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小町  作者: こころ龍之介
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第四話

りかはキャァーーーと叫び、自信を抱くと湯の中で後ずさった。

逃げ場は無い。

りかと母熊との距離は10メートル程、丁度湯船の縁で小町が相変わらず吠えている。

《逃げなきゃ・・・》

そう思うが、足がすくんで一歩も動けない。

母熊はその場の空気を嗅ぐと、無慈悲にりかに対し右足を出した。

刹那、母熊目掛けて飛び掛かる小町をりかは見る。

首元に噛みついた小町は、さながら猟犬の様だ。

流石は忍犬(にんけん)の血筋を引く犬である。

熊の首にうっすらと血が滲む。

牙の痛みに耐え兼ねて、母熊は首を振り小町を引き離そうとする。

四度五度と首を振る内に小町の顎門(あぎと)が外れ、近くの杉の幹に飛ばされた。

小町はぶつかる直前にクルリと回転し、幹を踏み台に更に母熊に襲い掛かる。

その時悲劇は起こった。

母熊が尖った爪が出ている右腕をタイミングよく振り下ろす。

小町は瞬時に逃げようとするが、背中を向けるのが精一杯で。

重たい殴打音、そして、痛々しい魂の叫び。

小町は湯船の中に弾き飛ばされた。

小町の背中から血が溢れ、乳白色のお湯が紅く濁る。

りかは足のすくみ等忘れ、小町を抱き抱えると、

「小町っ!ああっ、こんなに血がっ・・・。助けて。誰か小町を助けてっ!誰かっ!」

森の奥での叫び声は、誰にも声は届かない。


はずだった・・・。

りかが絶望を感じ諦めと死を覚悟した時、目の前に黄金色の毛並みを持った大型の柴犬が飛び込んできた。

《えっ?ウソ・・・?雪丸?ううん、違う。だって雪丸は白いもの・・・、だったらこの()は?》

黄金色の犬の唸りと気迫に、母熊は少し怯んだ。


恐れと怯えが入り交じる中、りかは何処からか聞こえて来る優しく柔らかい神の声を聞いた。


モウダイジョウブ。


《えっ?》

りかが母熊に目をやると、色の濃いいオーバーオールに、フワッとした厚手の白いパーカーを着た子供が立っていた。

思わず洩らす。

「危ない!」

子供は首を横に振り。

「このお母さんは、子供に与えるおっぱいが出なくって、餌を求めて冬眠から覚めただけ。元々はそんなに怖い熊さんじゃないよ」

子供は背負っていたリュックサックから、野菜や茸を取り出すと母熊に差し出した。

「お食べ」

熊は四つん場になると、クゥーンと鳴いて頭を子供に擦り付け大事そうに野菜を食べる。

りかは安心したのか唖然とし、、目を(まある)く見開くと気を失ってしまった。

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