて言った。
「へいへい、承知いたしました」
四条通りを通って大丸の前を通るのは気持ちが悪いので、一つ手前の綾小路通りを通って俺たちは帰った。
「夏村さんと高松さんですよね。私、四組の中川っていいます。私、陸上部で高松さんにはグランドの石拾いでお世話になってたんです」
陸上部では、俺は石拾いで有名なのかとちょっとショックを受けてしまう。
「かずや、しょうもないことで有名なんだな」
と大笑いする夏村さん。
ところで中川さんが陸上部ということで、気になったことを聞いてみた。
「うちのクラスに陸上部の石森さんがいるんだけど、彼女ってどんな子?」
「ななちゃんですか…… ちょっとつかみ所がなくて、何考えているか自分から言ってくることがほとんど無いんですよね」
「でも、俺、昨日、石森さんとバスで隣同士になったんだけど、結構自分から話しかけてきたんだけど……」
「そうなんですか? そんなところ全く見たことないですよ」
あまり有用な展開になりそうではなかったので、その話題は早々に切り上げた。
すると中川さんはちょっと興奮した様子でこう言った。
「あっ! そうそう! サッカー部なんですけど、八月末からのリーグ戦で全勝して、冬の大会からグループが上がるって知ってました?」
そういえば第二戦までは俺が関与していたのだが、残りの試合の結果は勝村からは何も聞いていなかった。
しかし、あの時以来、あいつ、何も俺に連絡が無いなと思うと、無性に腹が立ってきた。
「後で勝村、〆に行ってくる……」
「そういえば、リーグ戦の二試合目、かずやが出た時、すごかったな。小学校の時は学校のサッカー少年団でやっていたんだっけ?」
「小五までは学校の少年団で、小六から中学二年までは浦和レッズのジュニアユースでやってて、中三のトラブルで辞めました」
「なんで辞めたんだ? プロとか狙えたんじゃないか?」
「俺の中学時代は独りよがりで、自分の力を過信しすぎて、ダークサイドに引きづり混まれまして…… 帝国軍に参加しました」
「お前、何言ってんだ?」
「ちょっとスターウォーズをまねて言ってみたのですが…… ご存じないようで」
「映画見ないからな。てか、かずや、俺と一緒に映画とか行かないよな! 今度映画誘え!」
「承知いたしました! ほら、もうすぐホテルですよ。ちょうど夕食の時間なんじゃないかな?」
ホテルに着くと中川さんの仲間がロビーで待っており、俺たちに礼をいい、一緒に夕食会場に向かっていった。
俺たちはというと、若干服が汚れたので、着替えて、食事会場に行こうとという話になった。
女子部屋の前で夏村さんと別れ、俺が部屋に入ろうとしたとき、女子部屋から夏村さんの声が聞こえた。
『お前、なんでこんなに…… 撮ってるんだ? ちょっとスマホ見せろ!』
何か夏村さんが怒っている様子だったので、俺は女子部屋をノックし中に入ると、そこにいたのは夏村さんと石森さんだった。
「夏村さん、どうしたの?」
と夏村さんに声を掛けると、夏村さんはびっくりした顔をしながらこう言った。
「かずや…… 石森のスマホの写真…… かずやの写真ばかりだぞ……」
「えっ! どういうこと?」
と俺が石森さんに尋ねると、石森さんは、
「いや、バレちゃったか~…… 私、高松君のこと好きすぎて、高松君を見つけるとすぐ写真撮りたくなっちゃうんだよね。うちにもいっぱい飾ってあるよ。密かに撮った物とか……」
と答えた。
そう、石森さんは実は俺に対する盗撮趣味のある子だったのだ。
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編集記録
2023/02/12 前話を分割、未改稿
2023/02/13 一部改稿




