赤い靴 (もうひとつの昔話40)
カーレンという女の子が、病気がちの母親と二人で暮らしていました。暮らしはとても貧しく、カーレンはいつも裸足でした。
しばらくして母親は亡くなり、ついにカーレンは一人ぼっちになってしまいました。
お葬式の日。
カーレンが泣いていますと、そこへ慈悲深い老婦人が通りかかりました。
この老婦人は裸足の女の子を哀れに思い、カーレンを引き取って養女にしてくれました。
数年後。
カーレンはきれいな娘に成長していました。
そんなある日。
カーレンは靴屋で赤い靴を見ると、その美しさに心をうばわれ、老婦人に内緒で買いました。
カーレンは赤い靴をはいて教会に出かけました。
それを知った老婦人がさとします。
「教会には黒い靴をはいていくもので、赤い靴はいけませんよ」
「はい、おばあさん」
カーレンはうなずきましたが、老婦人が病気で寝こむようになると、ふたたび赤い靴をはいて教会へ行くようになりました。
ある日のこと。
カーレンはダンスパーティーに招かれました。
この日も赤い靴をはきます。
とたんに呪いがかかったように、赤い靴がひとりでに動き出し、ダンスを踊り始めました。
――止まらない、止まらないわ!
カーレンは赤い靴にあやつられるまま、家の外へと踊り出ました。
「お願いだから止まって!」
どんなに叫んでも、赤い靴はかってに踊り続け、ダンスをやめてくれませんでした。
三日後。
カーレンが踊りながら教会のそばを通ると、老婦人のお葬式があっていました。
「おばあさん、ごめんなさい」
カーレンは胸が張り裂けそうになりました。
おばあさんが死んでしまったのは、自分が看病をしなかったせいだと思ったのです。
カーレンはおなかがペコペコになってきました。さらにはウンコも我慢できなくなります。
カーレンは叫びました。
「ウンコが漏れる―」
するとです。
赤い靴はピタリと動きを止め、カーレンの足から離れていきました。
カーレンは教会のトイレにかけこみ、内側から鍵をしっかりかけました。
「ふうー」
ウンコがしまえたときです。
ヒタ、ヒタ……。
靴音が近づいてくるのが聞こえてきました。
靴音はトイレの前で止まりました。
トン、トン。
ドアがノックされます。
――あの赤い靴が追ってきたんだわ。
カーレンは覚悟を決め、一気にドアを開けるとトイレを飛び出しました。
ドアの前には、やはりあの赤い靴がありました。
赤い靴はトイレに入りました。
ドアが閉まります。
それからいっときして、便器に水の流れる音がしました。