第五話
暖炉の火が暖かい。
りかは子供の工房らしき場所の板間の上で、ブランケットを掛けてもらい眠っていた。
傍らには小町も寝息を立てて眠っている。
小町の体には包帯が巻かれていた。
黄金色の犬は心配そうに小町を見詰め、時折額を舐める。
「ゴロー、もうそのワンちゃんは大丈夫だよ」
黄金色の犬は、ゴローと言うらしい。
嬉しそうに数度鳴いた。
ゴローの鳴き声で、今度はりかがうとうととして、
「うっ、ううん。もう少し寝かせて・・・、小町・・・」
仕事の疲れが溜まっているのだろうか。
「ゆっくり寝てたらいいよ、お姉さん」
少年と思わしき子供の声にハッと目を覚まし、身体をりかは起こす。
「ここ、何処?」
「ここはボクのアトリエ。山の中の」
りかがガラス窓を見ると、雪深い山中である事は判断った。
真っ白で見事な雪景色が広がっているからだ。
りかは自身が古びたジャージを着せられてる事を確認し、
「私の裸見た?」
少年?に問い掛ける。
子供とはいえ、襲おうとすれば襲えるからだ。
少年?はコクンと頷き、
「濡れたバスタオルのままだと風邪引くし、凍傷にもなっちゃう。だから・・・」
りかは反論し、
「だからって、人が気を失っているのに、裸を見るってどうなの?これでも嫁入り前なんだからね、一応。助けてもらったのは、ありがたかったけど・・・」
りかは熊から助けてもらった事を、思い出した様だ。
愛犬の事を心配し、
「そういえば、こ、小町は?」
「小町?あぁ、あの雌のワンちゃんね。そこ」
少年?の指差した先に包帯を体に巻き付けた小町が、黄金色の犬からドッグフードを分けてもらって食べてるのが見えた。
りかは安心して、
「よかった。小町の怪我診てくれたの?ボク?」
少年?は頷く。
「危なかったけど、もう大丈夫。けど、街に戻ったら、念のため獣医さんには連れて行った方がいいよ。あっ、それから、こう見えてボクは女の子なんだけど」
少年?は着ているトレーナーの襟元から、チラリとブラジャーの端を見せた。
「だから、女性の裸見ても何とも」
いたずらに答えた。
りかは驚き、
「ごめんね。とってもショートカットだし、線も細いから、てっきりカワイイ男の子だと。私は藤城りか。今は大阪に住んでるシンガーソングライター。ラジオのDJやテレビのレポーターもするのよ」
そっと右手を差し出した。
ボクっ子の少女は手を握り返し、
「ボクは貴文美。雲雀丘貴文美。こう見えても、18才の高校3年生。よろしく」
元々、貴文美は極度の人見知りではあるが、良好な高校生活が彼女を人並みの対応が出来る人間に変えていた。
貴文美はちょっと、オドオドして、
「お姉さん、大阪って言ってたよね。河内長原の“聖クリ”って知ってる?」
「もちろん、私のマンションから見えるか・・・、らっ。
えーーーーっ!貴文美ちゃん、もしかして“聖クリ”生徒なの?」
りかは熊に出会った以上に驚いた。