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11 黒魔術師、冒険者ギルドに顔を出す




 翌朝。

 俺は冒険者ギルドへと向かっていた。

 セルミナは実家の手伝いがあると言っていたので、今日は俺一人だ。


 ところで、なぜ俺が冒険者ギルドへ向かっているのかと言うと。

 用事は3つある。


 一つ目に、冒険者を引退するための手続きをすること。

 別に、冒険者をやめる必要はないのだが、これから冒険者として仕事をすることもないだろうし、一種のけじめである。


 二つ目に、料理に必要となるグリフォンの卵の仕入れを、冒険者ギルドに依頼すること。

 商人から仕入れるよりも割安だし、そのうえ後輩冒険者に割の良い仕事を与えることもできる。


 そして三つ目は、昨夜のことの報告。

 シャドウゴーストがこの街で出現したことは、やはり報告したほうが良い。

 シャドウゴーストについて何か情報を貰えるかもしれないし、逆に冒険者ギルドが情報を必要としている可能性もある。

 人に有害で、かつ強力な魔物であるがゆえに、このような情報は重要性が高いのだ。


「それにしても、懐かしいもんだな」


 冒険者ギルドの建物の前に立ち、呟く。


 槍と剣が交差した模様が描かれている看板。

 その真下にある、ボロボロと言って差し支えないような扉。

 陽気に会話をしながら建物から出てくる冒険者の男たち。


「案外と、変わってないみたいだな」


 独り言ちながら、冒険者ギルドの扉を開き、中に入る。


 右の壁には依頼が記入された紙が一面に貼られている。

 正面には受付嬢が控えているカウンターがある。

 左は酒屋が併設されており、朝からかなりの数の冒険者が談笑していた。


「あれ、勇者パーティーに引き抜かれたって噂のオルアスじゃね?」

「バカ、お前、呼び捨てはないだろうが。世界最強の黒魔術師オルアス様、だろうがよ!」


 どうやら俺の存在に気づいたらしく、遠巻きに噂をし始める奴ら。

 なんか、見覚えのある奴もかなりいるな、と思っていたら。


「久しぶり! 元気にしてたか?」

「魔王ってどんな奴だった?!」

「久しぶりに、酒でも飲もうぜ」


 それなりに交友のあった面子が集まってきて、囲まれてしまった。

 ごつい体格で、剣や槍を持っておっさんたちに取り囲まれたら、さすがに威圧感たっぷりだな。


「いろいろ俺も話したいことはあるが、積もる話は後にしてくれ。話が盛り上がりすぎて、ここに来た用事を忘れたら元も子もないからな」


 そう言って受付カウンターへと向かう。


「相変わらず、真面目なやつだぜ」

「用事とやらが終わったら一杯付き合ってくれよな」

「席用意して待ってるぜ」


 この空気感も、昔から変わっていない。

 みんな元気そうで何よりだ、と思いながら受付カウンターの前まで来る。

 顔見知りの受付嬢に声をかけようとして、しかし俺の声はさらに大きな声によってかき消されることになる。


「久しぶりだな。オルアスだ。今日はちょっと――」


「おい、オルアスが来てるって本当か?!」


 建物の奥の方からドタドタと走る音と共に、ギルドマスターが現れた。

 筋骨たくましく、左目の下に十字の傷が出来ているおっさんだ。

 名前は、ダルドといったか。


「ああ、久しいな。俺がオルアスだ」


「ちょうどいい時に来てくれて助かった。危うく、お前を探すための依頼を出すところだったぜ」


「ん? 俺を探すための依頼って……。勇者パーティーがらみのことか?」


「その通りだ。まあ、色々と話もあるから、ちょっと個室まで来てくれ」


「それはいいんだが……。俺はもう冒険者稼業から足を洗おうと思ってここに来たんだ。だから、依頼を出そうって言うのならば期待には応えられない」


「は? マジかよ?! お前、それ、正気か?」


 ダルドが目を見開いてこちらを見てくる。

 野次馬の冒険者たちも「オルアスが引退?!」「マジかよ」「あいつまだ若いのに」とざわめく。


「ちょっと、戦い続きの毎日に疲れてな。だから、冒険者を引退して、エシュナで料理店でも開いてみようかと思ってるんだ。今回、冒険者ギルドに来たのは、その件について話すためだ」


「オルアスが料理店だと?!」

「これはもう行くしかねえ!」

「でも、あいつが飯を作ってんの見たことなくね?」

「あ、確かに……」

「わ、私は、オルアスさんの料理なら、なんでも食べます……!」


 野次馬が興味深そうに騒ぎ立てる。

 なんか、俺が料理できないみたいな噂が流れているけど、気にしないでおこう。

 気にしたら負けだ。


 一方で、ギルドマスターのダルドは眉間に皺を寄せて、考え事をしているように見える。

 俺をいかに説得して冒険者を続けさせようか、とか考えているのだろうか。

 まあ、冒険者こそ引退するが、冒険者ギルドと縁を切るつもりはないのだが。


「……その件はあとでじっくり話し合うとしよう。人を待たせているわけだからな」


「ん? その言い方だと、誰かが俺のことを待っているのか?」


「ああ。レミカ、エノーネ、ミルロッテの3人。勇者パーティーの面々が、個室で待ってるぞ」


 勇者パーティーの面々と言うわりに、勇者エルディンがいないのだが。

 まあ、ある意味では俺の予想通りでもあるのだが。


「そうか。ちゃんと手紙を読んでくれたのか」


「……手紙?」


 ダルドが訝しげな顔をする。


「いいや、こっちの話だ」


「そ、そうか」


 会話が途切れるが、しかし他の話題を探す前に、ダルドが立ち止まる。


「ここの部屋で、みんなが待っている。さっそく扉を開けるが、心の準備は大丈夫か?」


「問題ない。開けてくれ」


 ダルドが、廊下沿いの扉を開く。

 部屋に入り、視界に映ったのは、見慣れた3人の少女。


 とんがり帽子が特徴的な白魔術師、レミカ。

 斥候であり、エルフのお嬢様であるエノーネ。

 意志の強い赤髪の少女、軽戦士のミルロッテ。


 ()()()()()、勇者パーティーのメンバーが集まっていたのだった。





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