ハッピーエンド
「別れよう。」
雪と桜がともに舞う、異常で神秘的な風景を眺めながら告げる。その言葉は私の声じゃないかのように聞こえた。
「え?」
私の背後に立っていた彼が、驚いたような声を上げる。
「私たち、もう終わりにしようよ。」
そう言いながら、ゆっくりと彼の方に振り返り、頭一つ分上にある、彼の顔を見上げる。彼はなぜ?という感情と、いやだ、という感情がない交ぜになったような表情をしていた。
「私ね、やっぱり、君とは幸せになれないと思うんだ。」
そんなことを私の口は紡ぐ。嘘。どんなに離れていても、どんなに会えなくても。気持ちは変わらないのに。
「なんで?」
彼は私に問う。ひどく戸惑った、それでいて辛そうな顔で。
「それは…飽きたからよ。」
また私は嘘を重ねる。本当は、自分の奥底ではあなたを愛しているのに。そんな想い、握りつぶして。
「飽きたって…ひどいじゃないか!」
そう、私はひどい。訳も話さず飽きたから、なんて言ってあなたを突き放す。
「どうしてそんな勝手なんだ。」
彼は私を責め立てる。
「ごめん…」
思わず気弱な声が出る。でも、それじゃあダメだ。彼を、突き放さなければ。気弱な様子を見て、どうやら彼は私が泣いているのではないか、なんて思っているようだ。
「でももう、君とはいられないや。」
クスリ、と私は笑ってみる。すると、彼はショックを受けた顔をしながらも、私が泣いてないことに安堵を覚えているようだった。本当に…単純で、バカで。相変わらず呑気だな。
「…」
さっきの台詞に対して、彼はどう返すべきか決めあぐねているようだ。
ねぇ、初めて勇気を出した君が電話をくれたあの夜と、あの夜の私と。何が違うのかな。ううん、本当はわかってる。何もかも…違う。あれから何年も経った。あの頃は学生で、今は社会人。身長も、お互いに関する感情も。全て。
「私ね。もう、君に飽きたしさー。正直マンネリ化してたの。」
いつも君といる日々は刺激的で、幸せだった。一人にしないよ。っていう、正直いうとありきたりな感じの言葉も、君が言うからときめいたし、頼もしく感じた。そんな真実も、言えやしない。
次の言葉はどこだろう。そう言って探すけれど、見つかるのは、あなたに対する愛の言葉だけ。
「なんで…どうして…」
彼はまだ、事態が飲み込めていないようだ。
「だから、何度も言ってるでしょ?飽きたって。新しい刺激が欲しいんだ。」
自分でも嫌味だなって思うような笑みを作って彼に言う。彼は、やはり愕然としたような表情をしつつも、絶対説得してやる、なんて考えていた。この世界のためにも、それはダメなことなのに。
「嫌だ。俺はまだ…君が好きだ。」
キリッとした真面目な顔でそんなことを言うもんだから、思わず頰が緩みそうになるではないか。
「どちらか一方からの想いじゃ…いつか歪みが生まれるよ。」
私は目を伏せつつそう告げる。彼はまだ、言葉を探しているようだ。
「ねぇ、今すぐに抱きしめて…離さないで…。」
彼を傷つけるために、本心をこぼす。彼は驚いたように目を剥くと、動き出そうとする。
「嘘だよ。サヨナラ。」
クスッと最後に笑いを残し、私は歩く。桜並木の道の向こうへ。彼は引きとめないし、ついてこない。本当に今すぐに抱きしめて、私がいれば他に何もいらないと囁いて、離さないでくれたらどんなに良かったか。しかしそれは勝手で、すぎた願い。
だって、あのまま二人一緒にいたら、歪みは、大きなものになってた。でも、彼はそれを知らないし、世間一般からすればこっぴどく彼奴を捨てた女なのだろう。私は。私と彼は、出会っちゃいけなかったんだ。そう、私からの手紙に書いてあった。未来に自分からの手紙。それだけで信じられないのに、そんな事実が書いてあった。何故かその手紙は自分からのものだって、信じれてしまったんだ。ちなみに私と彼があのまま付き合い続けていると、起こってない出来事が起きてたり、起きてた出来事が起こらなかったりするらしい。過去にも干渉できる彼の存在ってなんだろうね?
そうやって考えながら、しばらく歩くと、自然と涙が溢れてくる。「うっ…ううっ…」思わず立ち止まり、涙を手で拭う「止まって、止まってよ…」そんな風に言いながら、いくら拭っても、太陽にあたり輝く、雫は私の目から溢れ出してくる。通行人はいるけれど、誰もこんな憐れな女に話しかけてくる人なんていない。彼はそうだったけど…。そこまで思い出したところで、また涙が溢れ出す。私はもう、通行人の視線も痛くなり、居たたまれなくなったので、歩みを進める。自分の、自宅へ。
自宅に着く頃にはもう、涙はとっくに枯れていた。そして、玄関の扉に手をかけ「愛してるよ。」と言えなかった彼への想いをつぶやき…今日の自分にサヨナラをした。
閲覧、ありがとうございました。
自分にはなかなかできなさそうな経験だなー、なんて考えながら執筆をしてました。
非常に筆不精ですが、気が向いたらまた見てやってください。