㉕100メートルハードル
都大会2日目。
今日の1年女子100メートルハードルに出場するわたしは、荷物を唯香にたくし、もうアップを始めていた。
15分くらい走り続け、体が暖まってから準備体操を始める。
まだ競技が始まる前だから、ホームストレート側もアップに使える。
タータンに行ってからドリルをやろう。
みんながブルーシートをひいているところに行き、スパイクなど必要なものを持って立ち上がった。
「頑張ってね!」
「うん!」
「また戻って来る?」
「うん、戻って来るよ〜」
「いってらっしゃい」
「いってきまーす」
唯香や若菜と言葉を交わし、階段を下りて裏側にまわり、タータンに足を踏み入れた。
そこにはたくさんの人がいたけど、M中の人はいなかった。
スキップからドリルを始める。
隣の6,7,8レーンにはハードルが並んでいて、他のハードルの選手がすさまじい勢いで跳んで行く。
連陸の時とは比べ物にならないほど、スピードが速い。
そして、みんな跳び方があり得ないくらいにキレイだった。
M中には、祐梨子先輩というハードルがとても速い先輩がいる。
その祐梨子先輩のハードルの跳び方はキレイすぎるといつも思っていたけど、ここにいる人は全員祐梨子先輩と同じような跳び方をしてる……。
一通りドリルを終えると、荷物を置いていたところに戻り、ジャージを脱いで靴も脱いでスパイクを履いた。
数本流しをして、スタート練・ハードル練に入る。
あ、祐梨子先輩だ!
今日女子3年YHに出場する祐梨子先輩も、ハードルの練習をしていた。
ああ、やっぱり速いなぁ。
都大会で入賞とかもしてる祐梨子先輩。M中のエースだ。
スタート練を終えると、青いタータンに体を向け、雨に濡れながら呼吸を整えた。
大丈夫、落ち着いて……。
スパイクを脱いでユニフォームに着替え、みんなのところに向かった。
「お疲れ〜!」
うう、みんな楽しそうだな……! あったかそうだし。
座って荷物の整理をすると、また立ち上がった。
「もう招集?」
「うん、もう招集」
「頑張ってね!」
「ファイト!!」
「うん!」
笑顔で大きくうなずき、階段を下りて招集場所に向かった。
うわあ、すごい人数……。
連陸の時とはまるで違う緊張感。
出場人数も連陸の4倍以上はいる。
ハードルの練習時間が終わり、ハードルが片付けられた。
ああ、もうそろそろ始まっちゃうんだ……。
「頑張ってね!」
トン、と肩に手を置かれて顔を上げると、そこには笑顔の祐梨子先輩がいた。
「はい!」
祐梨子先輩だって、わたしに入賞しろとかそんなことは望んでない。
でも、精一杯走り、自己ベストを更新する。それならわたしにも出来るはずだ。
予選3組目が準備し始めたところで、上に着ていた体操着のズボンとジャージを脱いだ。
「姫さん!」
「明日ちゃん!」
呼ばれて振り返ると、そこには真樹と唯香がいた。
「頑張ってね!!」
「うん!」
2人はわたしの荷物をゴール地点へ運びに来てくれたんだ。
ヤバい、もう4組目が走り始めた……。
「はい、5組目の人入って〜」
右腰に腰ナンバーがついていることを確認し、青いタータンに足を踏み入れた。
これは最後の都大会かもしれない。
悔いを残すわけにはいかない。
軽くピョンピョンと跳びはねる。
スタブロの準備に取り掛かり、震える手でセットした。
寒い、寒すぎる……。
1度だけのスタブロとハードル練。
白い線のフチに置かれた手は、少し震えていた。
On Your Marks Set
心の中で唱え、走り出す。
ああ、ヤバい。どうしよ。寒すぎて体が震える……。
スタート地点まで戻ると、深呼吸した。
予選は選手紹介がない。だから、すぐにスタートになる。
「On Your Marks」
白い線を見つめた。
「Set」
腰を上げる。
「バン!」
無我夢中で走る。
なんでも良い、悔いのないように走るんだ……!
踏み切る。ああ、寒い。体が震えているのが分かる。
最終ハードルを飛び越えて全速力で走り、上半身を少し出すようにしてゴールする。
一礼し、震える手で腰ナンバーを外して電光掲示板を見上げる。
わたしのタイムは、16,55……。
「お疲れ様。ほら、早くこれ着て」
真樹と唯香がそこで待ってくれていた。
寒さで体が震え、うまく服が着れない。
そして、自己ベストが出なかったこと、思うように走れなかったことに対する悔しさがこみ上げてきた。




