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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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エピローグ①



 エンティア国・王都フォンテーン。

 その王宮の一室、聖騎士団ウィング隊隊長の執務室では、史上最年少聖騎士であるリン・エスとラーダの声が盛大に響いていた。

 「はぁ!?また仕事ですか!?」

 「そうだ。」 

 「カナメ隊長……。前回も言ったかと思いますけど、先日ラスフィンヌの一件が終わって、私達は帰還したばかりですよ。休暇を貰える約束はどうするんですか!!」

 「前回も言ったはずだ。休暇が欲しければ聖騎士を辞めることだな。」

 リンの訴えを上司であるカナメは一蹴した。そして、根負けしたリンはしぶしぶと次の仕事を承諾し、部屋を出ることになった。

 執務室を出ると、その扉のそばで待っていたアンリの姿を認めた、リンは盛大なため息をついた。

 「アンリ……やっぱり休暇は無しですって。」

 「まぁ……そのようですね。」

 リンが大きな声でカナメに訴えていたので、外で控えていたアンリにも丸聞こえだったので、アンリは苦笑交じりに返答した。

 怒りながらずんずんと廊下を歩くリンと並んで、アンリも歩き出した。

 「でも、今日と明日くらいは王都に入れるようですし、少しゆっくりさせていただきましょう。」

 「ゆっくりって言っても、ラスフィンヌの件について、報告書を書かなくちゃいけないし、それだけでも一日はつぶれちゃうわよ。」

 「あ、その報告書でしたら、既に私が書いて出しておきました。」

 「え!?」

 予想外の展開に、リンは歩いていた足を止めて、アンリの顔を見上げる。

 アンリはいつの間にそんな仕事をしたのだろうか。

 ずっと共に行動していたはずなのに、報告書を書いているそぶりも気づかなかった。アンリが相棒となってから二年間が経つが、未だに得体が知れないというか、底が知れない。

 「なんて書いたの?」

 「もちろん、事実を。攫われた子供達は無事に確保し、今回攫われた子供達は親の元に引渡し済み。クグツおよびイシューは全て殲滅。」

 「まぁ……事実と言えば事実だけど。」

 「おや、釈然としませんか?」

 「ううん。……ありがとう。」

 「いいえ。あなたが決めたことです。私はそれに従ったまで。」

 アンリはリンの先手を打って動くことも多いし、リンが知りえない情報を知っていることも多い。

 今回の事件についてもそうだと思い、リンはその疑問を投げかけた。

 「そういえば、アンリ。どうしてあの神木がザゼルの力の源だと思ったの?それに、エリクに危険が迫ったらあの神木を狙うように言ったのは何故?」

 突然の問いかけにアンリは少し考えた後、悪戯めいて言った。

 「ふふふ。企業秘密です。」

 その言葉を聞いて、絶対にこの男には勝てない、とリンは思った。

 「ま、そのうち教えてあげますよ。リンが、私のことを思い出してくだされば、ね。」

 そうなのだ、リンがアンリと知り合ったのは聖騎士団に入る少し前のことなのだが、アンリはリンを昔から知っているというのだ。だが、当の本人であるリンにはその記憶が無かった。

 だから忘れられたアンリはこうやってそれをネタにリンをからかう癖がある。

 リンは少し不貞腐れ、再びずんずんと廊下を進んだ。

 そしてもう一つの疑問を口にした。

 「もし……あのとき、この力の意味を知っていたら、助けてあげれたのかしら……。」

 誰を、というのは敢えて口にしなかった。否、しなくてもそれはアンリにも分かることであった。

 だからアンリは静かに告げる。

 「そうかも知れません。でもそうじゃないかも知れない。あのとき、貴女は最善を尽くした。そのことを彼女も良く知っていました。だから、きっと既に彼女はあなたによって救われている。」

 「そう……かしら。そうだと、いいわね。」

 「ええ。だからこそ今回は最良の方法を選びとることができた。……彼女も分かってくれます」

 「うん。」

 リンは今回の事件と、そして過去の事件を思い出すかのように目を閉じ、息を小さく吐いた。

 過去は変えられない。だが、過去の悲劇から学んだことを生かすのは生者の義務だろうとリンは思った。

 「リン、帰ったらお茶をお入れしますよ。」

 「うん。ありがとう。楽しみにしてるわ」

 リンは相棒に微笑みかけ、家路へと急いだ。


※ ※ ※ ※



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