⑥ハードル走
中学校のグラウンド。
陸上部で、わたしと梨奈ちゃんは100メートル走のタイムをこれから計る。
「梨奈と姫子頑張れ〜!」
「梨奈、頑張れ!」
「姫さん、頑張れ!」
「2人とも頑張って〜!」
計る前だというのに、この声援。
みんな元気だなぁ。
でも、応援してくれるのは素直に嬉しい。
初めてスパイクで計る100メートル。
最高タイムを出すしかないよね!!
「姫さんコケるなよ〜」
「コケねーわ!」
高守の言葉に即効ツッコむ。
「ツッコミ、キレ良すぎ」
先生にまで爆笑される。
うう、恥ずかしいよ。
コケるなよとかひどい! コケるわけないじゃないか。
いや、わたしはかなりコケやすいけどさ……。
「位置について。よーい、ドン!」
とにかく足を速く前に出す。しっかりと腕をふる。
まずは、それを心がけるだけで良い。
先生のアドバイス通りに、全力疾走する。
隣にいたはずの梨奈ちゃんの姿は、もう見えなかった。
「姫里、14秒41。結城、15秒02」
「やったぁ!!」
「姫さん、ホントに速いね……」
初めての14秒台前半に、思わず声をあげてしまう。
喜びの中、声をかけてきてくれた梨奈ちゃんに笑い返した。
みんなが待っているところに、小走りで向かう。
「姫さん何秒だった?」
「14秒41」
「え、速!」
「おまえ女子じゃねぇだろ」
「いや女子だから」
ひどいことを言ってくる男子の頭を軽くたたく。
「えー、今日の100メートル走の順位トップ5を発表する」
今日は1年生だけが残って100メートル走の計測をしたんだ。
「1位、桧野。13秒75」
「速え!」
「さすがとしか言えねぇな」
「2位、川中。13秒92」
「おお〜」
陸上部の川中光輝。
陵河と同じくらい足が速く、頭も良い川中のことを、わたしは尊敬の念をこめて川中さんと呼んでいる。
「3位、宮田。14秒32」
え、奏馬でも、グラウンドでは14秒台なんだ……。
まあ、奏馬はタイムが遅い人だからな〜。実際に走ると陵河と全然差ないのに、タイムはいつも結構差があるんだよね。
他の人と比べればタイムも速いけどさ。
「4位、高守。14秒40」
「え! 何それ!? 0,01秒差〜?」
「よっしゃ。姫さんに勝ったぜ」
「大差ねえ」
「うわぁ、あとちょっとで高守に勝てたのに〜〜!!」
運動神経がめちゃくちゃ良い高守に、スポーツで勝つことはほぼなかった。
短距離も学年で4位程度、長距離は学年トップ、テニスもうまく、バスケもできて、ボール投げもものすごく、水泳も得意。
スポーツにおいてカンペキな高守に、勝ってみたかったよ〜!!
「5位、姫里。14秒41」
「マジで高守と変わんねーじゃん」
「女子でトップ5入りとか、さすがすぎる」
「ホント。さすが姫さん!」
陵河が笑顔で拍手してくれる。その陵河につられたように、みんなも拍手をおくってくれた。
「ありがとう」
自分も、ノリにのって拍手しておく。
「先生! 姫里さんは100メートル走とハードル、どっちに出るんですか?」
「姫里はどっちに出たい?」
わたし? わたしは……。
100メートル走なんて、いつでもできる。体育祭でもいっぱい走るし、今後も走る機会はたくさんあるはずだ。
でも、ハードルは違う。
普段からハードルなんてやるわけじゃないし、それに……陵河と一緒にハードルで出たい。
「わたしは、ハードルが良いです」
膝を痛めているわたしにとって、この選択は辛いものかもしれない。
でも、それでも、陵河と一緒なら頑張れる。
「じゃあ姫里はハードルに出てもらうことにしよう」
「はい!」
「じゃあ、わたしも連陸に出れる可能性があるってことだね!」
梨奈ちゃんが嬉しそうに言う。
100メートル走は、きっと、梨奈ちゃんが出ることになるだろう。
でも、わたしがハードルを選んだことで、夢芽は連陸に出れなくなる……。
「姫さん。ハードル頑張ってね!」
「夢芽……」
「わたしより姫さんのほうがずっと速いんだから。わたしが出れないのは当たり前だよ。だから、わたしの分まで頑張って!」
「ありがとう」
「おまえら気がはえーぞ」
「連陸まであと1ヶ月あるんだから」
「その間に姫さんがまた捻挫とかしたら、ハードルに出るのは夢芽ちゃんになるよね」
「ああ、そんな怖いことを言わないでくれ! もう捻挫なんてしたくない!」
「姫さんガチすぎ」
「ホントおもしれーな」
みんな爆笑。
「明日ちゃん。多分、男子のハードルは陵河くんだよね」
「え、うん……」
「良かったね! 頑張ってね!」
「もう、唯香!」
小声で話しかけてきた唯香の笑顔を見て、心がふわっと軽くなる。
そうだよね。ハードルで一緒なんだから、頑張らないと!




