表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/26

21 黒魔術師、店を開く




 ついに、開店の日が来た。

 最終確認を終え、店内から窓の外を見ると、既に十人ほどの行列が出来ていた。


 俺とセルミナとレミカの三人で、お互いに顔を見合わせ、そして頷き合う。

 全員準備は出来ている、ということだろう。


「セルミナもレミカも、お店の経営は初めてだろうが、お互いに頑張ろうな!」


「はい!」

「もちろんだよ!」


 二人とも、気合は十分みたいだ。


「それじゃあ、『料理店ティエラ』開店だ!」


 店の名前の由来は、アイナの言葉から取った。

 彼女が元居た世界である「地球」の別名であるらしい。


 安直すぎる名前だが、ここら辺には『服屋サトイモ』とか『かっこいい武器店』みたいな、残念なセンスの名前の方が、店の名前として主流なので問題ないだろう。

 逆に、冷やし菓子パンを売っている『新緑の息吹亭』っていうのが異質な方だ。


「ええと、私が店の扉を開けるんですね……?」


「お金の計算頑張らないと!」


 開店直前にしては、なんとなく締まらない気もするが、まあいいだろう。

 セルミナは会計カウンターへ、レミカは入り口のドアに手をかけている。

 そして俺は、料理を作るために厨房へ向かった。


 そして、「開店です!」というレミカの声と共に、カランコロンと爽やかなドアベルの音が聞こえてくる。


「ここがオルアスの店か! 思ったよりも雰囲気があっていいじゃないか!」

「お品書きは――冷やし中華、か。聞いたことがない食べ物だな」

「さっそくだけど、注文いい?」

「は、はい! 今うかがいます!」


 次々にお客さんが入ってくることを確認してから、俺は厨房に籠って注文を待った。


「オルアスさん! 冷やし中華、3つお願いします!」


「ああ、わかった」




 ★ ☆




 お昼時になるにつれ、店はどんどん忙しくなっていった。

 厨房の部屋のドアは開けっ放しにしているため、店内の様子が僅かに見える。


 そこから見る限りだと、客層は主に冒険者といったところだろうか。

 それでも、たまに流行に聡い商人のような人物もやってくるのは、やはりレルドリア商会の広告のおかげだろうか。


 いや、余計なことを考えている場合じゃないな。

 調理に集中しないと、お客さんを待たせることになる。


「……ん? あいつ、怪しいな」


 冷やし中華を平らげ、席を立つのは冒険者の格好をした男性。

 それはいいのだが、問題は、しきりに周囲の様子を確認しているところだろうか。


 そして――あっ。


 あいつ、走って逃げやがった。

 何か怪しいと思ったら、やっぱり食い逃げか。


「レミカ! あいつを追いかけてくれ! 俺はちょっと今、手が離せない!」


「わかってます!」


 店内で給仕をしていたレミカに呼びかけると、頼もしい返事が返ってきた。

 そして、カランコロンとドアベルを鳴らして、外へ走っていった。

 店内は、突然のことにざわめく。


「レミカだと?!」

「あの勇者パーティーの白魔術師だろ?!」

「お前ら、気付いてなかったのかよ! 俺も今気づいたぞ!」


 そういえば、レミカはトレードマークであるとんがり帽子を被っていなかった。

 給仕の邪魔になるから――ということなのだが、その帽子が無ければレミカだと気づかない人もいるのか。

 それならそれで、油断した悪人を発見し、出禁にすることができるので都合が良いのだが。


 ここはレミカに任せて、俺はお客さんを待たせないためにも調理を続けよう。


「あいつ、馬鹿だろ。勇者パーティーの黒魔術師と白魔術師がいる店で食い逃げとか、殺されるに決まってるじゃねえか」

「安心安全ってこったな。今度来る時は妻と娘も連れてこようか」

「料理はおいしいし、店員は強いし、言うこと無いね!」


 嬉しい反応が耳に入ってくるとともに、外で「《パラライズ》!」とレミカの声が聞こえてきた。

 そして、しばらくしてレミカは食い逃げ犯を引きずって、店内に戻ってくる。


 しっかりとお金を払わせて、出禁を言い渡して、そして解放する。

 食い逃げ犯は、涙目で、逃げるようにして去っていった。


「あいつ、ざまあねえな」

「騎士に突き出さなかったのは店員の温情だろうが、それでもこんなに大勢の前で派手にやってるんだから、アイツも終わりだな」

「悪い人が成敗されてよかったのです!」


 お客さんの反応を聞き流しながら、少し考える。


 本当は食い逃げ犯を騎士に突き出してもよかったのだろうが、しかしそれをしようとすると、身柄を運ぶだけの人手が足りない。

 だからと言って、お客さんに罪人を運ぶ手伝いをさせるのも気が引ける。

 そういうことを考えた結果、レミカはあのような判断をしたのだろう。


 予期せぬトラブルだったけど、無事に解決できたようでよかった。


 開店初日は、昼を回ったころだ。

 まだまだ忙しい時間が続きそうだな、と思いながらも俺は、冷やし中華をひたすら作るのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >お前ら、気付いてなかったのかよ! 俺も今気づいたぞ! ⇒突っ込み不在でお送りしておりますw [一言] たまにで良いので、冷やし中華(ごまだれ)の事も思い出してあげて下さい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ