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プリマヴェーラ  作者: 夏木潤
とある兵士の苦難
7/8

2.とある兵士の苦難

 二、


 シオンが狼を撃ち殺し、幌馬車は森を抜けた。兵士たちの安堵の声が聞こえ、俺は羊とリオを抱く腕の力を緩めた。


「サトー…?」


 腕の中のリオの目が覚めたようだ。

「あぁ、リオ。おはよう」

「おはよう………どこ、ここ」

「馬車の中だ」

「…ばしゃ…?………馬車!?」

 リオは俺の腕から飛び起きて、辺りを見回す。それに驚いた兵士たちの視線は一斉にリオへと向けられた。

「なんで馬車に乗ってんの!」

「なんでって、お前、泣きながら走って来ただろ」

「そんなことしてな……」

 リオは、だんだん思い出してきたようで、その場に座り込んだ。恥ずかしい、と呟いて両手で顔を覆う。羊はそんなリオへと近づき、俺を責めるようにメェメェと騒がしく鳴いた。

「なんだよ、一緒に行きたかったんじゃないのかよ」

「そのつもりだったけど!」

 泣くはずじゃなかったんだよ、と口の中でもごもご言って、羊に抱きついて動かなくなる。昔から、都合が悪くなったり、恥ずかしくなると、こうやって不貞腐れるのだ。

 かわいいなぁ、と思いながら、ぽんぽん、と頭を撫でる。

「馬鹿にすんな、馬鹿……」

「ごめんって」

 リオはチラリ、とこちらを見て、ありがとう、と呟いた。

 あぁ、かわいい!

 抱きつこうと両腕を伸ばしたとき、


「はぁーい、そこまで〜」


 と、シオンが俺とリオの間に入り込み制す。

「なんだ、邪魔だ」

「お二人とも、仲良くするのは良きことですが、ここは公共の場ですよ、(わきま)えてくださーい」

 シオンがそう言うと、リオは周りを見て顔を真っ赤にさせ、また羊に顔を埋めた。

「男同士で恥ずかしいもなにもないだろ」

 俺はシオンの肩を掴み、退かせようとするが、逆に両肩を掴まれて、

「あの〜、そのことなんだけれどね、この子、男の子じゃなくて……」


「今、なんて?」


 リオがシオンの肩越しに話しかけて来た。

「男同士?誰と誰が。」

 なんだろう、物凄く機嫌が悪い。

「いや、だから、リオと俺が男同士で……」

 言い終わる前に、リオの拳が鼻に直撃した。ワァォ、とシオンが口笛を鳴らした。俺は打たれた鼻を押さえながら、リオを見る。リオは耳まで赤くして、涙を浮かべ、叫ぶように言った。


「僕、女なんだけど!」



それから後、幌馬車の中では他の兵士から馬鹿にされ、リオは口をきいてくれなかった。最悪だ。

王都に着いてからも、リオはシオンの隣を歩く。リオの人見知りにシオンのフレンドリーな勢いは合わないと思っていたが、そうでもないようだ。

「リオちゃん、17歳なんだ〜。同い年かと思ってた」

「女にしては背が高いし、髪も短いから、そう見えるのかも。」

「大人っぽいんだね〜、今度さ、町の案内したげよっか!」

「いいんですか!」

和気あいあいとする二人の背中を見ながら、ため息をつく。リオに殴られた鼻からは鼻血が出て、まだ完全に止まってない。口に嫌な鉄の味が広がる。

「お前は俺の味方か?」

足元をトコトコあるく羊に話しかけてみたが、メェ、とひと泣きして、リオの隣を歩き始めた。

あぁ、味方がだれもいない。



□□□



背後から溜息が聞こえた。

サトーも反省しているのだろう。俺は、隣を歩くリオちゃんを見る。確かに、外見は男の子っぽいが、やっぱり女の子だ。なんで、幼馴染は勘違いしていたのか。馬鹿なのか。

「シオンさん…」

「な〜に?」

「僕って、そんなに男に見えますか?」

"僕"という一人称に違和感を感じながら、そんなことないけどなー、と笑って返す。すると、そうですか……、と納得してないように返事をして、俺とリオちゃんの間には無言が続いた。こういう、繊細なところも女の子らしのに……。なんて考えながら、後ろを振り返ると、サトーと目があった。俺がふざけてウィンクすると、今にも殺しにかかるような目つきでこちらをにらむ。堅物の鈍ちんだなぁ〜。俺は、これから先がとても楽しみになった。





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