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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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エピローグ②

※ ※ ※ ※


 僕が目覚めると全てが終わっていた。

 真実を理解したリンは僕に詰め寄った。

 「エリク……このために、騎士を捕らえたのね。」

 「……そうです。僕達には神を殺す方法が分からなかった。どんな姿をしているのか、どんな力を持っているのかも、僕には分からなかったんです。だけど、外で手に入れた本に書かれている武器を、少しでも多く集めることしか方法が見つからなかったんですよ。」

 「そうね。確かに、女神の涙は武器屋では売っていないしね。」

 「そうです。ですから、ラスフィンヌ領主の馬車を狙ったんです。そうすれば騎士団が来るだろうっと思ったから。……少しでも多くの武器を手に入れるためとはいえ、あの騎士達には悪いことをしました。」

 「えぇ……。イシューに見せかけるとはいえ、あまりに……残酷だわ。もっと他に方法があったはずよ。」

 「……そうかもしれません。でも……僕は外の世界も、その常識も知らなかったんです。」

 そう告げる僕に、リンは最後にこう言った。

 「知らないというから許されるわけではないわ。知らないということも、時に罪悪になる。だけど、知る術を与えられなかったエリクの悲しみ、私は少しだけ分かるわ……。」

 「貴女が……?」

 その言葉を聞いたとき、僕はリンが背負っている何かを感じずにはいられなかった。

 「だから、今度は間違えてはいけない。大切なものをあなたの力で守って。」

 それが、何をさすのか、言われなくとも分かっていた。

 「必ず、守る。もう、同じ過ちは繰り返さないよ。」

 そう、囁くように呟くと、僕は眠るように倒れているユリヤの頬にそっと触れた。



※ ※ ※ ※



 私が目覚めると全てが終わっていた。

 あの悪夢のような夜からもう何日経っただろうか。

 昨日のことのようにも、また大昔のようにも感じられる。

 そして今、私は町の喧騒を聞きながら、白い花をつけた木を見つめていた。

 ラスフィンヌの町には当たり前のようにある木の、当たりまえのように咲く白い花。

 だけど、私には神木の花を思い出させる。

 あの日、彼女の剣は私を貫いていた。

 焼け付くような痛みと、息苦しさ、そして遠のく意識。

 それは死を初めて身近に感じた瞬間だった。

 今まで私には生きる目的が無かった。

 自分を大切だと言ってくれる人間もいなかった。

 だから村の為に死ぬことが私の生きる目的なのだと思った。

 死ぬために生きる矛盾。 


 だが死を目前にして、私はふと思ったのだ。

 私は誰かに必要とされたかった。誰かに必要とされれば生きる意味があるかも知れないとおもったから。

だけどそうではない。私が誰も必要としていなかったのだと気づいた。

 きっと私が人と共に生きることを望めば、自ずと誰かが私を必要としてくれるのではないか。

 命がけで助けようとしてくれたミランダや、最後まで約束を果たそうとしてくれたエリクがいるではないか。

 彼らにとって、私は「一番」ではないかもしれない。だけど、私を私として認めてくれる存在だ。

 私にとって、彼らは「一番」大切な人達。いつも笑っていて欲しい存在だ。

 それで、十分ではないのだろうか。

 そう考えたとき、私の中にある感情が芽生えた。


 ――死にたくない。


 私は最後の最後に人として生きることを臨んだ。

 だから、こうして今、生きている。

 別れ際、稀なる力を振るう聖騎士が私に語りかけた。

 「ユリヤさん。貴女が生きているのは、あなたが生きることを望んだから。もし、あの時、イシューと共に人の死すら望んでいたのであれば、あなたはきっとここにいない。」

 今の私には生きる目的があるのか。それは分からない。

 だけど、それを見つけるのが目的でもいい。

 今はただ歩いていこう。

 外という新しい環境の中、私が思う大切な人たちと共に。


  ユリヤ!

  ユリヤお姉ちゃん!!


 雑踏の中から私の名を呼ぶ声を聞いて、私は振り帰った。

 人の良さそうな義理兄と、元気に大きく手を振る義理妹の姿を認めると、私の顔が自然とほころんだ。

 だけど、チクリと、胸が痛んだ。

 胸元の痣を切り裂くようにつけられた傷跡。

 もう痛みはない。だけど痛むこの傷跡は私の罪の証。

 あの夜の悲劇は私の心の弱さが引き出した悲劇だから。

 だけど、それでも私は生きる。その罪を抱えて生きる。


 もう一度木に咲く白い花を見上げて、私は愛しい彼らの元に歩み出した。

 


                                             終

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