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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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終焉③

 ユリヤの瞳が一瞬揺らいだ。狂気に満ちた瞳は冷静さを取り戻し、ユリヤ本来の瞳の色に戻りつつあった。

 「あ……あ……。」

 小刻みに震えながらミランダから手を離すと、ユリヤは後ずさり、まるで全てを否定するかのように首を振った。

 「う……そ……。どうしよう。どうしたら……いいの……?」

 「ユリヤ。大丈夫だ!!」

 震えるユリヤをエリクは抱きかかえるようにきつく抱きしめた。

 混乱のあまり、口元を覆った両手が濡れていることに気づいたユリヤは小刻みに震える手を見つめ、息を飲んだ。

 「血が……私……が、皆を……殺した?私は、何をしたい……?どうしたら……いいの?血が欲しい。でも……それはいけない……分からない。お父様……私は、どうすれば……?」

 「大丈夫だ……ユリヤ。」

 エリクが必死にユリヤに訴えるが、ユリヤはその言葉に反応せず、ただひたすらにザゼルの姿を探した。

 「お父様!!」

 ユリヤが叫んだ瞬間、森から大きな爆発音がし、土埃が立ち上がった。その土埃の中からまず現れたのは、ザゼルだった。ザゼルの肩は左から大きく切り裂かれ、服の裂け目から生々しい肉の赤が見え隠れしていた。だが、ザゼルはその傷口を一瞬認めたものの、気にも留めないように薄く笑っていった。

 「さすがは聖騎士……。だが、お前の聖具はすでに機能しないだろう。」

 次に煙の中から現れたのはリンだった。リン左肩を抑えながら、よろよろと現れたが、その瞳から覗く闘志は衰えることなく、ザゼルを睨みつけている。

 「リンさん!!聖具が!!」

 ザゼルはリンのその様子を見て、思わず叫んでいた。なぜならリンの左手に填められていた聖具が粉々に砕かれていたからだ。

 その様子をザゼルは満足そうに頷き、切り裂かれた傷をもろともせずに、左腕を空へと掲げた。

 すると、湖面から水が呼び寄せられ、ザゼルの傷口に触れると、蒸気となって消えていった。

 「傷が……消えた!!」

 蒸気が薄くなると共に、ザゼルの傷も跡形も無く消えてしまっているのをエリクは見た。

 驚異的なその力にエリクの脳裏には絶望という文字がちらつき始めた。

 (聖騎士であるリンさんでさえ、あいつには敵わないのか……。)

 「せっかくの攻撃であったが、聖具がないとあっては、我を封じることはできぬのう。さて、どうする、聖騎士の娘よ。」

 余裕を見せる相手に、リンはしびれる衝撃で痺れる左手を、リンは二、三度振るうと、ザゼルに負けじと不敵な笑みを浮かべる。

 「そうね。聖具がなくちゃ、お前を封じることはできないわね。でも……私はお前を倒すわ。」

 「馬鹿か、そんな強がり、いつまでもつかな。」

 「さぁ、強がりかどうかは、お前の目で確かめて見ることね。」

 ゆっくりとザゼルに進みよるリンが、ザゼルを見据えたまま不意にアンリの名を呼び、右手を差し出した。

 「アンリ!」

 「それが貴女の願いですか?」

 アンリの問いかけに、当然とばかりにリンは頷くと、アンリがリンの元へ寄り添い、静かにその手を握り締めた。


            慈悲深き女神ラーダよ

        その身を切り裂き地に与えた奇跡の力

            わが身に請う

              翼よ 

          今こそその力、解き放て

             我ら女神の双翼となりて

                  永劫の闇を打ち砕かん


 リンの声がその力ある言葉を紡ぐと、音という音が一斉になくなったような気がした。一瞬とも永遠とも思えるような、深淵なる静寂。

 唯一許されるのはリンの詠唱だけ。そして、リンは叫んだ。

 「エストラーダの血を依り代に、開放せよ!」



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