㉗入るべきか
都大会の最後、わたしと真樹と若菜と梨奈は先生に呼び止められ、リレーの報告をした。
「ベストか……よくやったな」
でも、ベストと言っても目標タイムには届いていない。
やっぱり、わたし達の中には悔しさが残っていた。
「でも、陸上部の3人におぼえておいて欲しいのは、これは姫里が入ったから55秒台に届いたってことだ。姫里がいての56秒台だからな」
「はい」
「本当にありがとう、姫里。陸上部じゃないおまえが来たことで、陸上部は負けたくないって思ってかなり足が速くなったぞ。記録を残すだけじゃなく、陸上部の雰囲気も良くしてくれた。本当にありがとな」
「はい」
「で、陸上部に入らないか?」
また少し涙が出て来てしまった。
これでもう、本当に終わりなんだ。
この都大会が終わったら、山内先生もわたしの陸上部への勧誘をやめると言った。
ようするに、これを断ったら、今わたしはもう陸上の道を断ち切ることになる。
入学してすぐに50メートル走のタイムを計った時。それが初めて、才能を認められて勧誘された瞬間だった。
でも、わたしは陸上がやりたくなかった。
走るのの何が楽しいの?って思ってた。
だから、仮入部にも行かなかったし、全く眼中になかったんだ。
それから連陸の練習に来るようになり、陸上に対する思いが変わった。
「……でも姫里、少しは陸上を好きになれたか?」
「はい」
本当に、本当に陸上が好きになった。
今は、本当に、テニス部に残るか陸上部に入るか迷っている。
「少しでも走ることを好きになってくれたなら良かった」
少しじゃないです、先生。
本当に……本当に……楽しかったです。
泣いてしまっているため、その言葉も口に出せなかった。
「でも、この冬から陸上部に入ってくれれば、次の春までに100メートルは13秒台前半、ハードルは15秒台が出せることを約束する」
「え……?」
「姫里は走る時に少し腰が落ちてる。フォームも、陸上を専門的にやっているわけではないからキレイとは言えない。それを直せばすごく速くなる」
13秒台前半や17秒台前半が出せれば、都大会でももっと高いレベルで勝負できる。
これまではずっと、絶対にテニス部に残るって言ってきたけど……。
どうしよう。
心が揺れ動いていた。
「冬期練から入れば、他の1年生に遅れをとることもない。入るなら、今だ」
どうすれば良いんだ……?
入るか、入らないか。
3ヶ月くらいの、陸上に関わってきた期間。
陸上の楽しさを、嬉しさを、辛さを、悔しさを知った。
辛くても、悔しくても、やっぱり陸上は楽しかった。
わたしは……陸上部に入るべきなの?




