⑩心配
「あれ? 試合用のボールがないぞ?」
「あれ、ホントだ」
ミーティングを始めようと並んだ時、先生はボールがないことに気づいた。
「誰か外コート見てきて」
「あ、わたし行って来ます!」
左足で、少し勢いをつけて走り出す。
ああ、やっぱり気持ち良い! 速く走るって、ホントに楽しいな。
「うわ!」
「うわあ!」
外コートの小屋のカギを閉めてきた高守と、曲がり角のところでぶつかってしまった。
「ごめん! 大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
そう言い残して、わたしはまた走り始めた。
気のせいか、少し体が熱くなっている気がする。
なんで高守のことなんて意識してるんだろう。
触れた肩と肩。
ぶつかった後に、目が合った瞬間。
ああ〜、何意識してるんだ、わたしは!
高守のこと好きじゃないくせに。自分が誰を好きなのか、自分でよく分かってるはずなのに。
告白されたってだけで、こんなに意識しちゃうなんて……。
中学校に入学してから、告白されるのは2回目だ。
前回は、こんなに意識するってこと、なかったのに……。
高守だから? いつもわたしのこと気にかけてくれてたから? 運動神経良くてかっこいいって憧れてたから?
ボールを持って中庭に戻っても、そのナゾは解けないままだった。
「姫さん大丈夫? 今日なんかおかしいよ?」
一緒に帰っていると、葵が聞いてきた。
元K小で家の方向が同じ萌乃、桐村宇宙と元H小で元K小の人の通学路を通る葵、引っ越してきた望亜とはいつも一緒に帰っている。
「え、別に何もおかしくないよ」
「そう? なんか考え事してる感じ」
「いや、特に何もないって」
告白されたってことなんて、他の人に言う必要ない。
言ったところで何のメリットもないし、高守もイヤだろうし。
「悩み事があったらすぐ言うんだよ!」
「そうだぞ、明日奈。オレ達を信用しろ!」
「あはは、ありがと」
わたしの周りには、こんなに良い仲間がいるんだ。
この人達に心配かけちゃうのは、絶対イヤだな。
「とりあえず今は何もないから。大丈夫!」
「そう」
ああ、高守になんて言えば良いんだろう?
返事待ってるって……。
でも、高守は、わたしが陵河のこと好きって気づいてた。
フラれることは分かってるのに、返事待ってるって言えるなんて……。
高守の勇気に、わたしの胸は押しつぶされそうだった。
高守のことを好きなのは事実だ。
でも、この感情は、友達としてだから。
陵河みたいには思えないから。
わたしはなんで、陵河のことが好きなんだろう。
高守のことを好きになれれば、すごく幸せなのに。
なぜ陵河の存在は、これほどまでにわたしにとって大きなものなんだろう。




