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コロボックルとニシン

作者: タバスコ

今から百年程前の北海道


日露戦争に勝った日本国は本格的に北海道開拓を推進していた。


利平が八歳の時である。


明治政府は頻繁に北海道開拓移民を募集しており。


両親は東北の片田舎から明治政府の宣伝に乗り北海道へと渡た事がある。


利平達、親子が渡った北海道の土地は見渡す限りの原野で水場も無い耕作不適合地だった。


水を得ようと思えば天に祈って雨を乞うしかない。


幼い利平を育てながら土地の開拓など到底出来るとは思えない状況の中。


小樽ではニシン漁が活気に満ちていると噂を聞いた。


春まだ浅い三月の海はニシンの大群で海の色が変わる程だと言う。


両親は開拓地を捨て着の身着のまま小樽へと向かったのだった。


途中でアイヌの人達に助けられながら旅を続け、釧路湿原へと遣って来た時に利平は不思議な小人を見つける


小雨振る釧路の湿原で蓮の葉で雨を凌ぐ小人を見つけたのだ。


その小人は身長が八センチ程の小さな体にアイヌの人達が纏う幾何学模様の着物を着ていた。


利平は手を伸ばすと小人は利平の人差し指に触った。


小さな小人の指と利平の指が触れ合うと不思議と利平は体が暖かく成る様な気がして嬉しく成った。


その小人は男とも女とも判然としなかったが利平は小人に語り掛けた。


「オラと行くか」


「行く」と小鳥の様に高い声で小人が答えた。


利平は小人を懐に入れると両親の元へと戻り小樽への旅を続けた。


不思議な事に小人は利平だけに見える様で両親には小人が見えない様子だった。


両親は故郷と別れて以来、友達が出来ない寂しい利平が想像の友達を作ったのだろうと考えた。


小樽に着くと父親はヤン衆と呼ばれる東北からの季節労働者たちと一緒に浜辺の除雪作業をしたり、舟を降ろしニシン漁の準備に追われ、母親は飯炊き女として浜で働きだした。


自然と一人で居る事が多く成った利平は小人と海を眺める事が多かった。


カモメが鳴き、海が盛り上がった所にニシンが居るのだと通りかかった老人が利平に教える。


ニシンは産卵の為に此の小樽の海に来て産卵が始まると海はミルク色に変わるのだそうだ。


月は三月となり数日で一年の稼ぎを叩きだすニシン漁が始まると父親は休む間もなく働き、母親も夜中から飯を炊き続ける。


漁から帰って来る舟ごと競りに出され札束が飛び交い、ニシンを取り合い浜は鉄火場の様な騒ぎの中、人々が揉み合い雪のちらつく浜は濛々と蒸気の様に熱気が立ち上る。


利平の目には怖い位の大量のニシンがトロ箱に入れられて、浜から加工場へと運ばれる様子が何やら胸騒ぎの様に落ち着かない気持ちにさせられた。


ある夜、ニシン番屋で一人利平は留守番をしている。


ニシン番屋は御殿の様に大きく広い。


二階の広間に小さく寝床が敷かれ、ポツンと利平は父親と母親が帰って来る朝を待って居た。


冷たい風が吹き込むのも構わずに利平は小人と月を眺めている。


利平の頭の上から小人がピョンと利平の前へと飛び降りると


「帰るよ」と小人が利平に言う。


「帰るって何処に?」


「遠くさ」と小人は答えた。


「利平にはきっと良い事があるよ。さようなら」


突然の別れに戸惑う利平の前で小人の周りから光の粒が無数に現れて何やら形を作って行く。


それは魚に見えた。


ニシンだと利平は思った。


小人は光のニシンに乗ると窓から泳ぐように天へと帰って行った。


利平は悲しく成って、体も一変に冷たく成った様に感じた。


その日から不思議な事に浜ではニシンが取れなくなった。


両親は仕事が無くなり母の腹には弟か妹か判らないが命が宿て居る事が判った。


父親は仕方なく食えなく成って出て来た、田舎へと戻る決心をした。


利平はそんな父親に、きっと大丈夫だよと何やら自信あり気に言ったのだった。


遠くへと去って行った小人が月へ帰ったのか母の腹に宿ったのか利平には判らなかったが、きっと良い事が起こると利平は思ったのだ。


ニシンの別名は春告魚と言いアイヌ語ではヌーシィと呼んだ。


ニシンは二親を表し父と母が揃う魚だった。


利平はそれだけで幸せだったのだ。



別の作品を書き始めて、行き詰り逃げる様に短編を書いてしまいました。


出来る時は出来る物だと改めて思う。


出来ない時は出来ないと諦めよう。


それではまた。

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