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第一章 「はじめまして!」

第一章「はじめまして!」


 春の嵐が近づく三月上旬。ショッピングモールがオープンしてから早一年が経とうとする今日この頃、気が付けば最初に陳列された最古参のメンバーは「ポチとハチ」の二人だけになっていた。

それもそのはず。何せ、この二人だけは何故か人間臭いのだ。お客さん達からは不思議と目があってしまって取りづらいとアンケートに書かれたこともあるくらいに。


 ポチとハチの出会いはショッピングモールがオープンする一週間前に遡る。

「ホエアーアーユーフロム? チャイナ? ベトナム?」

・・・・・・・ポチは国際派なのか、初対面は決まって英語で話しかける。

決して流暢な英語ではなく、今時の小学生でも話せるレベルのスピーキング力で。

「あ、え~っと、あ~い~に、にっぽん!」

・・・・・・・ハチの音にならないような発話が偶然英語での回答になった。

「あ!よかった~日本語通じる!」

ポチの表情は和らぎ、流暢な日本語が続く。

「あの~もしかして、僕って今ゲームセンターに居ます?」

「工場から出るときに突然目の前が真っ暗になったところまでは覚えているんですが、ここに至るまでの途中の記憶が無いもんで。」

ポチの流暢な日本語を聞き、ハチは表情が明るくなった。

「いえ、記憶と言われましても、私さっきまで主人の帰りを腹ペコになりながら待っていたもので。世間では、流石は忠犬!って騒ぐものですから、つい嬉しくて調子に乗っていたら、いつの間にか眠ってしまって・・・・・・」

「確かに、おっしゃる通りかと思います。ここは”ゲームセンター”というところなんですね。すみません、私も眠ってしまってからはどうしてここにいるのか思い出せません。」

突然の事ながら置かれた状況は二人とも理解出来ているが、どうしてここにいるのかは分からず、思い出せないようだ。

 そんなことをお互い理解したのもつかの間、ポチが初対面で見せる社会人のルーティンワークを始めた。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。申し遅れてすみません。私はこういうものでして・・・・・・って、あれ?名刺がないぞ?それに、な、なんだこれ!!」

ポチが目を丸くして、自身の首から下をくまなく観察する。

「どうされたんですか?立派に四本脚がありますよ?」

「えぇ!?手足で併せて四本ならわかりますよ、立派に四本”脚”ってテーブルか何かですか!?」

ハチが驚き再び状況が分からなくなったその瞬間、照明が減光されていき、次第に目の前にガラスの板が存在していることに気が付く。そしてハチは自分の顔を見てこう呟いた。

「母さん、僕、犬になってるよ・・・・・・」

今にも泣き出しそうな声でポチは続ける。

「これまで学校も仕事も頑張ってきたのに・・・・・・犬になっちゃったよ。」

ポチの視線は自然と下向きになり、ここで新たな発見をする。

「あれ?貴方は犬になってしまったのに驚かないんですか?」

ハチは犬の恰好になっているが、先ほどから全く驚いていない。

「驚くも何も、私は犬ですから。」

なんとも普通な返答にポチはハチが状況を100%理解しているのか、はたまた世間でいうところの天然ちゃんボケなのか、確証はないが恐らくは後者であると踏んだ。

「先ほど主人の帰りを待っていたと、おっしゃっていましたよね!? それって、もしかして貴方はかの有名な”忠犬ハチ公様”なのでありますか!?」

天然ボケには天然ボケをと言わんばかりにポチは切り出した。

「中堅と言われれば、確かにそうかもしれませんね。一応今年で7歳なので。ですが、私はそんなに有名なのですか?」

(”中堅”ってそっちぃ~!?) 

思わずポチの心の中のリアクションが具現化しそうになりつつも、冷静に続ける。

「えぇ、え~っと詳しいことは自分もあんまり知らないんですが、結構有名だと思いますよ。」

「あら、それはとても光栄です。まさか、主人の帰りを待って一緒に帰る途中にいつも寄った駄菓子屋のみたらし団子がまた食べたくて、帰りを今か今かと待っていただけですのに。」

ハチは少し照れくさそうな表情であっさりと世間一般に伝わる美談をねじ曲げてしまった。

 ポチはどうやらハチがもともと犬であった事には疑う余地はないと考え、自分が特殊なのだと信じむことで、目の前のガラスに映る自分に納得した。

深呼吸をしてハチに向かって話しかけた。

「なんだか、まだいろいろと分からないことはありますが、改めて自己紹介させてください。」

「はじめまして!」

ポチが飛び込みの営業マンの様に、元気よく自己紹介を始めた矢先のことである。

「こちらこそ、はじめまして。私はハチと申します。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。ポチさん!」

・・・・・・全く持ってお構いなしにハチが自己紹介を被せ、先手を取ってしまった。確かに「犬」としてのキャリアはハチの方が長い。それは忠犬ハチ公だけに間違いない。付け加えて言うなれば、ポチは自分の名前を名乗ることなく気が付けば「ポチ」という名前を先輩から授かった瞬間であった。

「ポチ・・・・・・はい、私はポチと申します!」

(まぁ、確かにこんな境遇は自分一人ぼっちだし、あながち間違いではないな、一人ポッチ、ポチ・・・・・・良い名前じゃないか!)

ポチは自分自身が人間から犬に変わってしまったことに驚き落胆を隠せない。しかし、今は犬になっているのは事実だ。事実を受け入れなければ、前に進むことは出来ない。ポチは自分自身にそう言い聞かせ、ハチと慣れない前足で握手を強く交わした。


 

はじめての投稿です。小説を書くこと自体も初めてですので、皆様からコメントをドシドシ頂けますと幸いです。

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