プロローグ 俺の武勇伝を聞いてくれ
学生時代……
特に高校時代はほぼ同等なレベルの人間が集まるため、小学校・中学校に比べ、仲間意識が強くなる。
社会人になっても、高校時代の思い出をたくさん持っている人々も多い。
そんな思い出深いとされている高校生活も、新設校の出身者は伝統校とは異なり、新設校ならではの経験をしてくる。
それは伝統校に行った時のようなレールの上を走るようではなく、自分たちでレールを作る作業をしながら、ゆっくりと進んでいくものであったりする。
そこが伝統校にはない楽しみであったりする。
◇◇ プロローグ ◇◇
東京都渋谷区の西麻布。高樹町の交差点を骨董通り方面に曲がり、徒歩で五、六分のところに俺の勤めているオフィスはある。
通勤で使う新橋駅からのバスは『高樹町』のバス停に留まるが、そこからは交差点の信号に邪魔されなければ、霧雨程度であれば傘を差していなくも、ほとんど濡れずに済む距離だ。
骨董通り沿いを青山方向に向かえば十分もかからずに青山大学の横に着く。
仲間からも随分かっこいい場所に勤めているなぁと言われる。
そんな場所にも関わらず、昼間は人通りもまばらで、とても静寂に包まれた環境での下での仕事を俺は気に入っていた。
外で近所の寺の鐘が鳴る。
もうすぐ十七時だ。
俺の仕事は毎日ほぼ十七時きっかりには終わるので仕事後の予定を決めやすい。
この前は西麻布の有名な所で食事がしたいと仲間が言うので、『権八』というアメリカの大統領を日本の総理大臣が連れていったことで有名になった和風レストランについて連れて行ったのだが、仲間が都合を調整してくれれば俺はその時間に合わせるだけなので、予約や待ち合わせの設定がやりやすかった。
ここで出てくる『仲間』であるが、俺の高校時代の仲間であり、今も腐れ縁を続けている。
大学はバラバラにはなったが、その間も付き合いは続き、会えば高校時代の話で盛り上がるのが常だった。
そういえば今度の予定はまだであった。
いつも勝手に予定を決めた後で俺に来いと指示してくるのがいつものパターンだ。
携帯のアラームが鳴る。
特に大きな会社ではなく、終業のチャイムの設備もないので社員は各々携帯やスマートウォッチで終業時間を確認する。
俺はPCの電源を落とし、部下に挨拶をし、オフィスを出た。
すでに夕方、西日が強く、高樹町の交差点にあるビルのガラス窓に太陽光が反射し、寒くなりつつある街中を温めてくれていた。
まだ、時間も早いせいか、高樹町のバス停で待っているのは数人で、到着後も中は空いていて楽に座ることができた。
このバスは西麻布から六本木、虎ノ門を通り新橋まで運行している。
高樹町からはJRの最寄りの駅は、俺のバスの進行逆方向の渋谷であるため、新橋まで一緒の客は居そうに無かった。
今日も新橋の行きつけの居酒屋『あばらや』へと向った。
『あばらや』は新橋駅のSL広場を突き抜け、ヤマダ電機横を三十メートルほど入った突き当りにあるちょっと変わった居酒屋だ。
この居酒屋、お勧めはあばら骨に接した部分の料理。
その種類も、牛肉、豚肉はもちろん、マグロなど魚のあばら肉も出してくれる。
どれも絶品だ。
焼いたアジの開きも出すが、主に食べるところはあばら骨周辺なので問題ないというのは女将のきょうこさんの主張である。
店内はカウンターだけで、薄暗い上に狭い。
天井からは裸電球(LED電球だときょうこさんは言っている)が丸椅子の上にぶら下がっている。
夏など虫が来ると電球に当たらないように金網のようなフェンスが付いているが、あまり効果はないように思う。
席は丸椅子が七つほど並んでいるだけで、椅子に人が座ると壁と背中の間隔は三十センチ程しか無く、後ろを移動するのも苦労する。
壁にはなぜか魚拓が三つほど飾られており、年代物のせいかタバコの煙で赤茶けている。
生ビールのサーバー横には俺が高校生時代に流行った夜光塗料のついた骸骨のキーホルダーが磁石で止められているが、夜光塗料はすでに効果を成していない。
店の一番奥にトイレがあるのだが、そのドア上の壁には全紙サイズの大きな鹿児島の桜島の写真が飾られている。
きょうこさんが紀伊国屋書店でこのポスターを見て一目惚れしたそうだ。
ちなみにきょうこさんは鹿児島出身ではない。
また、店の壁は薄いので隣の大衆酒場の声が聞こえてしまう。
そんな店なのにも関わらず、なぜか足が向いてしまうのは、きょうこさんの料理の腕も良いのであるが、店に集まってくる客がなぜかいつも同じメンバーなのである。
年齢もほぼ同年代であろうか、話の話題は尽きない。
最近は全員揃うと順に各自の過去の武勇伝を語るのが常で、その楽しい話に突っ込みを入れたり、からかったりといつものお開きの時間の二十一時まで、盛り上がっている。
今日も俺が一番乗りで、謀ったように十八時過ぎには全員が揃った。
最初に来た順に店の奥から座るのが作法となっており、一番奥の席はいつの間にか俺の定席になっていた。
週に何度も会っているメンバーなのに日常の出来事は日々アップデートされている。
新たなネタが次々と提供され、笑いとともに酒もどんどんと進んでしまう。
一通り各自の現状報告が終わると、最近いつの間にか仕切り役になった一番の年長者であると思われる(詳しく追及したことは無いのだが)トシさんが話を切り出す。
「では、話も一段落着いたところで、武勇伝の披露行きましょうか。かずさん。今日はかずさんの武勇伝の番だよね。よろしく!」
そうか、今日は俺の番だったなぁ。
俺は高松和也。
酔っぱらっていた上に何も考えていなかったところでの指名。
昔の武勇伝か。
そんな武勇伝なんか無い平凡な陰キャラですよ、私。
でも話さない訳にはいかないしなぁ…… 面白い話? 面白い話ねえ……
その時、いつも仲間と会うと盛り上がる話が俺には有ったことを思い出す。
正直、俺だけの話じゃないけど、アニメとかに出て来るような高校時代の思い出話でもしてみようかと思った。
「じゃあ、俺の高校時代の話をさせてもらいます。よろしくお願いします」
と言い、高校時代の思い出について語り始めるのであった。
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改訂記録
2022/08/13 校正
2023/04/16 一部改稿




