プロローグ
ここは季節廻る国。
北はなだらかな山脈と羊飼いの村。
南は入り組んだ湾と漁師たちの村。
西は深い森と女神の泉と狩人の村。
東は真っ白な煉瓦のお城と商人の街。
そして、国の真ん中に、黒い鉄柵で囲まれた塔があります。
そこには、季節を廻らす女王が暮らします。
命芽ぶく春には、春の女王。
命紡ぐ夏には、夏の女王。
命帯びる秋には、秋の女王。
命微睡む冬には、冬の女王。
4人の女王は、一年の四分の一を塔の中で暮らします。彼女たちは、長い間、季節を巡らせてきました。何年も何百年も、国の人を眺め、命を廻らせ、幸せを感じて生きています。
そして、今年も長く続いた循環のように季節は廻るはずでした。
冬の女王は塔から出てきません。
春の女王も塔へと向かいません。
季節廻る国は冬のまま、命を芽ぶくこともありません。
いつしか、冬を越すための食糧も火を起こすための薪も底をつきかけてしまいました。
季節廻る国王はおっしゃいました。
冬の女王を塔から連れ出し、春の女王を塔へと導け。ただし、冬が廻ることがなくなるようなことがないように。成功した者にはいかなる願いも聞き入れよう。
と。
羊飼いも漁師も狩人も商人も、こぞって塔へと向かいました。
しかし、黒い鉄柵は誰も寄せ付けず、しまいに鉄柵は触れたものすべてを凍らせるほど冷たく、恐ろしいものになりました。
季節を廻るおはなしは、ここからはじまるのでございます。