異形の者④
「駄目だ……ユリヤ、そんなことは……駄目だ!!」
襲われている男を助けるというよりも、それを命じたユリヤの罪を思い、エリクはそれを止めようとし、その言葉を紡いだ。
それは一度だけ聞いた魔法の言葉。この聖具の力を最大限に発揮させるための、聖なる言葉。
慈悲深き女神ラーダよ
暁の光の如く
その聖なる力で闇を切り裂く力を
我が手に
「聖具・解放!」
掛け声と共に、現れたのは弓。だが与えられたのはたった一本の矢だった。
「僕の力では……これが限界か……。」
エリクは呟くとそれをゆっくりと構えた。手は慣れない武器を持つ振るえ、思うように狙いが定まらない。だが、この一本の矢はエリクの希望だった。
「もし……本当に僕らを救ってくれる神がいるというのであれば……当たれ!!」
エリクは叫びながら矢を放つ。それはザゼルへ向かって迷い無く飛んでいった。
「ふ……小癪な……。」
ザゼルは悠然とした面持ちでそれを交わした。エリクの放った渾身の力はザゼルにかすり傷一つつけることはなかった。
「はぁ……はぁ……」
体力というより気力を使い果たし、エリクはがくりと大地にひざをつけ、荒い息をした。体内の血液が沸騰するように熱くなり、エリクは自身が燃えているのではないかと錯覚した。
聖騎士という能力者たちは、これを平然と使うのであろうか。であれば、やはり常人ではないのだとエリクは痛感していた。
「残念であったな。若造よ。そなたの力は、もう残っていまい。その覚悟に免じて、そなたは我が喰ろうてやろう。」
鳥肌が立つような美声が空から降ってくる。だが、エリクは思わず笑いが出た。こぼれる笑いを聞き、ザゼルが怪訝な顔をした。
「なんじゃ……?」
「良かった……神様は、本当にいるかもしれない。」
そのときだった。神木がメキメキという音を立てながら真っ二つに割れ始めた。その根源となっているのは一本の弓矢。
「僕の狙いは……神木だ!」
「な……に……?」
あの時、ミランダが告げたアンリからの伝言には続きがあった。何かあったら神木を狙えというもの。
その時は意味が分からなかったが、今ならその意味が分かる。
なぜならあのアメジストの瞳の青年が言っていたではないか。
『女神ラーダはあなたを救う』と。
そして彼女は現れた。眩い光を纏って。




