14 勇者抜き勇者パーティー②
「それじゃあ、早速手紙を開けてみるのだわ!」
ミルロッテがエノーネとレミカに確認を取ると、二人とも揃って頷いた。
「そうですわね。エルディンには、冒険者ギルドで一人寂しく待っていてもらうことにしましょう」
「オルアスさんからの手紙……。気になります……」
三人は宿の入り口付近にある椅子を見つけ、そこに座った。
「ミルロッテへ」と封に書かれた手紙を、ミルロッテは開封して、読み始めた。
――――
ミルロッテへ
突然だけど、俺は勇者に「魔王のスパイ」と言われて、これ以上勇者パーティーを続けられなくなったことを、お詫びしたいと思う。
もちろん俺はスパイではない。
たぶん、レミカのことが好きな勇者が、レミカと俺が頻繁に話しているのを見て嫉妬したんだと思う。
俺は、この機会に冒険者をやめて、シュリタール辺境伯領のエシュナでのんびりと暮らす予定だ。
エルディンには内緒で、みんなで遊びに来てくれれば歓迎する。
エルディンだけは、くれぐれも連れてくるなよ。トラブルはもう懲り懲りだ。
ところで、ミルロッテは勇者のことについてどう思っているんだ?
まあ、聞くまでもないか。勇者には辟易しているだろ?
だから、これを機会に、レミカとエノーネと一緒に夜逃げしたらどうだ?
いつまでも、やられっぱなしじゃつまらないだろ?
クズ勇者のエルディンに、仕返ししてやるのも面白そうだと思わないか?
俺たちを敵に回したこと、後悔させてやろうぜ?
オルアスより
――――
そして、一通り読んでから、ミルロッテはエノーネとレミカの様子を窺う。
「二人は、どんなことが書いてあったのかしら?」
エノーネは、少し考えるような仕草をしてから、言う。
「回し読みをしてみてはいかがでしょうか? 少なくとも恋文の類ではないと思われるので、オルアスさんも許していただけると思います」
その提案にミルロッテもレミカも頷き、手紙を交換し合った。
そして、しばらくして、エノーネは言う。
「どれも、内容は同じみたいですね」
「そうですね……。でも、もしこれが本当のことだとすると……」
レミカは、考え込むように俯く。
しかし一方で、エノーネとミルロッテはニヤリと笑みを浮かべた。
「これで、オルアスを追いかけることができますわね」
「良いことを思いついたのだわ! このまま、エルディンを放置して私たちだけでエシュナに向かえばいいのだわ!」
そうすれば、エルディンは来るはずもないパーティーメンバーを延々と待っていることになる。
おかしいと思って探しても、もう既に三人は旅立った後で、エルディンは行き先さえも知らない状態だ。
エルディンだけが、王都で一人取り残される。
「次回、エルディン、孤高の勇者(笑)になる」というわけだ。
そんなミルロッテの提案に、エノーネも面白がって頷く。
「それがいいのですわ。パーティーメンバーに逃げられた勇者、と噂になって、笑いものになることでしょう。さらに、好きな人に逃げられた哀れな男、という御身分も追加されますわ」
レミカを見ながら、エノーネは含み笑いをする。
視線を当てられたレミカは、少し申し訳なさそうに俯く。
「エルディンさんには申し訳ないんですけど……。私も、お二方についていくことにします……」
「レミカは良い子過ぎるのよ! だからオルアスにも振り向いてもらえないんだわ! もっと自分に自信を持った方が良いわよ!」
ミルロッテの言葉に、レミカはとんがり帽子を目深に被って赤くなった顔を隠す。
その様子を見て、エノーネは苦笑いしながら言葉を紡ぐ。
「ミルロッテは自分に自信を持ち過ぎなのですわ。……ともあれ、早いうちに出発いたしましょう。早くしないと、エルディンが私たちを探し始めるかもしれませんわ」
言い終わると同時に、エノーネは席から立ち上がる。
それを見てミルロッテとレミカも席から立ち、宿屋を出る。
そして三人は、エルディンが待っている冒険者ギルドと反対の方向――乗合馬車の停留所へと向かったのだった。
「……エルフの女を敵に回すとどうなるか、是非とも教えて差し上げましょう」
エノーネの不穏な声は、誰に拾われることもなく虚空に消えるのだった。