23 黒魔術師、勇者と再会する
お久しぶりです。
いきなり一週間も更新を開けてすみません。
久しぶりなので、もしかしたら以前の話と齟齬があるかもしれません。
もし変なところがあれば、教えていただければ善処します……!
後書きで、少し大切なお知らせがあります。書籍化とかコミカライズとかではないので、期待しないでおいていただけると助かります。
勇者エルディンが来た。
その事実に、辺りは騒然とした。
「おい、あれもしかして、勇者なんじゃないか?」
「あれが噂の【捨てられた勇者】か。噂通りの間抜け面してやがるぜ」
「おい、そんなこと言ったら俺たちに襲い掛かってくるだろ!」
「騎士にあっけなくやられたって言うし、案外弱いんじゃね、あの勇者」
「しかも、王国に聖剣を奪われたらしいですよ」
「あははは! 聖剣を奪われた勇者か! ……それ、勇者じゃないんじゃねえの?」
冒険者のお客さんが、可笑しそうに騒ぎ立てる。
まるで、冒険者ギルドの酒場のような雰囲気で会話している。
商人や村人のお客さんは態度の大きい勇者に驚いていたが、冒険者たちの和やかな会話を聞いて少し安心したようだった。
一方で、給仕をやっていたレミカの顔には緊張感が張り付いている。
今までレミカに散々嫌がらせをしてきた奴が来店したわけだ、無理もない。
そして、王都に取り残してきた相手であり、それを根に持っている可能性もある。
何よりも、エルディンの視線がまっすぐにレミカに向かっていることに、言い知れぬ恐怖を感じているのだろう。
「おい、レミカ! 魔王軍のスパイなんかと別れて、俺と一緒に来い!」
唾を飛ばしながら叫び、そして有無を言わせずにレミカの右腕を掴んだ。
そして、連れ去ろうとして引っ張る。
「嫌です……! やめてください!」
「お前は騙されているんだ! あんな奴と結ばれても碌なことが無いぞ!」
「騙されてなんかいません! 私は、私の意思でここにいるんです!」
レミカは思い切り腕を振って、エルディンから逃れようとする。
しかし、普段力を使わない魔術師のレミカよりも、当然、エルディンの方が力は強い。
振りほどこうとしても、それが無駄に終わるのは火を見るよりも明らかだ。
だから、俺が出ていかないと――
「おいお前! 勇者か何かは知らねえが、そこのレミカちゃんに暴行するのは頂けねえ!」
「そうよ! レミカちゃんは私たちのアイドルなんだから!」
「さっさとその女の子を離しやがれ! さもなくば……みんな、分かってるな?」
「もちろんだ!」「おう!」「わかってます!」
俺が厨房から店内に出ていくと、既に店内で、冒険者のお客さんたちがエルディンを取り囲んでいた。
レミカを掴んだまま戦うのは不利だと悟ったエルディンは、大人しくレミカを手放した。
すぐさま冒険者の一人がレミカを保護し、他のお客さんと一緒に店内の奥に避難させる。
また、エルディンを取り囲んだ冒険者たちは剣を抜いていて、エルディンも短剣を構えている。
辺りには緊張感が走っており、まさに一触即発の状態だった。
レミカもセルミナも安全なところに行ったことを確認してから、俺は冒険者たちを手で制して、エルディンの前に立つ。
「おいエルディン、お前、罪を犯して王国に謹慎を言い渡されていると聞いたんだが。何でここにいるんだよ」
「なんで、だと? ふざけるな! 何もかも、全てお前のせいだ! レミカたちを誑かして俺だけを王都に取り残したのも、俺が王国に捕縛されることになったのも、聖剣を没収されたのも、全て! お前のせいなんだろ?!」
そう言うや否や、エルディンは飛び掛かる。
手に持った短剣をこちらに向け、迫ってくる。
店内でそんなことをしたら、危ないだろうに。
「《サラウンド・ダーク》」
俺がそう呟くと同時に、僅かな黒い靄が揺れる。
それは、対象物の周囲の光を捻じ曲げ、視覚を狂わせる魔法。
それによって目晦まししているうちに、俺は直線的なエルディンの剣線から逃れる。
エルディンが短剣を振りぬくも、斬れたのは何の変哲もない空気だけだった。
「くそッ! なんで当たらない!」
「そりゃあそうだろ。お前の視界を塞いでいるんだから」
正直、怒りに任せた直線的な攻撃では、視界を塞がなくとも躱すことは容易なのだが。
それを丁寧に解説してやる義理はない。
「それより、俺はお前がここにいる理由を聞きたいんだよ。勇者様は今、謹慎中だって聞いたんだが」
「そんなの、従うわけねえだろうが! 俺は勇者だぞ?! 選ばれし人間が、どうして人の言うことなんか聞かなきゃいけないんだよ?!」
「そうか、なるほど。……どこまで行っても、救えない奴だ」
「救えない奴はお前だ! このスパイが!」
ため息をついて、俺は次の魔法のために集中する。
エルディンは体勢を整えて、俺に剣先を向ける。
そして彼は、店内の隅――冒険者たちに匿われたレミカに向かって叫ぶ。
「レミカ! こんな奴なんか見限って、俺の方についてくれ! こいつは人類の滅亡を企んでやがる!」
もう、言っていることが滅茶苦茶だ。
エルディンは俺のことを魔王軍のスパイだと言っているが、魔王軍が人類の滅亡を企んでいるなんて話は聞いたことがない。
彼が勝手にそうやって思い込んでいるのか、それとも感情に任せてでたらめなことを叫んでいるのか。
どちらにしろ、俺のやることは変わらない。
「あのな、エルディン。お前は残念な奴だよ」
「なッ?!」
「お前、勇者になりたての頃はもっとマシな奴だったよな。困っている人間を見つけたら、助けてあげるくらいには周りが見えていた。なのに、どうした? どうしてお前はこうなったんだ?」
「それは……!」
「金か? 勇者という地位か? それとも、周りからちやほやされて調子に乗ったのか? どうしてお前は、自分の思い込みだけで行動するようになったんだ? 周りに迷惑かけても何も思わなくなったのは、どうしてだ?」
「違う! 俺は、俺は……!」
「王国は、お前に成長してほしかったんだと思うぜ。だから、処刑せずに謹慎で済ませた。なのに、お前はその思いを踏みにじった」
「だから何だって言うんだよ! そうやって、魔王軍の都合のいいことを吹き込んでも、俺は聞かねえぞ! スパイの言うことなんか聞くもんか!」
エルディンのその返答を聞いて、俺は肩を竦めた。
もともと、彼を説得できるとは思っていなかった。
彼が俺の言葉に耳を傾けることは無いと、知っていた。
それでも、彼が変わることができたならば。
彼が今までのことを謝罪して、弱き者を助けるような勇者になることができたならば。
世のため人のために自ら進んで魔物を狩る、本当の意味での「勇者」が誕生したのならば。
それはきっと、誰もが望む結末だっただろう。
そんな、万に一つの可能性に賭けてみたのだが。
俺が勇者パーティーにいたときには、何度も彼を説得しようと試みて、すべて失敗に終わっていた。
それでも、最後にもう一度だけ、彼を説得できないかと試してみたのだが。
やはり、ダメであった。
既に、時は遅すぎたのだ。
「……本当に、残念だよ」
最後にため息をついて、俺は呟いた。
「――《コア・ドレイン》」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
■少しだけ大切なお知らせ■
本作品の今後について、少しだけ触れておきたいと思います。
一週間更新をしなかった理由に関することでもあるのですが……。
最近、作者はスランプ気味で、ネガティブな文章しか浮かんでこないことがしばしばあります。
それは、本作の雰囲気とはまるで方向性が逆であるため、更新を敢えて止めていました。申し訳ない限りです。
それで、本作の今後についてなのですが。
一応、話の流れはある程度決めているのですが、それを書こうとすると、スランプやモチベーションの関係で、途中でエタってしまいそうだなと思いました。
それでは読者様方に不誠実だと考え、今までばら撒いたフラグを修正して、あと2,3話で完結させることにしました。
具体的には、鹹水をちゃんと用意させて(アイナから教わった冷やし中華の製法メモに記載させる)、「冷やし中華もどき」でなく「冷やし中華」を名乗れるように修正します。(10/1修正済み)
多少、打ち切りのような終わり方になることも予想されますが、ご理解いただけますと幸いです。