⑪本気
「ただいま」
望亜、葵、萌乃、宇宙と別れて家についた。
1人でいても、高守のことがわたしの頭の中を占領している……。
「お帰り」
2階にあがると、お母さんが夜ご飯を作っていた。
「明日ちゃん手伝って」
「はーい」
荷物を置き、着替え、手を洗ってキッチンに行く。
「今も膝痛いの?」
「うん、痛いよ」
いきなりどうしたのかな?
突然の質問に、戸惑いながらも答える。
「もうテニス部じゃなくて、陸上部に入りなよ」
「え! なんで!」
「テニスは危険でしょ」
「そんなことない!」
「あなたはただでさえケガしやすいんだから。テニス部に入って、何回ケガした?」
「5月に腰強打、7月に足首捻挫、8月にテニスボールで目を強打……3回」
「明日ちゃんは、これからも絶対ケガする。そんなにケガしたら、先生も迷惑でしょ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「テニス部よりも陸上部のほうがケガは少ない」
「何言ったって、陸上部には入んないよ!」
感情が高ぶってしまった。
「わたしは、テニスがやりたくてテニス部に入ったの。陸上部になんて入る気ないから」
「なんで? 足速いし、良いじゃない」
「イヤだよ。中長距離やんなきゃいけなくなるし、好きなのは短距離だけだから」
「……」
「とにかく、テニス部以外の部活に入る気ないからね」
そう言いながら、ご飯を盛る。
テニス部に入った自分を否定されたようで、とても悔しかった。
小学生のころ、お母さんにテニス部に入ってはいけないと言われた。ケガをするから、危ないから。
だから、1度テニスをあきらめた。
その時は、陸上部に入ろうと思った。陸上部に入って、走り幅跳びか走り高跳びをやろうと。
でも、やっぱりどうしてもテニス部に入りたくて、お父さんとお姉ちゃんも味方になってくれて、お願いして、やっと許してくれた。
やっとの思いでテニス部に入ったのに、今さら転部なんて……絶対イヤだ。
それに、今から陸上部に行ったところで、専門は短距離かハードルにさせられると思う。
先生の勧誘の仕方や誘うタイミングから分かる、絶対にそうだから。
「……じゃあ、ケガしないようにして」
「うん、分かった」
これって、お母さんもテニス部を認めてくれたってことだよね。
テニス部以外の部活に入る気はない。
これは本当のことだし、本気。
わたしは、テニスが本当に大好きになっていた。
そして、走ることの楽しさが、前よりも感じられなくなってきていた。
わたしが好きなのは、短距離を少しだけ走ることだけ。
ダイニングテーブルの横で、スタンディングスタートの姿勢をとる。
前、後ろ、前、後ろ……。
リズムに乗って、勢いよく。
後ろ足の左足をすっと前に出し、右足で思いっ切り床をける。
このスタートダッシュの仕方が、1番好きだ。
リビングの端まで走り、急停止した。
「スタートダッシュうまくなったね」
「うん」
陸上部で初めてクラウチングスタートをやった時。
「On Your Marks Set」の合図に慣れなくて、戸惑ったなぁ。
しかも、陸上部の人は1礼してからスタート姿勢になるし。
慣れないことだらけだった陸上部。
でも、あと1週間たったら、もう陸上部に行くことはない。
スパイクを履いてタータンで走ることも、もうないかもしれない。
2年生で連陸に出れる保証も、何もない。
大好きな短距離を、本気でやれるのは、今年が最後だけかもしれないんだ。
陸上部には入りたくないけど、でも、やっぱり、陸上は好きだ。
リーダーとして出れる、貴重な連陸。
やっぱり……やっぱり……本気で頑張りたい!




