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散り逝くは真紅に染まりし花  作者: 天野 みなも
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予感⑤


 「ぎゃしゃぁぁ」

 奇声を上げながら、さらにクグツが襲い掛かる。リンは反射的に横に逃れ、状況を把握しようと前方を見据えた。

 気づけば、かなりの数のクグツが集まっている。どうやら、村丸ごとがクグツの巣のようになっているようだ。

 「どうして……こんな?」

 普通、イシューがクグツを生み出す方法は、襲った人間に自らの力を与えてクグツとするのが一般的だ。そのイシューの力に適性があれば、その人間はそのまま『人型』のイシューとして生きることとなる。逆に適性が無い場合、クグツとして操り人形のごとく、イシューの道具とされてしまうのだ。

 ついさっきまで人として生きていたこれだけ多くの村人が、一瞬にしてクグツになることなど、あるのだろうか?

 クグツ達の攻撃をかわし、いくつかを浄化しながら考えていた。

 気づくと、森の道に沿って流れる川べりに降り立ちながら、クグツと対峙していた。

 襲い掛かるクグツを一体、また一体と土へと還す。だが、急に背後から襲われたリンは、バランスを崩し、そのまま川へと足を踏み入れながらも、体制を整えその攻撃を受け止めた。

 クグツの持つ強力な爪とリンの剣とで鍔迫り合いが続き、薄暗い森の中で火花が煌く。

 「きりが……ない!!」

 はぁぁぁという掛け声と共に、力任せにクグツを突き飛ばし、その隙に袈裟掛けに切りつける。

 女神の力をもったその剣は、青白い光を放ちつつ、煌々と光り輝いていた。

 その光に照らし出されるリンの顔には、わずかながらも憔悴の色が見え始めていた。はぁはぁと肩で息をつき始めたリンだったが、まだクグツの数はまだあと十数体もいる状況だった。

 (アンリがいれば……)

 自分の相棒である青年の顔を思い出す。が、今の状態ではそのような期待をもっても詮の無いことだった。

 リンは剣をクグツ達に剣を構えたまま、相手の出方を待っていた。と、足に違和感を感じて眉宇をひそめた。

 どうやら戦いに夢中になって気づかなかったが、川の浅瀬へと入ってしまっていたようだ。

 そのときだった、リンの右足を何かが捉えた。

 「!?」

 反射的にそれを振り払おうとした足を、何かががっちりとつかみ、そしてそのまま川の深みへと引きずられ、川底に引っ張られた。

 もがき、水面に手を伸ばすが、空しく空を欠くだけであり、一方足をばたつかせて抵抗を試みるが、見えない何かはリンの足を離してはくれなかった。

 その力の正体を見ようとリンは足元を見るが、目には見えないものであった。

 吐き出す息がごぼごぼと泡となり、水面へと上がっていく。もがきながらリンは強力な力によって上流へとものすごいスピードで引っ張られていく。

 流れにさからって自分を連れて行くこの力が帯びる嫌な感覚には覚えがあった。それは初めて神木を目にしたとき、ミランダが神歌を歌った直後に感じた、蛇のようにねっとりとした嫌な感覚に近いものであった。

 不意に、アンリの忠告を思い出した。

 『リン!!水に……気をつけてください。』

 今更、その忠告の意味を知って、リンは激しく後悔した。

 この水はイシューの持つ妖気を帯びているのだと。だから、アンリはあの時自分に忠告してくれたのだ。

それなのに自分は迂闊にも敵のもっとも得意とするフィールドに足を踏み入れてしまったのだ。

 だが、これで村人がクグツとなった理由が分かった。が、全ては後の祭り。

 相変わらず足をつかむ力も、自分を引き寄せるスピードも緩むことは無い。濁流の中で、リンの息はもう限界に来ていた。

 次第に朦朧とし始めた意識の隅で、自分の迂闊さを呪いながら、リンは意識を手放した。


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