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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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終焉②


 「アンリ!」

 告げたリンの言葉に合わせて、アンリが幾本もの短刀をザゼルに向かって放った。

 ザゼルは追い詰められるように、それを交わしつつリンへと急降下した。そして変形した鋭い爪でリンの喉元を切り裂こうと突っ込んでくる。

 リンはそれを剣で受け止める。力をこめた足元が、大地にめり込み、少しずつ後ろに追いやられる。

 「やっ!!」

 短い掛け声と共に、かけられる圧力を受け流したが、リンはそのまま後ろに弾き飛ばされた。

 ザゼルとリンの間にはかなりの間合いがあったが、ザゼルが大地を一蹴りしただけで一気にそれをつめる。

 だがリンはそれを読んでいたかのようにザゼルへと向かって攻撃を仕掛ける。

 目にも留まらぬとはよく言ったものだが、力と力のぶつかり合いはすさまじく、殺気によってびりびりと空気が張り詰めている。

 エリクはそれを微動だにせず見つめていた。が、次の瞬間、リンがザゼルの攻撃によってはじき飛ばされた。

 轟音と共に、リンは森へとはじき飛ばされ、そのまま木々をなぎ倒していく。

 普通の人間であればあの攻撃を受ければ即死だろう。

 だが、リンが飛ばされた方向に向かってザゼルが向かっていった。リンへとどめを刺すために。

 それを見て、エリクは思わず叫んでいた。

 「リンさん!!」

 思わず駆け出そうとしたエリクをアンリは制止する。リンの相棒である青年はその光景に動じることなく、臨戦態勢に入った。

 「大丈夫です。……それよりも、私の後ろにいてください。」

 「でも!!」

 「リンの異名を知っていますか?」

 「え?」

 「リンはこう呼ばれています。『最強の聖騎士』と。」

 「最強の……聖騎士……。」

 「だから、大丈夫です。それに…リンはまだ私を呼んでいない。だから平気です。」

 アンリのその言葉を聞いたとき、エリクはリンとアンリにある絶対的な絆を感じた。

 「貴女の相手は、私ですよ。」

 「え?」

 そのアンリの言葉はエリクに向けられたものではなかった。それはユリヤに向けられた言葉。クグツではない彼女は自らの意思で、エリクたちに立ちふさがっていたのだ。

 「エリク……兄さん……。やっぱり、私を一人にするのね。」

 「ユリヤ……。」

 ユリヤは悲しげに言ったとたん、狂ったように笑い出し、そしてエリクを襲い始めた。

 それをアンリは短刀でとめる。反対に攻撃をしようとするアンリをエリクは止めていた。

 「や、やめてください!!ユリヤを傷つけないで!!」

 「エリク……。気持ちは分かりますが、あの子は人間ではない!!」

 「でも、ユリヤです!」

 ユリヤは赤い目を見開いて、今度はミランダへと襲い掛かった。

 ユリヤの鋭く伸びた爪がミランダの方に食い込む。そこから赤い雫が流れ出し、ミランダの服に赤い染みを作った。

 「ユリヤ!!止めるんだ!!」

 だが、エリクが静止する声ももはやユリヤには聞こえていないようだった。

 ユリヤは大きく口を開き、ミランダの首筋に狙いを定める。

 艶かしく歪んだ口元から除く牙は唾液にまみれ、イシューに襲われたことをミランダに思い出させた。だが、ミランダはそれを静かに見つめ、一筋の涙を流した。

 ユリヤにつかまれた肩が痛いわけではなく、また恐怖からの涙でもない。ただミランダは悲しかったのだ。

 優しかったユリヤが変わってしまったことに。そして、ユリヤを助けられなかったことに。

 だから静かにその名を呼ぶしか、ミランダにはできなかった。

 「ユリヤ……お姉ちゃん……」

 名を呼ばれたユリヤは一瞬、動きを止めた。

 「ミ……ランダ……。わ、たし……は……」

 「ユリヤお姉ちゃん……。優しいお姉ちゃんに……戻って。」



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