7-14話 修学旅行(7)
嵐山に着いた。
嵐山と言っても、俺が興味がある場所は、天竜寺、渡月橋、大河内山荘の近くの竹林くらいなので、適当に散策出来ればいいやと俺は思っていた。
桂川沿いでバスを降り、まずは渡月橋へ行き、写真を撮る。
いつもの順番で写真を撮り終わると、渡月橋とは逆の方向の嵐山駅方面に向かった。
橋を渡って川向こうに行っても嵐山公園と法輪寺くらいしかないからだ。
男子班、女子班と少し間隔を空けて歩いていると、那奈が女子班から俺の方向に走り寄ってきた。
すると男子メンバーは何を察したのか俺から数歩離れた。
那奈は強引に俺と腕を組み、こう言った。
「かーくん、どう? 私変わったでしょう。わかるかな?」
俺はじっと那奈を見回す。しかし、全く変化がわからなかった。
「わかりませんが……」
「あれ? どうしてわからないのかな?」
もう一度見回しても変わったところはなかった。
もちろん、服は替わるだろうからそれは除いても、装飾品も変わった感じもしないし、髪型にアクセントを付けてきた様子もない。
「全然わからないけど……」
「夏村さんからコロン借りて付けたんだけど…… 気づかなかったの? 香水きついって言われたから変えてみたんだよ」
「ごめん、わからなかった。ていうか、夏村さんのコロンはイメージ的に那奈には合わないでしょう。夏村さんは清楚って感じだし、那奈は情熱的って感じがいいんじゃないの。よくわからないけど」
「そうか…… かーくん、えらく細かいね。まあいいや。今度一緒に探してよ」
「別にいいけど」
「あのさあ、昨晩、女子会でかーくんの良さを夏村さんからすごくいっぱい聞かされて、私の場合に例えたらどうなんだろうと考えみたの。かーくんはデビューの時から私を全力で応援してくれてたなあって。それで私がかーくんにできることと思っていたら、やばいことに気がついたんだよ」
「何よ?」
「私、かーくんのこと好きだわ。考えれば考えるほど、この人だったら私のために頑張ってくれるだろうし、私も頑張れるって思ったのよ」
「そんなこと考えるなって! 俺、お前のこと、これからもずっと応援しなきゃいけないの? ってか、突然、なんでこんなこと、ここで告るの?」
「かーくん、いちおうアイドルの端くれに好かれてんだよ。嬉しいでしょう。それと、かーくん、人に告られたりすると絶対断れないって井上さんも言ってたし」
「井上さん、面倒くさいこと伝えるなあ。だから、俺はお前を好き嫌いではなくて、がんばっているから応援していただけだって言ったじゃん!」
「いやいや、そういうところに女性は惚れるんだよ。まあそんな感じで私も夏村さんに負けないように頑張るのでよろしく!」
そう言うと、那奈は手を振りながら俺の元から離れ、女子グループに戻っていった。
「勝手に頑張る宣言するなよ!」
と俺は那奈に向かって言ったが、この一部始終を見ていた男子メンバーは一斉に俺に飛びかかる。
「なんで、かずばかりモテるんだよ!」
「こんどはアイドルかよ!」
「てめえ何股すりゃあ、気が済むんだよ!」
「でも、面白い奴だよなあ、かずって! 受験終わったら極意を俺達にもに教えてくれよな」
普通、こんなことが目の前で繰り広げられたら嫌な気分になる人が多いだろう。
俺だったら絶対に嫌だ。
しかし、奴らは冗談で俺に蹴りは入れていたが、笑って見守っていてくれるのであった。
天龍寺の庭園、大河内山荘付近の竹林とやはり景色が『ザ・京都』と思える場所にみんなは喜んでいたが、その辺あたりは土地の標高差があるためか、それとも昨晩の女子会の影響か、女子メンバーのパワーがめっきり落ちてきた。
男子メンバーの後をチンタラ歩く女子メンバーたち。
男子メンバーは昨日見ていた関西キーのテレビの話で盛り上がっており、見ていなかった俺は話題に入れない。
キョロキョロ周りを見回しては、座って休憩を取るところはないか探すがどこにもそのような場所はない。
ここは女子を盛り上げるためにと思い、俺は女子グループに近づき、声をかけた。
すると不自然に夏村さんは群れの後方に移動した。
これはやはり、昨晩、何かあったのかと思い、
「朝から気になっていたんだけど、昨晩はどんな話で盛り上がったの?」
と話かけると、先頭を歩く井上さんは、ニコニコしながら、
「じゃんけんして負けた人が勝った人の出した質問に必ず答えるってゲームをやったんだけど、予め、夏村さん以外にサインを教えてグー出すか、パー出すか、チョキ出すかは共有していたので案の定、夏村さんへの質問大会になりました」
「ひどいことするなあ」
「だって女子会とは言え、メンバーで彼氏いるの夏村さんだけだもん」
「それって完全、夏村さんへの拷問じゃない」
と俺が言うと、多江ちゃんは、
「結構、沙羅ちゃん。のろけてノリノリで答えていたよ。聞いている方が恥ずかしくなっちゃうくらい」
と言った。だから、彼女達に話しすぎてしまったという後悔の念が夏村さんにあり、俺に話しかけてこないのかと思った。
「そうか…… まあ、いいんじゃない。多分話したことは全部本当の話だろうし。脚色して話す様な人じゃないんで、夏村さんは」
と俺がいうと、後方から俺の横に並んで来た那奈は、
「ところで、かーくん。いくら夏村さんのためだと言っても、ヤンキーの集団に向かってヤンキーを辞めて欲しいなんてよく言えたね。私のところだったら絶対にボコられたよ」
と尋ねた。そういえば、那奈も昔熊谷のヤンキーだったと言っていた。
「正直、恐怖よりもなんとかして夏村さんをヤンキーから抜け出させたいあげたいという思いの方が勝っちゃったんだよね。あの当時は学校でのヤンキー姿の夏村さんと、自宅での俺にしか見せない普通の姿の夏村さんの落差がすごかったんだ。もし堂々と町中を一緒に歩るくんだったら、普段の姿の夏村さんと歩きたかったからね」
「そういうところ、後先考えずにがんばっちゃうんだよね、かーくんって」
この時、四人に俺は囲まれており、夏村さんだけがぽつんと一歩後ろを歩いている状況であった。
「まあ、そんな性格だから中学時代にトラブって地獄に落ちましたから……」
「何しでかしたの?」
「ちょっと言えない。いろいろなことが起こりすぎて思い出すのも気分が悪くなるくらいなんだ。結局誰も信じられなくなって自暴自棄になり、自分で自分の中学三年の一年間をボロボロにして、この高校に入ったという流れなんだ。でも、高校に入ってから、何か大きなことをしようとしたとき、必ず俺の後ろで目を光らせていた…… じゃなくて、見守ってくれていたのが夏村さんだったと思っている。だから俺は中学時代の失敗を繰り返さないし、繰り返してはいけないんだと思っている」
「結構、短期間で夏村さんと良い関係を築けたんだね。その上、いろんな女子を踏み台にして」
「那奈、お前ひどいこというなぁ」
「だって、夏村さんがいるのに、他の女の子も受け入れてるって何よ」
「不安だよ」
「不安?」
「ヘタレと言われればそれまでだけど、今まで人生短い間だけど、中学時代、あと一年で卒業ってところで地獄に落ちてボッチになった。今は現在までが上手く行きすぎているから、最終的には中学時代よりもひどい大失敗をして、夏村さんが遠くにいってしまうんじゃないかって不安をいつも感じているんだよ。幸せの中のほんの数パーセントにその思いが紛れ込んでいるから、気がついたらまた周りから全員が居なくなっていたってことを考えちゃう。自分勝手な考え方だけどそこまで俺は自分に自信がないんだ。確固たる自信をもつまで、いろいろな人と出会ってお付き合いして、失敗や成功を経験していく。それを乗り越えないと、大人にはなれないのかなって思っているんだよね…… でもそんな大きな失敗が起こったら夏村さんよりも先にみんなが俺の前を去っていくんだろうけど…… 誰か一人でも俺の味方に残っていて欲しい。そりゃ、それが夏村さんだったらハッピーエンドだけど、他の一人でも残っていてくれれば、その人と助け合って行きたいと思う。それも別な意味でハッピーエンドなんだと思うけど。だからみんなとは勝手な言い草かもしれないけど、ずっと仲良くしていたい……」
「あたし達は、安全パイってこと?」
「そうではないと思う。俺たちには各々の出会いがあった。それって何か縁があって出会った訳で、その縁を捨ててまで関係を無くす必要はないんじゃないかと思っているだけなんだ。みんな俺にとってはもったいない人たちなんで」
「かーくん、本当は、さびしんぼなんだね」
「高校入学の時は一人で高校生活を終わろうと思っていたのに、夏村さんや勉強仲間、女子達と関係をもったら、それがすべてオジャンになって高校生活を終わらせたくないな、中学時代と変わらない結果は嫌だなと思うようになったんだと思う」
「しょうがない、私は最後まで面倒見てやるよ。今まで推しとして応援してくれた恩返しとして……」
「ありがとう。それが聴けて安心したわ。普通なら絶対、キレられる内容だもんね」
と那奈に言った。するとそれを聞いていた井上さんは俺と那奈の肩に手を置き、
「大丈夫だよ。私もかずくんのこと信じているから、心配しないで自分のやりたいようにやればいいよ。というか、緒方さん。私たちの戦いに完全参戦してきたの? まずいな。今日も女子会開催だな……」
「じゃあ、せっかくだから私も参戦しようかな?」
「石森さんもか、結局みんな似たもの同士なんだね。よし、今日の女子会のテーマ決定!」
「昨晩みたいに夏村さんへの質問攻めはやめてよ!」
しかし、このときも夏村さんは会話に入ってこなかった。
逆に今言った内容を俺は夏村さんには聞いていて貰いたくなかったため、不幸中の幸いと思った。
しかし、このまま放ってはおけない。
これは、ホテルに帰ってからパトロールの時にフォローしないといけないなと俺は思った。
さて、嵐山の散策も終了し、ホテルに向かうバスに乗り込む。
最後は井上さんですか……
「やっほー! かずくん、楽しめてる?」
さっきまで疲れ切っていたのとは別人の様な復活ぶりだった。
「なんか、せっかく京都に来たのに車窓の風景に集中できてないよ」
というと、井上さんは、
「綺麗な女性達が目の前にいるからそっちに目がいっちゃったかな?」
「否定はできないかな? みんな良い子だったしね。そういえば、石森さんって、あまり彼女の行動を注目していなかったんだけど、どんな感じ?」
「うん、女子会も楽しんでいたみたいだし、ただ、彼女自身かずくんのことを語るほど付き合いがないのか、積極的に話をするって感じじゃなかったよ。でも参戦発表してくるとは思わなかったなあ」
「一人だけつまらなかったらどうしようかなと思っていたんだけど、参戦発表でみんなとの付き合いが深くなってくれるとありがたいかな」
「昨日の外出もみんなと一緒に出かけたし、大丈夫でしょ。あと、スマホで写真をいっぱい撮ってくれてたよ。あとでみんなに配るって言ってた」
そんな一面からみんなとの関係も構築してくれればいいなと俺は今後を期待した。
「ところで、かずくん。夏村さんを外して残ったメンバーで彼女を選ぶとしたら誰を選ぶ?」
「直球でくるなあ。全然考えたことは無いよ。う~ん、現状で言えばって話だけど、石森さんはまだ彼女のことを俺自身よくわかってないから、悪いけどここでは外させてもらうって感じかな」
「そりゃ、そうかもね、それで次は?」
「多分、残った三人と付き合うにしても、付き合い始めた後に考えなくてはいけないことが大分変わってくると思うんだよね。多江ちゃんの場合は、彼女の『家』について考えながら付き合わなくっちゃいけないと思うし、那奈の場合は、今と変わらず彼女をバックアップしていくって感じになるだろうし、井上さんとは……」
「私とは?」
「ほどよい以上に接触していかなくちゃいけない感じがする。井上さんは寂しがり屋だから」
すると井上さんは顔を真っ赤にし、口をとがらせてこう言った。
「そんなことないし~ 全然がまんできるし~」
とはいえ、俺は以前、バレー部の永堀キャプテンと話したことを思い出してしまうのだ、井上さんの過去の恋愛のことを。
「じゃあ、井上さんはこれからフェロモン注入禁止にしようかな?」
「それは困るな…… 全面撤回! 甘えさせてほしいにゃん」
「おいおい、こんなところでフェロモン吸収し始めるなよ!」
「見えてないから大丈夫だよ。さすが、夕方ともなりますと最高にいいダシがでておりますなぁ」
といい、俺の右肩の上に頭を置く。
その位置は多江ちゃんの時は肩というより腕であったが、井上さんの頭は、俺の顔に近かった。
「こういうこと、許してくれるからかずくん、好きだよ」
「あっ! あと一つ言い忘れた。井上さんを選んだ場合、恵さんが怖い!」
「確かに! 彼氏いない歴イコール年齢だから、かずくんにちょっかいしてきそうで怖いな」
「あんな素敵な人なのに、なんで彼氏できないの?」
「って思うでしょ。だけど、酒に酔うと暴言吐くし、金遣い荒いし、すぐ色香で男を誘うけど失敗しまくってるし、家では裸で歩いていて父さんがいつも困っている。ああ、そうそう、姉さん、おっぱい大きいよ。かずくん、おっぱい星人だもんね」
「違うわ! じゃあ、先に見合いさせて家を出させるか…… というか妹さんも同じようで」
「私は大丈夫。お酒は飲まない予定だし、貯金ばっちりしてるし、好きな人にしか触らせてないし」
「じゃあ、好きな人がおっぱい触らせてって言ったら触らせてくれるの?」
「なに? 夏村さんの触ってないから私に求めてるの? しょうがないなあ、今晩は恥のかき捨てで生で触らせてあげよう」
「夏村さんの触ったことあるし! 生でさわったことあるし!」
「本当かな? よし、今日の女子会で確認してみようっと!」
『当たり前だろう、触らせたことぐらいあるぞ』と夏村さんが回答するのを期待する俺だった。
「でも、夏休み中はありがとう」
「ん? 別にいいよ、夏村さんに頼まれてやっただけだから」
「でも、すごく助かった。学校にいる間は井上さんの存在をいつも感じていたよ。落ち着いた」
「そうか…… 気にしてくれてたんだ」
「あとは次回の全国模試。十一月だよね。そこで少しでも目標に近づければいいね」
「web会議での勉強は助かってるよ。夏村さんの監視は邪魔だけど、かずくんに教えて貰ったことを絶対に結果に結びつけるから任せてよ!」
「期待してる」
「あとは面接対策だね。渋谷先生に聞いてみるか…… 就職の際の面接練習は中島教頭がやってくれているから、何か方法を見つけてくれるかもね」
「至れり尽くせりだね。よろしく」
「いや、俺も面接が受験であるので」
「そうなんだ、結局自分のためじゃん」
と二人は頭を並べながら、受験対策について話を続けるのであった。
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編集記録
2023/02/11 前話の残り部分を統合
2023/02/12 一部改稿、後半を次話に移行




