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07 黒魔術師、新居を探す




 次の日。

 俺とセルミナは、エシュナの土地を管理する建物に来ていた。

 受付窓口の人に聞いたところ、アードレルは今、別の客の応対をしているとのことだ。

 俺たちは待合室にある椅子に座りながら、順番を待っていた。

 待合室に他の客はおらず、実質貸し切り状態だ。


「セルミナは、街のどこらへんに住みたい?」


 住居はどこら辺が良いか、セルミナに聞いてみる。

 3年間、エシュナの街を離れていた俺よりも、ずっとこの地で暮らしていたセルミナのほうが、この街について詳しいだろう。

 そう思って聞いたのだが、セルミナは少し不思議そうな顔をして答えた。


「市街地の端のほうだと、ほどほどに便利で、静かに暮らせるから良いと思うけど……。でも、店と住居は一緒にするんだよね? そしたら、お店の立地とかは考えなくていいの?」


 店の立地、か。

 正直それに関しては、あまり重要視していなかったりする。

 というのも、俺は冷やし中華店で生計を立てようと思っているわけではない。

 勇者パーティーとして稼いだお金があるので、店があまり儲からなくても食い扶持に困ることは無い。

 あくまで、儲かればラッキー程度で、趣味として楽しもうと思っていた。


「ああ、街のど真ん中に店を建てて、毎日うるさくて眠れなくても仕方がないからな。俺としては、静かなところがいいと思ってる」


「それなら、良い物件があるよ」


 待合室の外から、俺の言葉に対する返答が返ってきた。

 予期せぬ方向からの声に少し驚いたが、しかしこれは聞き覚えのある声だ。


「やあ、オルアス、久しぶりだね。セルミナも、オルアスに無事に再会できたみたいで何よりだ」


 そう言って待合室に入ってきたのは、アードレルだった。

 背丈は俺よりも少しだけ高くて、爽やかイケメンという言葉が相応しいような顔つき。

 仕事着なのか、貴族の正装のような黒い服をしっかりと着こなしている。


「久しぶり。少し見ない間に出世したんだな」


「オルアスのほうがよっぽど凄いと俺は思うよ。なんたって、世界最強の黒魔術師オルアス様って呼ばれてるくらいだし。それに比べれば、オレなんて大したことないよ」


 世界最強の黒魔術師って……。

 そういえば、レルドリア商会の支店長も同じようなことを言っていたけれど、もしかして本当にそういう名前が広まっているのだろうか。

 人の噂は誇張されると言うが、まさか、ここまでとは。


 でも「勇者が世界最強の黒魔術師を追放したらしいぜ? 馬鹿だろあの勇者」噂を立てられるかもしれないと考えると、悪くない。

 しかも、他のパーティーメンバーに書き残していった手紙が届いていれば、さらに愉快なことになるかもしれないのだ。


「さて、世間話もこのくらいにして、本題に入ろうじゃないか。応接室に資料があるから、ついてきてくれ」


 そう言われて、アードレルの案内で建物の中を歩き、応接室に移動する。


 部屋に入り、備え付けられている椅子に座ると、目の前の机に一枚の紙が置かれた。

 そうしてアードレルも椅子に座り、3人でひとつの机を囲むような形になった。


「さっきの話を聞いている限りだと、『市街地の端の静かなところ』をお望みのようだけど、合っているよね?」


「私はそれがいいな、って思ってるけど……。でも、オルアスが別のところが良いって言うんなら、そっちに従うよ?」


「いや、俺も特に希望はないし、それにしよう。……それで、これがその物件の説明か?」


 机の上に置かれた一枚の紙を指差して、俺は問う。

 アードレルは首肯して、その紙に書いてある内容を読み上げる。


「エシュナ一番通り沿いで、市街地の端にある、大きめで二階建ての一軒家。築年数は古め。前の住人が冒険者向けの道具店として使っていたから、店にするにも問題ない」

 そこで言葉を区切り、「これは物件の話とは関係ないんだけど」と前置きをして尋ねてきた。

「店を始める、と言っていたけど、オルアスはどんな店を始めるんだ? 最近は冒険者稼業が儲かっているらしいけど、オルアスもその類か?」


「そういえば、アードレルにはまだ言ってなかったな」


 言葉を区切ると、俺が続きを話し始める前にセルミナが説明を始めてしまった。

 まあ、彼女が説明したいというのであれば、止める必要はないかな。


「オルアスは勇者パーティーを見限って、王都から抜け出してきたんだって。それで、昔の浮気相手が作った料理を思い出して、その料理で商売を始めるらしいよ」


 ええと……。

 なんか、7割くらいセルミナの主観が入っているような説明だ。

 俺は別に勇者パーティーを見限ったわけじゃないし、冷やし中華を教わったアイナとの関係だって仕事仲間以上のものでは無いのだが……。


 まあ、唯一の救いなのは、セルミナが口角を上げており、悪戯っぽい表情を浮かべているということだろうか。

 彼女の悪戯は、わかりやすいのが救いだ。


「二人のその表情を見る限りだと、セルミナが意地悪い説明をしてオルアスが困ってる、って感じなのかな?」


「まあ、そんな感じかな。正しくは、勇者パーティーから追放されたのと、浮気相手じゃなくて仕事仲間、って感じだな」


「なるほどな。でも、オルアスが料理店を開くのか。意外だな」


「料理店だと何か不都合があるのか?」


「いや、そういうわけではないよ。ただ、建物が古いから清潔感を出すためには少しだけ改修が必要かもしれないが……。まあ、そういうことも含めて、実際に見て決めた方が良いだろうし、早速見てくるか? 望むなら、今日から住み始めることも可能だよ」


「ああ、とりあえず案内してほしい」


 これからセルミナと二人で住む住居だ。

 しっかりと、良し悪しを判断していこうと思う。


「もしかして、今日の夜はオルアスと……。ふふっ」


 なんか、セルミナの不気味な独り言が聞こえてきたけれど、聞こえなかったことにしよう。




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