祭りの刻①
日は沈みかけていた。
空を覆う雲は夕日によって赤く染まり、これから始まる妖しげな祭りを、いっそう妖しげに感じさせた。
そう、これから執り行われる「祭り」は、村の存続に欠かせないものだ。
あの村に住まう人間にとっては、欠かすことのできない祭り。
それは偏狭の地にあって村を守る神への忠誠であり、そして村長を頂点とする組織構造を確立するための儀式でもあった。
いつもは人々に蔑まれているユリヤは、いまや村人達にとって神の化身であり、村長と同格の最高位の扱いを受けている。あれほどまでに蔑んでいた村人達の豹変振りに、僕はもう嘲笑すらできない。
「エリク兄さん?」
純白のドレスを身にまとい、ユリヤが訝しげに僕を呼んだ。
袖が柔らかい印象を与えるドレスであったが、襟元が大きく開き、胸元からは赤い花のような痣が見えている。
いや、むしろその痣を見せるために大きな襟ぐりになっているといってもいいだろう。
白のドレスに赤い痣、そして結い上げたユリヤの赤毛が不思議な妖艶さを醸し出しており、僕は思わず見とれてしまった。
「兄さん?どうしたの?本当に、変よ。」
「いや……。ユリヤが綺麗だから……なんか不思議な感じがして。」
僕が正直な感想を言うと、ユリヤはまた悲しげな顔をして微笑んだ。だが、僕はそれをみて心が痛んだ。ユリヤの微笑みは、まるで全てをあきらめたような微笑だったからだ。
僕の眉宇が無意識のうちに歪んだ。
そんな僕を励ますように、ユリヤはゆっくりと僕に向かうと、まっすぐに言葉を紡いだ。
「兄さん。今まで優しくしてくれて、ありがとう。それと……私のことは、気にしないで。兄さんが悪いわけではないわ。何も持たない私が村のために何かができるだけで、本当に幸せなのよ。」
その言葉を聴いて、僕はユリヤを抱きしめたい衝動に駆られた。が、僕はその代わりに自らの手をぎゅっと握り締めた。
僕が悪いわけではない、とユリヤは言った。だが、それは同時に贖罪の機会さえも与えてくれないということだ。そんな必要はないと、彼女は言うのだ。
あの時、僕があの手を離さなければ、ユリヤはあの無邪気な笑みを失わずに済んだのだろうか。
裏切った僕の言葉に傷ついた幼いユリヤの瞳を、僕は今でも覚えている。
「ユリヤ……僕はあきらめないよ。遅いかも知れないけど、僕は最後まであきらめない。」
ユリヤは僕の言葉を聴いて大きく目を見開くと何かを言おうとして口を開いた。
そのとき、時間を告げる使者が現れた。
ユリヤはそのまま言葉を飲み込むと、何か言いたそうに、そして少し悲しそうな顔をしたが、使者に促されるまま、僕に背を向けた。




