㉚君に恋して良かった
言葉の続きを聞くのが怖かった。
分かっていても、フラれるのが怖かった。
「……オレは、今、好きな人がいないんだ」
「……うん」
そう……なんだ。
「姫さんのことは、友達的な意味では本気で好きだ。恋愛的な意味でも、好きなほうだ」
……嬉しい。
「だけど、オレは……姫さんの想いに応えることができない」
うん、分かってるよ。
「変なこと言ってごめんね。でも、どうしても伝えたくて……」
「変なことなんかじゃない」
「え?」
「本当に、すっごく嬉しかった」
「陵河……」
涙が頬にこぼれ落ちた。
都大会の時に流した悔し涙とは違う、幸せな涙。
「ちょ、泣くな!」
困っている陵河がおもしろくて、泣き笑いの表情になった。
「もう4時になるぞ。自習室、戻ったら?」
「うん」
「じゃあね」
「うん」
恥ずかしさで2人とも、そっけなく別れてしまった。
でも、ダメだ。こんな気持ちの伝え方じゃ。
5年生の時からずっと好きだったんだ。
もっと言うことは、あるはずだから!
「陵河!」
振り向いた陵河の顔をしっかりと見つめて、ほほ笑んだ。
「陵河のことを好きになって、良かった!」
そう心から思うから。
本当に幸せだったから。
「姫さん……ありがとう」
「うん、じゃあね!」
「じゃあね」
なぜか陵河の瞳が、涙で一瞬潤んだように見えた。
陵河の姿が見えなくなると、自習室に戻って、席についた。
「陵河は?」
「帰ってくれましたよ〜」
「マジか! 待てよ陵河!!」
川中さんがあわてて走って行くのを笑って見つめる。
「ホント、陵河って男子に好かれるタイプだよな〜」
陵河が好かれないわけがない。
優しくて、裏表なくて……。
そんな陵河だからこそ、わたしは好きになったんだ。
君に恋して、辛い時だってもちろんあった。
中学に入って違うクラスになった時。本気で辛かったし、もう諦めようと思った。
でも、諦めることなんてできなかった。
今なら笑顔で言える。
君に恋して、本当に良かったって。
想いを伝えようって思えたのも、ちゃんと自分で言えたのも、全部陵河が初めてだから。
両想いにはなれなかったし、これでわたしは失恋。
でも、それでも、幸せな気持ちでいられるのは、相手が陵河だったから。
またいつか、そう思える相手に出会えるよね。
そんな相手に出会えたら、そしたら、また――。
君に想いを届けたい。 [完]
「君に想いを届けたい」これで完結となります。
自分の経験を活かしながら、陸上と恋愛両方のテーマについて書けたので楽しかったです。
次回作もよろしくお願いします!




