第三話
「あぁ、いいお湯・・・」
りかは脱いだ衣服の番を小町にさせて、温泉に浸かっていた。
全裸で入りたい処ではあったが、番組収録同様、バスタオルを巻き付けている。
勿論、許可等は取っていない。
只、誰が来てもいい様に対応が出来る為だ。
秘湯は乳白色をしており、身体に染み入るのが心地良かった。
傍らでは、日本猿の親子も気持ち良さげに温泉に浸かっている。
《うふっ、本当に秘湯なのね、此処は。後でディレクターに提案してみようかな?サルも入りに来る天然露天風呂の秘湯がある。って・・・》
「小町もそう思う?」
小町は可愛らしくワンと吠え温泉に飛び込む。
水飛沫をあげるとりかの元へ泳いで来た。
りかは小町の頭を撫でてやり、
「あらあら、小町は教えて無いのに泳げるんだ。傍で待ってるのも退屈だもんね。夏になったら、奄美か沖縄でも一緒に行こうか?」
小町が首を縦に振り、笑った気がした。
「小町は、人の言葉が分かるのかな?」
りかの問い掛けに、小町はクゥーンと鳴き頭を擦り付けた。
《かわいいコ、お前を飼って良かったわ》
りかは小町を抱きしめる。
事実、りかはこのロケ以降、小町によく話し掛ける様になり、小町も応じる様になった。
暫く穏やかな時が流れた頃、温泉に浸かっている猿がソワソワしだす。
森の奥で枝が折れる微かな音を聞くと、子猿を抱き抱え音のする方とは真逆に逃げて行ってしまった。
りかは驚き、
「誰か来たのかな?バスタオル巻いてるから安心なんだけ・・・」
全てを言い終わる前に、小町が温泉から飛び出し、ブワッと体を振るい湯を弾くと音のする方に牙を剥いて唸り声をあげ始めた。
今まで小町の穏やかな表情しか知らないりかは、
「えっ?何?小町どうしたの?」
動揺を隠せない。
近付く音は徐々ではあるが確実に大きくなる。
小町は唸り声処か、終には吠え出した。
「誰?」
問い掛けるが返事は無い。
りかは獣の匂いを嗅いだ気がした。
刹那、手前の枝が積もった雪ごと薙ぎ倒され、現れたのは冬眠から覚めたのであろう2メートル近くある雌の月ノ輪熊。
傍らには腹を空かせた小熊が二頭。
りかは“死”を覚悟した。