㉘できない
次の日。
久しぶりに放課後にテニス部に参加した。
「あの……悩んでることがあるんだけど……」
陸上部に入ろうか迷っていること。
これは、望亜と萌乃と葵には言っておくべきだと思った。
「陸上部に入るか、悩んでるの」
「え!?」
「ダメだよ、姫さん! 絶対ダメ!」
「姫さんがテニス部からいなくなったら、どうなっちゃうと思ってるの!」
え……。
驚いた。みんながここまで反応してくれるとは思っていなかった。
「え、何? 姫さん陸上部入るの?」
高守も会話に参加してくる。
「え、イヤだよ。姫さんが陸上部に行っちゃうんなら、オレは陸上部か野球部かサッカー部かバスケ部に入るからね」
「選択肢多っ!」
「とりあえず、陸上部行っちゃダメだからね!」
「陸上部行ったら一生ゆるさない」
「めっちゃガチじゃん」
そっか、テニス部のみんなは、こんなにわたしを必要としてくれてるんだ。
だったら、わたしは、テニス部に残る。
テニス部で卒業まで過ごしていく。
ごめんね、唯香。ずっと陸上部に誘ってくれてたのに。
ごめんね、梨奈、真樹、若菜。もう一緒にリレーは走れないかもしれないね。でも、今の陸上部のみんななら、わたしがいなくても55秒台前半が出せるよ。
陸上部のみんな、本当に陸上が楽しかったです。短い間だったけど、ありがとうございました。
「姫さん、テニス部に残ってくれるよね?」
「……うん!」
自然に笑顔になれた。
部活のことは決着がついたんだから、次は陵河とのことだ。
今日は雨のため、室内トレーニング。
室内トレーニングは校舎内で行うから、サッカー部、野球部、陸上部にも会える。
「あ、姫さんファイト〜!」
走っている陸上部の梨奈達が声をかけてきてくれた。
「うん、ファイト〜!」
梨奈達と違う部活っていうのが変な感じ。
わたしが高守の隣で空気イスをやっていると、足元で筋トレをしていた陵河が話しかけてきた。
「都大会どうだった? 足速かった?」
「え、うん」
いつもと変わらない声と笑顔に、少し戸惑ってしまった。
「11秒台いた?」
「うん、いたよ。でも普通は12秒台って感じだった」
「ふっ、遅えなぁ」
「おまえが言えることじゃねぇだろ」
「いや、言えることだから」
ナゾに偉そうな陵河に笑ってしまう。
「姫さんはどうだった?」
「わたし? ……わたしは、全然ダメ」
応援してくれてありがとう、わざわざ「頑張って」って伝言を頼んでくれてありがとう。
そう言いたかったのに、喉がつまったようにその言葉を発せなかった。
「おい陵河、真面目に筋トレやれよ!」
サッカー部の男子が陵河に声をかけて、また筋トレをし始めた。
そして、そのまま、その日は陵河と話すことができなかった。
やっぱりダメだ。
ちゃんと話をしようって思ったのに……無理だった。




