⑤出場したい
「姫子治ったのか!」
「姫さん!」
「姫さん大丈夫?」
「明日ちゃん久しぶり」
グラウンドに行くと、陸上部の人達が話しかけてきた。
「うん。もう大丈夫だよ。ありがとう」
ニコッとほほ笑んで言うと、
「かわいい〜」
と夢芽に言われた。
いや、絶対的に夢芽のほうがかわいいぞ。
「先生! 足首治りました!」
陸上部の先生に駆け寄って、報告する。
走っているわたしの姿を見て、先生は笑顔になった。
「それは本当に良かった。これで連陸、出場できるな」
「はい!」
「今日はあまり無理するな。痛かったら休んで」
「はい、分かりました!」
うなずいて大きな声で返事をするわたしを見て、みんなが笑う。
「元気だな〜」
「久しぶりだからめっちゃ気合入ってる」
「姫さんは何でも真面目に取り組むよね」
「うん。ホントにえらい」
「ただ、姫さんは頑張りすぎるからな」
陵河……。
「姫さんはいっつも頑張りすぎなんだよ。休んだって良いんだぞ」
優しくほほ笑んで陵河は言う。
久しぶりの陵河の笑顔。
久しぶりに会えたってだけで満足なのに、それに加えてこんなに優しい言葉をかけてもらえるなんて……。
幸せなんて言葉じゃ表せないくらい、甘い気持ちが心の中に広がって行った。
大好きだ、陵河。
おまえは誰にも代えられない。
「うん。ありがと」
陸上部が始まると、またハードル推薦の4人は別メニューの練習を始めた。
「1回タイム計ってみるか」
「ハードルのですか?」
「そうだ」
「おお〜。でも、速いのか遅いのか、よく分からないよね」
「だよな。100メートルハードルなんてやったことねぇ」
初めてのタイム計測。
わたしはとても緊張していた。
「ハードリンクがうまくなれば、自分の100のタイムプラス2秒以内では走れるようになるぞ」
「え、じゃあ……うまくいけば16秒台が出せる!?」
わたしの100メートルは14秒台後半くらい。
「でも、姫さんのその100メートルのタイムはスパイク履いてなかったっしょ? だから、もうちょっと速いんじゃね?」
「あ、そっか。スパイク履いて走るの初めてだ!」
「オレは前100メートル走計ったから」
「え、陵河何秒だったの?」
「いや、別に速くない。13秒台後半」
「でもそれグラウンドで走ってでしょ? タータンで走ればもうちょっと速いんじゃない?」
「そうだな」
2人で話せる。
そのことが幸せすぎて、わたしは笑顔になった。
「はい、じゃあ計測行くぞ〜。まずは谷屋と桧野が入れ」
「はい!」
「位置について、よーい、ドン!」
す、すげぇ……。
圧倒的な足の速さ、そしてすごくまともになったハードルの跳び方。
陵河は、巧にどんどん差をつけていく。
「うわぁ、すごい。陵河くん何秒だろうね?」
「ね。跳び方まともすぎてビビった」
「そっか。姫さんは、陵河くんのハードル見るの久しぶりだもんね」
「うん」
「あ〜、わたし姫さんと走るんだよね? イヤだ〜。負けること分かってんのに」
「そんなこと言わないで?」
「かわいいー」
「いや、かわいい要素なかったでしょ、今!」
陵河と巧がゴールした後、先生がインターバルとハードルの高さを変えた。
1年男子100メートルハードルは、インターバルが8,5メートル。全学年女子100メートルハードルはインターバルが8メートルなんだよね。
高さも数センチ違うし。
「姫里と前原入って!」
「はい!」
「位置について、よーい、ドン!」
足が治ってから、初めて本気で走る100メートル。
ハードルを跳びこえる。
なんだろう、気持ち良い。
足首をケガしてて、今までずっと走ってこなかったから、今までよりもスピード出てる感は少ないけど……。
最後も本気で走りきり、ゴールしたわたし。その後に続いて夢芽もゴールした。
「姫里、17秒92」
え、普通に遅くね?
プラス3秒じゃないじゃん!
「久しぶりに走ってこのタイムは、かなり良いぞ。まだスパイクにも慣れてない状況だしな。このまま練習を続けてタータンで走れば、16秒台は行けるな」
「うん。姫さん普通に速くね?」
「え、陵河何秒?」
「オレは17秒75〜」
「すげぇけど、うぜぇ」
「ひどっ!」
陵河と笑ってしまう。
でも、あのハードルの高さでそのタイムは普通にすげぇな……。
まあ、陵河はもうハードリンクが良くなってるからね!
「巧は?」
「姫さんより遅いよ。18秒56」
す、すごいタイム差だな。
もう連陸に出場するのは、陵河ってほぼほぼ決まってる感じか。
巧ははっきり言って、そこまで足が速いわけではない。
100メートル走はわたしより遅いし、クラスで男女各4人選ばれる選抜リレーにも出場していなかった。
「姫里。おまえはハードルも速いと思うが、100メートルの選考にもかかってる。だから、次回は100メートルのタイムを計ろう」
「はい」
「陸上部の1年女子の中では1番速い、結城と走ってもらう」
結城梨奈ちゃんは、C組の女子の中で1番足が速い。
団対抗リレーで一緒に走ったのも梨奈ちゃんだ。
「うわぁ、梨奈ちゃんに勝てるかな〜? なんか怖い」
「姫さんなら絶対勝てるよ〜」
夢芽が笑って言ってくれる。
「ありがと、夢芽」
わたしの足の速さが通用するのは、学校内でだけ。
そんなことは分かってる。
わたしじゃ区や都で競うことはできない。
だから、通用する学校内でだけは、1番になりたい。
これは陵河も一緒だと思う。
いくらグラウンドだといえど、男子で100メートル走13秒台後半じゃあ、都で通用するわけもない。
だから、学校内でだけは1位になって……。
陵河と一緒に、連陸に、出たいんだ。




