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16 黒魔術師、元仲間の今後について尋ねる



 ☆ ★




「まあ、そんなわけでエルディンを置き去りにして私たちだけでエシュナに来たってわけ」


 長話を終え、やりきった、といった表情でミルロッテは笑みを浮かべる。


「とはいえ、エルディンが聖剣を失った話は、ここのギルドマスターに伝えられた話ですけどね。私たちも、エシュナに来てから知りましたわ」


 エノーネは、ギルドマスターのダルドに視線を向けながらそう言った。

 ダルドはその視線に頷く。


「勇者エルディンは聖剣を没収され、今は国に謹慎を言い渡されたようだ。勇者という立場が無ければ、処罰はもっと重いものだっただろうが……」


 複雑な表情をして、ダルドは言葉を濁す。


 ダルドも、これまでの勇者エルディンの言動については思うところがあったのだろう。

 今の話を聞いて、謹慎だけでは反省しないのではないかと思ったのかもしれない。


 しかし、勇者パーティーは国から雇われているため、冒険者ギルドがどうこうできる問題ではない。

 あの男は謹慎程度で凹むような奴ではないが、しかし、国からすれば「魔物に対して人類で最も強い男」を手放すわけにもいかず、このような処遇となったのだろう。


「まあ、王国が判断することにつべこべ文句を言っても仕方がないな。俺としては、勇者(クズ)から解放されて満足だよ」


「……でも、また王国に言われて、エルディンさんとパーティーを組むことになるかも……」


 心配そうなレミカに、ミルロッテが答える。


「その時は断ればいいのよ! あんな奴と一緒に冒険するのは御免だ、ってね!」


「とにかく、オルアスにはお礼を言いたいのですわ。エルディンから逃げ出す機会と、復讐のチャンスを与えていただき、ありがとうございますわ」


 エノーネは丁寧に頭を下げる。

 そういえば、エノーネはエルディンに、理不尽に殴られたと言っていたか。


 噂によると、エルフの女性は誇り高い人物が多いらしい。

「エルフの女にちょっとでも嫌がらせをすると、手痛い反撃が返ってくるから気を付けろ」というのは、冒険者の中では常識だ。

 もしかすると、エノーネのようなエルフの女性にとって、自分を害した人に復讐するというのは当然だという感覚なのかもしれない。


「まあ、復讐してもいいとは思うが、ほどほどにな」


 俺の言葉に、エノーネはニヒルに笑って頷いた。

 これは何かをやらかしそうな目だな、と思いながらエノーネの様子を眺めていたら、つんつんと肩をつつかれた。

 振り返ると、相変わらずとんがり帽子をかぶったレミカが、俺を見上げるようにして尋ねてきた。


「……ところで、オルアスさんはこれから何をするんですか?」


「俺は、冒険者をやめて、エシュナで料理店でも始めてみようかと思っているよ」


「へえ、オルアスが料理ね。全くイメージ無いわね」


 ミルロッテが言うように、冒険者時代は殆ど料理しなかった。

 冒険者の旅の食べ物と言えば、干し肉と乾パンだけである。

 持っていく荷物が限られる都合上、食材を持って行って料理するような贅沢はできないのだ。


「こう見えて俺、結構料理できるんだぜ?」


「意外だわ」

「ですわね」

「料理できるなんて、かっこいいです……」


 彼女たちも、ギルドの酒場にいた冒険者たちも、俺のことを料理下手そう、と思っていたみたいだが。

 しかし、休日はよく料理をしていたし、いつだったかセルミナに俺の料理を食べさせたときは美味しいと言ってくれたものだ。


「そういえば、お前らはこれからどうするんだ? 3人でパーティーを組んで活動するのか?」


「私は、一人で自由にやらせてもらうわ!」

「ミルロッテは、男を捕まえたいだけではないでしょうか?」

「そうよ! エノーネ。 悪いかしら?!」

「いえ、そういう選択も、あり得るのではないでしょうか」


 そういえば、ミルロッテはもう20歳になるのに、婚約者がいなくて慌てていたんだっけか。

 女性はだいたい10代のうちに婚約を済ませるからな。

 行き遅れないためにも、必死なのだろう。


「エシュナのギルドで、ミルロッテの婚約者を募ってみるか? けっこうたくさん集まりそうだぜ?」


「お断りさせてもらうわ! 私は、私が選んだ人じゃないと嫌なのよ!」


 そう言いながらミルロッテが男からのアプローチを断り続けているのは、ひとえにミルロッテの「男に求めるものの基準」が高すぎるからだろう。

 まあ、好きにやってくれ、という感じだ。


「それで、エノーネは……まあ、聞かなくても分かるな」


「ええ、エルディンへの復讐のために、色々と準備を整える必要がありますもの」


「そうだな。まあ、無茶をして自分が破滅することが無いように気を付けるんだぞ」


「もちろん承知しておりますわ。それに、いざとなれば、エルフの里に帰りますし」


 里に帰ったら、誰かいい男でも見繕って結婚したいですわ、と言ってエノーネは笑みを浮かべる。

 そして、ふと思い出したように、エノーネはレミカを見つめた。


「……ところで、レミカはこれからどうするんですか? 私と一緒に復讐の道に進むことはお勧めしませんが……」


 その言葉に、レミカは下を向く。

 そのまま、しばらくの間、沈黙した。

 エノーネもミルロッテも、ギルドマスターのダルドも、レミカの次の言葉を静かに待った。


 時々首を横に振ったり、深呼吸したりするレミカを眺めながら、静寂の時間が過ぎていく。

 そしてついに、レミカは意を決したように顔を上げ、俺をじっと見つめた。

 そして、自信なさげに言葉を紡ぐ。


「あ、あの。オルアスさんのところで働かせてもらうのって……ダメですかね…………?」




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