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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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異形の者③



 「う……うわぁ!」

 思わず手で顔を覆ったとき、バチッっという短い音と光と共に、その霧が一瞬にして消えた。

 ふと己の手を見ると、左手にはめた聖具が煌々と赤い光を放っていた。

「聖具の……力?」

 これが聖騎士が持つという聖具の力の一旦なのかもしれないと、エリクはぼんやりと思った。とりあえず、聖具の力によって、エリクにはこの毒の霧は無害化しているのだということが理解できた。

 「ミランダ!!」

 自分の身の安全が分かったとき、脳裏をよぎったのは一番親しい義理妹の身だった。神歌が歌えるということで幼いながらも祭りにつれてこられてしまったミランダは、村人が死に逝くという惨状の中でどうしているのか心配になった。

 「ミランダ!!どこだい!?」

 「エリクお兄ちゃん!!村長たちが!!」

 声のする方に駆けていくと、村長がミランダを襲っている光景が目に飛び込んできた。

 「な……何が、どうなっているんだ!?」

 「助けて!!やめて!!長様、離して」

 エリクは村長を突き飛ばし、ミランダを自らの後ろに隠すように庇った。緩慢な動きで、突き飛ばされた村長は、ゆっくりと立ちあがった。そしてその村長の顔を見て、エリクとミランダは驚愕に息を飲んだ。

その顔は土気色をしており、その瞳はあの神と同じに赤い瞳だったからだ。

 光のないそのよどんだ赤い瞳は、すでに村長が人間ではないことを物語っていた。

 エリクとミランダは恐怖のあまり息をするのも忘れてじわりじわりと後ずさった。このまま後ろを向けば村長が襲い掛かってくるような気がしたからだ。

 だが、その時エリクは気づいた。村長だけではなく、長老をはじめ、年を重ねた村人達は皆同じ状態になり、自分達を取り囲み始めたことを。

 まるで何かに操られているように、ゆっくりした動きでうごめく姿は異様な光景としかいえない。

 「ねぇ……エリク兄さんも……仲間になりましょうよ。」

 少し離れたところでユリヤが微笑みながら問いかける姿をエリクは認めた。

 「どういうことだい!?これは……これは一体どうなっているんだ!!何で……村長や長老達が……こんな姿になっているんだ!?」

 正直、エリク自身も混乱していた。何が起こっているのか理解できていなかった。

 「これ?これは、私のおもちゃよ。クグツというんですって。お父様が下さったの。」

 「クグツ?」

 「そうよ。村の皆はこの湖と同じ水脈の水を口にしていたでしょ?だから、体がイシューに近い存在になっていったんですって。」

 「イシューって……あの化け物?」

 「失礼だわ。神様の眷属よ。」

 ユリヤは心外だとばかりに眉をひそめた。

 「今、お父様が復活なさったでしょ。だからその力に引きづられてクグツになっちゃったんですって。……お父様はクグツに興味がないから、私にあげると言ってくれたのよ。」

 それはまるで子供が欲しがっていたプレゼントを与えられたかのように、嬉しそうにユリヤは笑いながら言った。

 「例えばほら……こんな風にして遊ぶんですって。」

 ほらとユリヤが指し示した先には、年若い男がクグツ達に捕らえられていた。その男もまたエリクとともに自由を目指した同士の一人だった。

 「ユリヤ……助けてくれよぉ~」

 男は泣きながらユリヤに助けを請うた。だが、ユリヤはそれすらも面白そうに見つめていると、クグツ達に命じたのだ。

 「みんな……お食べなさいな。」

 それを合図にクグツ達は男に襲いかかった。

 

 ギャー

 

 叫びが闇夜にこだまする。エリクはなすすべも無く、立ち尽くしたままそれを見つめていた。

 現実に起こっていることが現実として受け止められない、そんな感覚だった。

 その時、エリクの脳裏にアンリの伝言が思い出された。

 『あなたの思いは強運を引き寄せた。女神ラーダはあなたを救う』

 それが何を意味しているのかはまだ分からなかったが、エリクはその言葉に励まされた。事態は最悪だった。

 本来であれば手に入れた武器を使ってあの異形の神を殺し、そして村からも自由になるはずだった。多くの若い村人はそれに賛同し、共に戦うはずだった。

 だが現実は復活した神が圧倒的な力を持って、村人達を殺し、そしてユリヤもまた異形のものになってしまっている。



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