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君に想いを届けたい  作者: sakiko
26/30

㉖悔しさ

16,55。

頭の中からその数字が離れなかった。

わたしの最後の大会は、16秒台後半で終わり……。


「お疲れ様!」

「すごかったよ!」


みんなが笑顔で声をかけてきてくれる。

悔しい気持ち、辛い気持ちを隠し、笑顔でうなずく。


「ありがとう」


本当にこれで終わりなんだ。

来年の連陸まで、わたしが陸上の大会に出ることはあり得ないんだ。

ごめん、陵河。わたし、全然速くなかった。

17秒台出せないなんて……。

沈んだ気持ちをみんなの前では隠し通し、ついに祐梨子先輩の100メートルYH予選が始まった。


「On Your Marks」


雨に打たれながらも、身を乗り出して祐梨子先輩を見つめる。


「Set」


ファイトです、先輩……!


「バン!」

「祐梨子先輩ファイト〜!!」


最初は3位くらいだった祐梨子先輩だけど、どんどん加速していってトップに近づいて行った。

何位だ……?


「きゃ〜! 1位だよ!!」

「うおおおお〜〜!!!!!」


あり得ないほどの盛り上がりを見せるM中。

M中の中で、唯一の予選突破じゃない!?

予選の組の中で1位だからって必ず予選突破できるわけではないけど、祐梨子先輩のタイムならきっと決勝に進めるはず!

ブルーシートに戻って暖まっていると、祐梨子先輩が戻って来た。


「先輩〜〜!!」

「お疲れ様です!」

「予選突破?」

「うん!」


う、うおお、すごすぎる……!

かっこよすぎるよ……!

今まで、都大会で入賞したとか聞いても、ただすごいなーって思うだけだった。

でも、同じ舞台に立って、そのすごさをやっと本当に理解することができた。

いや、同じ舞台なんて言ったら失礼だね。

祐梨子先輩とわたしじゃ、格が違いすぎるから。

陸上部の1年生と円になって話していても、心の中の暗さはとれないままだった。

あっという間に時間は過ぎ、100メートルYHの決勝。


「第5レーン、下川祐梨子さん。N」


支部対抗は市区町村対抗なため、学校名じゃなくて市区町村の名前を言われる。


「せーの」

「祐梨子〜」


わたし達が名前を呼ぶと、祐梨子先輩は気づいて笑ってくれた。


「なんかずっとニヤけてるけど大丈夫かな?」

「ね、さっきからずっとニヤけてるよね」


わたし達が「祐梨子〜」って言ってから、ずっと笑ってるぞ。


「On Your Marks」


う、ヤバい、なぜかわたしまで緊張してきた……。


「Set」


必死に祈る。


「バン!」


最初は他の人に比べてスピードが出ていない祐梨子先輩。


「祐梨子先輩ファイト〜!!」


全身で叫ぶ。これ以上ないくらいの大声を出した。

どんどんスピードが出て、順位も上がってきている。


「ラストファイト〜!!」

「何位だ?」

「何位だった?」


みんなが一斉に、電光掲示板に名前が出て来るのを待つ。

1位は明らかに違う人だった。だから、祐梨子先輩は少なくとも2位以下……。

あ、1位の人は、下川舞子さんだって。

2位は……。


「やった〜!」


すごすぎる!

M中唯一の都大会入賞で、しかも2位なんて!


「っていうか下川さん最強すぎね?」

「それな。1位も2位も下川さんじゃん」


みんなの顔が、今までにないくらいの笑顔で満たされていた。

雨の中、寒い中。本当に辛かったけど、祐梨子先輩がゴールしたこの瞬間だけは、あり得ないくらい幸せだった……。


「姫里、お疲れ様」


山内先生に声をかけられた。

もう表彰も終わり、祐梨子先輩は賞状を持ってみんなに囲まれている。


「よく頑張ったな」


わたしは無言で首を横に振り、涙をこらえた。

祐梨子先輩がかっこよくて、すごすぎて、自分が不甲斐なさ過ぎて……。

涙がこぼれ落ちてしまった。


「どうした、姫里。泣くな!」


山内先生もびっくりしている。


「……悔しかったか?」


無言でうなずく。

もう、涙を止められなかった。


「明日ちゃんどうした?」


唯香も驚いて声をかけてくる。


「16秒台前半いけなかったのが、悔しかった……」

「何言ってんの! こんな天候の中、自己ベスト更新なんて無理だよ! でも、そんなに自己ベストに近いタイムが出たこと。それは、本当にすごいことなんだよ! だから泣かないの!」

「うん……ありがとう」


唯香の優しさが身にしみた。

でも、やっぱり涙は止まらなかった。


「姫さんどうしたの〜」


他の人も声をかけてくる。


「なんで泣いてんの、都大会でビリじゃないとかそれだけで最高じゃん!」

「すごい速かったよ!」

「ありがとう……」


みんなの言葉で、わたしは少しだけ笑顔になれた。

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