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29 キュート系、それともセクシー系?

「それではケイトリン様、こちらにお召し替えを」

「やだ」

「こちらにお召し替えを」

「やだってば」

「こちらにお召し替えを」


 だめだ、話が通じない。

 私は今、王城の客間に通されている。神官に連行されて豪華な馬車に乗り、王城に到着したのがつい先ほど。さてさて名前を言いたくないあの人とご対面か、久しぶりだなー、と思っていたら、侍女によるストップが掛かった。


「そのお召し物では殿下の御前にお呼びできないとのことです」という理由はよく分かる。旅をしてきたから服はぼろぼろだし髪もぼさぼさ。風呂に入って着替えるくらいはしないといけないと分かっていたけれど。


 私が頑なに着替えを固辞している理由。それは、侍女が掲げているドレスが原因だ。

 彼女が持っているのは、ピンク色のフリフリドレス。襟も袖もフリフリブリブリで、見た瞬間思わず「ひえっ」と叫んでしまった私は悪くないと思う。


「いや、もうちょっとシンプルなデザインがいいんだけど」


 フリルやレースが嫌いなわけじゃない。袖にちょっととか襟にちょっととかってのはおしゃれだし可愛いと思う。でもこれはさすがに年齢的にアウトだろう……私、もうすぐ十九歳になるし……筋肉付いているし……。


「しかし、ラルフ殿下がこちらのドレスをケイトリン様に着せるよう命じられておりますので」


 あいつの命令か! 趣味悪っ!

 同じ男でも、ヒースが買ってくれたワンピースは色もデザインも私好みだった。選んだのはヒースじゃなくて店員だったけれど、彼だって「似合っている」みたいなことを言ってくれたし……ああ、今思い出したらだめだ。


「あの、じゃあせめて色違いを……青とかはない?」

「ございません。ケイトリン様の可憐さを引き立てるような色とデザインのものを、とのご命令で……」

「……ケッ」

「ケ、ケイトリン様?」


 やさぐれたような声を上げると、さしもの侍女もびくっと怯えたようだ。

 可憐さを引き立てる……はっはは、笑えるね。一年前、私のことを「不細工」とか「筋肉女」って罵倒したのはどこの誰だと思ってるんだ!?


 命令に従っているだけの侍女たちに罪はないと分かっているけれど、これでいよいよフリフリブリブリドレスを着る気が完全に失せた。

 下着姿の私は椅子の上で脚を組み、ピンクのドレスを指さす。


「……あなた、ラルフ王子に伝言。このドレスを着てもいいけれど、その代わり貴様の首を落とす、と言いなさい」

「ケイトリン様、何を!?」

「いいから、伝言。ドレスを着る代わりに首をもらうか、もっとシンプルなのを用意する代わりに命長らえるか、どちらかにしろと」

「ケイトリン様! 勇者様といえど、その発言は許せませぬ!」


 ドレスを持っている侍女は真っ青になって震えている。彼女の代わりに進み出てきたのは、ちょっと年かさの侍女だった。


「ラルフ殿下のご厚意を無下になさるのみならず、王家への冒涜と受け取ります!」

「ご自由に。……ああ、そうそう。私は仕方なくここにいるけれど、その気になったら壁でも窓でも城でもぶっ壊して出て行くから。それと、私は別にラルフ王子に忠誠なんて誓っていない。城を破壊せずに大人しくしているのはお世話になった陛下への敬意があるからにすぎないからね。ああ、なんならこの格好のまま会いに行くわ。ラルフ王子はどこ?」


 我ながら、元勇者といっても無礼かつ破廉恥きわまりない発言だ。でも、ただ八つ当たりでいらいらをぶちまけているわけじゃない。


 名前を言いたくないあいつはどうやら、陛下に内緒で私を城に連れてこようとしているみたいなんだ。きっと私とこっそり口裏を合わせた上で陛下のもとに連れて行くっていう作戦なんだろう。

 神官に見つかった町では勇者様コールされたけれど、王都までは噂が届いていない。届くまでの間に妃になるよう私を言いくるめ、陛下にご挨拶に行くんだろう。「勇者ケイトリンを妻に迎えるので、王位を私に譲ってくれ」……ってね。


 ぶっちゃけ私と結婚しようとしまいとあいつがライアン王子に勝つ算段はなさそうなんだけど、よほど焦っているんだろうね。だとしたら私が城で大暴れしたり陛下を呼んだりするのはあいつにとって都合が悪いことのはず。

 ……ん? それはいいにしても、下着姿で王子に会いに行くはどうかと思う、って? 即刻あいつの両目を潰すから、大丈夫だ。


 にやりと笑う私を若い侍女たちが気味悪がるような怖がるような目で見る中、年かさの侍女は仕方ない、とばかりに肩を落とした。おっ、ひとまず勝ったな。


「……かしこまりました。おまえ、別のドレスをお持ちしなさい」

「し、しかし――」

「あー、いいよ、私の我が儘だって言っておくから。あなたを罰するようならボンクラの首をちょん切ってやるから、大丈夫だよ」


 怯えた様子の侍女がさすがにかわいそうで、私はそう付け加えた。ボンクラの命令に従わなきゃならない人は大変だよね、きっと。


 結果、持ってこられたのは真紅のドレス。色はもちろん、やけにデザインが色っぽい……というかエロいんだけれど、さっきのフリフリよりはましだ。

 そう思って渋々着替えることにしたけれど、うわぁ、これ、すごいところにスリットが入ってる。え、ここまで胸を見せるの? あれ、尻と胸のライン丸出しじゃない? あ、これもあいつの趣味なのね。ええ、ええ、よく分かりました!


 真顔で着替え、メイクと髪のセットもしてもらう。ファブルの町のブティックでしてもらったときは食事の前ということもあってシンプルナチュラルに可愛くしてもらったんだけど、なんか……頭、重い。化粧の粉がすごくて、むせそう。匂いもすごい。なにこれ、毒?


「……頭、なんかいっぱい着けすぎじゃない?」

「これくらい普通ですよ」


 しれっとして言われたけれど、試しに鏡を見てみたらそこには、頭の上がお花畑になっているような女が映り込んでいた。なにこの常春ヘアースタイル。盛りすぎ、コサージュやらアクセサリー着けすぎ。


 私はいたく不満だけど、侍女たちは満足したらしい。「では、ラルフ殿下をお呼びします」と言って年かさの侍女以外は下がっていった。ああ、私の足で歩いていくならちょっとくらい暴れられたけれど、待つのなら仕方がないな。


 エロドレスはやたら隙間が多く、ちょっと脚を組んだだけで「下着が見えるのでおやめください!」と止められてしまった。だったらもっと布面積の広いドレスにしてよ……。

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