第七話
手持ちぶさたからか貴文美は紅茶を入れる。
アールグレイの良い香りが部屋に満たされた。
マグカップをりかに渡し、
「はい、温まるよ。りかさんも飲んで・・・」
りかは一口啜ると、
「あっ、美味しい」
「でしょ?先ぱいのお土産なんだ。何でも日本にはまだ入ってないブランドの紅茶なんだって。これなんだけど」
りかが紅茶の缶を受け取ると、黒地に溶けたゴシック体で“Nicks”と書いてあった。
「ニックスかぁ、初めて聞いたわ。でも、美味しいわよ。この紅茶」
貴文美は先輩のお土産を喜んでもらったのが余程嬉しいのか、
「りかさん、お腹空かない?ボクが作った野菜ゴロゴロシチュー美味しいんだけど」
りかは紅茶を飲み干すと、ニッコリ微笑み、
「せっかくだから、ご馳走になろっか」
りかと貴文美はちゃぶ台に向かい合わせに座り、話をしながら貴文美特製の野菜ゴロゴロシチューを食べている。
小町はりかの横で安心したのか眠っていた。
野菜の素朴な味が美味しい。
貴文美がすまなさそうに、
「ゴメンね、りかさん。ホントに野菜しか入ってなくって」
事実、シチューは野菜しか入っておらず、具材はじゃがいも、玉ねぎ、かぼちゃ、ニンジン、ヒヨコ豆位だった。
りかは気にする事もなく、
「あら、私は好きよ、貴文美ちゃんの味。調和が取れてて美味しい」
「そう?ならいいや」
貴文美は照れる。
丁度、一皿食べあげた頃、りかが疑問を口にした。
「気を悪くしたら、ゴメンね。貴文美ちゃんご両親は?」
「二人ともいない。亡くなったの。母さんは元々病弱だったから、ボクを産んでスグ。父さんはボクが10歳の時に事故に巻き込まれて・・・。それからは、ボクとゴローの二人っきり。あと、たまに父さんの友だちのお医者さんが様子を見に来てくれるの」
りかは驚き、
「寂しくない?貴文美ちゃん」
「寂しくないと言ったら嘘になるけど、学校に戻れば友だちがいるし。離れていても気に掛けてくれる先ぱいも沢山いるから」
そう言って、貴文美は首を横に振った。
刹那、小屋の扉で犬の吠える声が聞こえる。
ゴローが帰ってきたのだ。