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18 黒魔術師、プレゼントを贈る




 そんなわけで、俺とセルミナ、レミカの三人でエシュナの中心街に来ていた。


「ええと、宿暮らしで必要なものって何があるかな?」


 セルミナが首を傾げながら、俺に尋ねる。


「この辺の宿は『寝る場所の提供』って感じだから、一通り生活必需品を買った方が良いんじゃないか?」


「何から何まですみません……」


「そんなに恐縮しなくていいのに。欲しいものがあったら遠慮なく言ってね? オルアスがなんでも買ってくれるから」


 セルミナが冗談交じりにそんなことを言う。

 レミカは少しだけ表情を綻ばせ、しかし真面目な声で返答する。


「いえ、私の使うものは自分で買わせてもらいます。さすがに買ってもらうのは申し訳ないですよ」


 首を横に振るレミカに対し、セルミナは「うぐっ。私なんていつもオルアスにおねだりしてばっかり……。心に刺さる……」と、わざとらしく胸を押さえた。


 その行動を視線で追っていると、豊満に育ったセルミナの胸が目に入る。

 そして、それを覆っている生成り色の質素な服も自然と目に入る。


 そういえば。

 セルミナに、服をプレゼントしてあげようと考えていたのだった。

 せっかく街に来ているわけだし、この機会に買ってあげることにしよう。

 でも、せっかくプレゼントするなら、サプライズにして反応を楽しみたいよな。


「ちょっと、俺だけ別行動してもいいか?」


「んー? なんでー?」


 ちょっと不満そうに、セルミナが首を傾げる。

 ただ、こう尋ねられた時の言い訳はちゃんと用意してある。


「ちょっと、冷やし中華の試作をしようと思ってな。せっかく街に来たんだから、材料を買っていこうと思ったんだ。すぐに戻ってくるから、セルミナはレミカと一緒に家具を見ていてくれれば助かる」


 もちろん、嘘ではない。

 冷やし中華の試作をして、セルミナとレミカに感想を貰おうと思っていたことは確かだし、そのために材料を仕入れなければいけないのも本当だ。


「まあ、すぐに戻るならいいけど……」


 セルミナの少し寂しそうな声を聞いて、申し訳なく思いながらも家具店を去る。

 そして、八百屋に行く――と見せかけて、服屋に向かった。




 ★ ☆




 すべての買い物が終わり、レミカが寝泊まりする宿も決めた。

 そうして、俺たちが家に帰ってくる頃には、もう夕方になっていた。


「話があるって言ってたけど、何?」

「あの、お部屋、お邪魔します……」


 俺は、私室にセルミナとレミカを招いていた。

 他でもない、サプライズプレゼントをするためだ。


 当初、プレゼントをあげるのはセルミナだけのはずだったが、それだとレミカがかわいそうだと思って、レミカにもプレゼントをすることにした。


 セルミナとレミカが俺に注目する中、俺はひとつの箱を開ける。

 食材の入った箱として扱っていたから、二人に中身がバレていることもないはずだ。


「そういえば、セルミナって服とか欲しかったりしないか?」


 脈略の無い俺の話に、セルミナは「えっ?」と首を傾げる。


「うーん。まあ確かに、この服だとお店に立つには粗末すぎるかも……」

 自分の服を見ながら、セルミナは首を傾げる。

「それに、かわいい服に憧れが無いと言えば嘘になるけど……。それがどうかしたの?」


 思った通りの台詞を聞けて、思わず俺は口角を上げる。


「そんなセルミナにプレゼントだ。これ、セルミナに似合うんじゃないかな?」


 そうして、箱の中から白いワンピースを取り出して、セルミナに手渡す。

 一瞬戸惑ったが、しかし「プレゼント」という言葉の意味を理解するとともに、瞬く間に満面の笑みを浮かべて言った。


「……え? これ、私に? ありがとう!」


 満足そうな笑みを浮かべながら、白いワンピースを広げて、体に当てる。

 そのまま、楽しそうに、くるりと一回転した。


「えへへー。オルアスからのプレゼントだー。一生大事にするぞー!」


 オルアス大好きー、と言ってセルミナは俺の部屋を出ていく。

 この笑顔を見られただけでも、セルミナにプレゼントを渡してよかったと思える。

 そのくらいの、魅力的な満面の笑みだった。


「あと、レミカ」


 プレゼントをもらったセルミナを羨ましそうに眺めているレミカに、注意を向けさせる。

 そういえば、レミカにプレゼントを贈ったことはあまりなかったが、彼女はどういう反応をするんだろうか。


「はい。なんでしょうか……」


「セルミナほど豪華なものじゃないかもしれないが、これ、プレゼントだ。まあ、これからもよろしく、ってことで受け取っておいてくれ」


 箱から水色のペンダントを取り出し、レミカに手渡す。


 明るい水色のペンダントは、紺色の髪の、いつも黒い帽子をかぶっているレミカに似合うことだろう。

 そう思って、これを選んだのだ。


「ええと、その……。本当に、いいんですか……?」


「ああ、遠慮することは無いぞ」


「あ、ありがとうございます……!」


 おずおずといった様子で、レミカはペンダントを受け取る。

 そして、手を止めてペンダントをじっと見つめた。


 しかし、何かに気づいたのか、レミカの嬉しそうな表情はすぐに陰ってしまった。

 考え込むような、少し寂しげなような表情をして、レミカは固まった。


「……どうした? お気に召さなかったか?」


「あ、いえ、なんでもないです……! さっそく、身につけてみてもいいですか?」


「もちろんだ」


 レミカはとんがり帽子を脱いで、ペンダントを首にかける。

 そして、俺の反応を窺うように、レミカは俺をじっと見つめてきた。


「うん。似合っていると思うぞ」


 そう言うとレミカは微笑んで「ありがとうございます」と口にした。


 そして、その直後。

 とととっ、と足音が聞こえ、セルミナが部屋に入ってきた。


「着替えてみたよー! どう? 似合ってる?」


 白いワンピースを着た、橙髪ショートで笑顔が眩しい少女。

 俺の目に映ったセルミナは、そんな姿だった。


「ちょっと待って。ヤバい。かわいいんだけど」


「そんなに安易に褒めないでよ! 恥ずかしいでしょ! オルアスのバカ! この! この!」


 満更でもないといった表情を浮かべながら、俺の頭をぽかぽかと叩く。

 そんなセルミナを見ながら、やはりサプライズプレゼントをしてよかったと思うのだった。


 一方のレミカは、俺がプレゼントしたペンダントを、ただひたすらに見つめていたのであった。




レミカは何を思っているのか……。

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