第六話
「てかさ、貴文美ちゃん、何で又また大阪の高校へ?ここ長野でしょ?」
貴文美は恥ずかしそうに、
「そだね。ボク、特待生枠で入れてもらってるから・・・。元々、高校行く予定無かったし。特待生だと、授業料免除で寮費も要らないから。見ての通りボクん家、ビンボーだし」
りかが周りを見渡すと、確かに生活臭のするモノと言えば、りかが寝かされていた板間の上のちゃぶ台位だろうか。
ハッと気づく。
《この部屋、電気が無い》
部屋の中は粗末なランタンと暖炉の光だけで満たされていたが、それでも暖かかった。
りかは立ち上がりながら、
「そろそろ失礼するわ。旅館も心配してるだろうし・・・」
すると貴文美は首を横にふり、残念そうに、
「今はやめた方がいいよ。吹雪いてるし・・・」
そう言って指差した窓は、かなり激しい雪が降っていた。
「だから、ゴローに手紙持って行ってもらうから、これに明日帰ると書いて」
貴文美はノートペンを差し出す。
りかは驚き、
「ゴローって、あの小町の傍にいるワンちゃんよね?大丈夫?」
貴文美は自慢そうに、
「うん。ゴローなら一時間で帰ってくるよ。ね、ゴロー?」
貴文美の問い掛けにゴローは任せろと元気よくワンと吠えた。
りかは肩をすくめると更々と走り書きで、明日帰るから心配しなくて大丈夫です。と書いた。
貴文美はゴローを呼び寄せると、ノートをビリッと破り首輪に巻き付け、更にバンダナで巻く。
「これで大丈夫。お姉さん、泊まってる旅館名は?」
「水明館だったと思うわ」
貴文美は頷き、ゴローを抱き寄せると耳元で、
「ゴロー、街の郵便局の隣の水明館迄まで行って、この手紙渡してきてね。任せたよ」
もう一度、ゴローをハグして、扉を開けた。
雪は激しくなり、数メートル先も見えない。
貴文美の行っておいでの掛け声で、ゴローは雪の山中へ駆け出して行った。
りかは感心して、
「へぇー、凄いね、。貴文美ちゃん。よく躾てあるのね」
貴文美は首を横に振り、
「躾てなんかない。お互いに気持ちが理解るから、ボクとゴロー」